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それは突然のことだった。
親友だと思っていた奴にーー…。







_____
好きなら
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




放課後の教室。
いつもなら喋り声や部活の熱気ある声が聞こえ、ざわめいた。しかし今日はテスト週間であり、天気が悪く激しい雨が降っていた。

そのせいで教室には俺と佐々木しかいない。一つの机で向き合いながら、勉強をしている。

静まり返った教室で、雨のドッドッと叩きつける音が響いていた。

「なぁ……。」

佐々木がシャーペンを持つ手を止め、俺を見つめてきた。

「ここ、わかる?」

佐々木が指さしたところを、俺は見ようとして佐々木に顔を近づけた。

「ああ、これは……」

俺が問題を解説しようとしたとき、不意に頭が真っ白になった。

唇に生暖かいものがあたっている。
眼前には佐々木の顔。今の状況を理解するのに頭がついていかない。

俺は今何をされている?
もしかしてー…


キモチワルイ



そう思った瞬間、俺の右手は動いていた。

パンッという小気味よい音がした。


唇から離れた。佐々木は頬をおさえながら、俺をじっと見つめる。その視線から逃れられない俺。

端から見れば、ただ見つめ合っているだけなのに。そこには人生すべてをかけた勝負のような緊迫さがあった。

目を逸らしたら負けだ。なぜかそう思った。

しかし佐々木の視線は痛く、絡みつくように俺を捕らえる。身動きできなくなる。少しでも気を抜いたら佐々木にのみ込まれてしまいそうだ。

たった数分なのに何時間もすぎた気がした。


長く重苦しい沈黙は佐々木によって破られた。

「俺たち……」

佐々木はその先を言わず、一度口を閉じた。眉間にシワをよせ苦渋の表情をしている。

俺はその続きが恐ろしかった。その先を聞くと、なにか変わってしまいそうで。 漠然とした不安が俺にのしかかる。唇が乾き喉が張りついた。

佐々木は覚悟を決めたのか、重い口を開いた。

「友達やめよう」

表情とは裏腹に淡々とした口調だった。
苛つきが俺をチリチリと焦がす。

「は? 冗談だろ…っ」

無理矢理つくった笑顔が歪む。口端が引きつる。まだ唇に違和感があって嫌悪感がおさまらない。

でも、今なら許すから。ごめん、冗談だ。そう笑ってくれたら。元の俺達に戻れる気がした。

「もう無理なんだ」

佐々木は俯き目を伏せた。さっきと変わらない、冷静でいてどこか諦めたような口調。

それが俺の癇に障る。俺達は親友じゃなかったのか。こんなことくらいで、お前はやめるのか。

「なんでだよ…っ!さっきのは、なかったことにしてやるから。友達やめるなんて言うなよっ!!」

「なかったことになんて出来ない!それに、なかったことにしないでくれ……。これ以上、無視しないでくれよ」

何を?そう野暮な質問をするほど俺は鈍感じゃない。感情を露わにした佐々木を見てれば、すぐわかる。わかりたくなかったけれど。

佐々木のことは大好きだ。
でも、同性なんだ。俺にはそういう目で佐々木を見れない。

俺にとって佐々木は最高の親友。
それ以下でもそれ以上でもない。

「ごめん」

「謝らないでくれよ。余計に惨めになるじゃないか」

佐々木はもう俺を見なかった。気まずそうに目を逸らし、今にも帰りたそうな顔をしている。

ひどく居心地が悪かった。俺達がさっきまで親友だったとは到底思えない空気。

俺はそれが嫌で嫌でたまらなかった。走馬灯のように佐々木との思い出が甦る。

学校帰りに寄り道したコンビニ。2人で1つの肉まんを半分こにして。他愛もない話をして笑ったりして。冷たい風が吹く寒い冬でも、佐々木といると暖かった。

なあ、本当に俺達は終わるのか。
お前はそれを望んでいるのか。

「佐々木……」

かすれたような声が出た。喉に固く重いものが詰まり、思うように言葉が出てこない。
けれど今言葉にしなければ、佐々木は手の届かないどこか遠くへ行ってしまう気がした。

「俺は、友達をやめたくない…っ。佐々木と一緒にいたいんだ」

震える手を懸命に握りしめた。小さく小刻みにカタカタと歯が鳴る。

多分、俺は怯えてるんだと思う。佐々木を失うことに。










「ごめん」



佐々木はそう言い残すと、教室を飛び出していた。一度も、俺を見ずに。













「な…んで…っ…だよ……。」

俺は机に俯せながら、握り締めた拳を机に思いっきり叩きつけた。手に痛みがあるはずなのに、何も感じなかった。それ以上に、胸が痛かった。


もう、佐々木は親友でも友達でもない。
もう、一緒に過ごしたあの日々は戻らない。



俺はただ傍にいて欲しかっただけ。
それくらい、いいじゃないか。


俺のこと本当に好きなら。


キスなんてするなよ。好きだって思うなよ。友達やめよう、なんて言うなよ。冗談だよ、って笑えよ。



"ごめん"なんて言うなよ。
余計に惨めになるじゃないか







2009/02/11
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