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木漏れ日〜red sky〜
R指定:---
キーワード:切なめ片思い
あらすじ:ひらすら眠る男と、寝床になる男の話。*番外編(本家「木漏れ日」のカップルとは異なります)
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今日も君と、ここで過ごす。
古びた校舎裏は、長い年月のなか蓄積した汚れで壁は真っ黒に染まり、剥き出しの排気口は風で煽られるたびに赤錆を降らせた。日中のほとんどが影に隠れるため、そこら中に生えた草には朝霜の水滴が残っており、囲う空気にじんわり湿気を帯びている。
自然と人を寄せ付けない場所だからこそ、僕らは他人の目を気にせずに、ここでゆっくりとした時間を過ごせた。
こんな場所でも、限られた時間だけ太陽の光を向かえる。
真っ赤に燃える太陽は、心なしか寂しさを覚えて、暮れゆく空に焦りを感じた。
身を竦める程冷たい風が吹き、夕日に染まって鮮やかなオレンジの光沢を放つ君の髪が揺れ、僕の手の甲に絡んで、指先を滑っていく。
眼下で眠る君が目を覚まさないように、その毛先だけ指先で触れて、摘んで、膝の上で安らかな寝息を立てる君だけを見ていた。
君はきっと、何も知らない。
傍らに投げ出した雑誌を、僕がまだ読んでいると思ってる?
実を言うと、借りた雑誌は半分も読んでいなかった。
長い時間の大半を、君を眺めて過ごしている。
君はいつから、ここで眠るようになったんだっけ?
長めのマフラーを重々に巻き、ロングコートの前を固く閉じて、冷たいコンクリートの上で膝を折って眠る君。はじめ肩に乗っていた頭は、ある日寝ぼけてズレ落ちたことをきっかけに、その所定位置を太股に変えた。
なぜ今まで気付かなかったのだろうと、何の遠慮もなく、はたから見ればふてぶてしく、君は僕の足を枕にした。
深い眠りを阻害されて少し機嫌悪そうにしていたが、膝の上の快適さが気に入ったのか、無造作に手足を伸ばして今までより一層深く寝入るのだった。
それ以来ずっと、君はここで眠っている。太陽の恩恵を受ける僅かな時間、僕は君を独占できた。
徐々に色濃く紫がかる空を仰ぎ、刻一刻と力を失う太陽を見送りながら、迫りくる時間に悲嘆する。
もう少し、もう少しだけ-----。
コートのポケットに隠れた携帯が鳴れば、君は起き上がって眠たい目を擦りながら去って行くんだ。
寝るときと同じく、何も言わずに、無遠慮に、僕には一切お構いなしで、淡い期待を抱かせながら最後には背中を向けるんだ。
出来るならば、その背中に追いすがりたい。
君となら、どこへだって行けるのに。
冷たい風。昨日は少し温かだったけど、また急に気温を下げたね。
不安定な時節。時折、垣間見せる春の兆しが、僕を更に煽った。
卒業後の君を、僕は何も知らない。
この場所だけが、僕と君の唯一の接点だったのに、卒業したら君に会えなくなる。
何気なく聞いたこともあったけど、元からあまり喋らない君からは無言が返えされた。
僕が弱いから聞けないんじゃない。
君のそばにいれるなら、僕はいくらでも女々しくなれるよ。
そうじゃないんだ。
必要とされないよりも、『関係ない』と言われることを恐れている。
以前、突き放された肩の痛みを今も覚えていた。
『俺に関わるな』
君の冷ややかな双眸と、乾いた台詞。けれど言葉と態度とは裏腹に、押した手に力は感じなかった。
ねぇ、君はどうしてここで眠るの?
君は、他人に対して妙な期待を持たせる人間じゃないだろう。
もっと都合のいい場所があるはずなのに。
僕は、別に温かな場所を用意できるはずなのに。
あえて君を、こんな寒空の下で寝かせてるんだよ。
どこかで無機質な音が鳴っていた。
暮れゆく僕らの世界で、微かに震える不快な音。
僕はさっと髪から指を離し、冷たいコンクリートの上に手をついた。
背中を駆け上がる冷たさと、足に感じる温かな重み。
別れの合図が鳴り始め、君が不機嫌に起き上がるまで、あと少し……。
あともう少しだけ、君のそばにいさせて。
END
*最後まで読んで下さってありがとうございます。
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2007/02/11
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