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 わがままプリンス
© やさグレン 
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 R指定:有り
 キーワード:ノンケ、男娼、甘々、純愛
 あらすじ:「一晩買ってよ」客を探して路頭に迷っていた男娼を、興味と情けから買った男との物語。
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ある晴れた日曜日。

橋本瑞貴(はしもとみずき)はとある繁華街にいた。

真っ昼間の街は、つい今しがた営業を終えたばかり。

夜とは打って変わって静けさを取り戻し、明るい眠りに就こうという所か。

騒がしい事が嫌いな橋本にとってはうってつけの穴場なのだ。

しかし、今日は違った。


「お兄さん、ヒマなら遊んでよ」

「んあ?」


まだ一人、夜の零れ人がいたようだ。


「昨日、売り上げが悪くて。一人でも捕まえて帰らないと、怒られちゃうんだ」


肩の開いたTシャツワンピース。下にかけて裾が広がり、むき出しになった素足が艶めかしく見える。

3月の半ば。

まだマフラーにコートを手放せないでいる人もいる季節に、薄い布一枚纏(まと)っただけの恰好は、あからさまに男性客を誘い込むための店が用意させた衣装なのだろう。

小ぶりで可愛らしい唇をキュッと上げた小悪魔が、橋本に「1時間買ってよ」と言い寄ってきたのだ。



「………俺?」


と、自分を指さして聞き返したのは、仕方ない事かもしれない。

色白で華奢。加えて独特の人を誘う魅力的な容姿を持つ相手は女ではない。

ふわりとした髪が見ていても柔らかそうで、肩近くまで伸びたアイリッシュブラウンのヘアカラーもよく似合っている。

上目使いに見上げる子猫のような気品も、支配欲を持った男からすれば、大いにそそられるところだろうが、その相手はどう見ても少年なのだ。

それもかなり若い。

見た目で判断すると、15、いっても16,7というところか。

確かに、裾から覗く白い太腿といい、小柄な体格といい、少しでもその気のある男にしてみれば口から涎ものの美少年なのだろうが、橋本は女性はおろか、恋愛にすらあまり興味を持ってない。

そこへ来て、明らかにノンケだろうと見受けられる自分に「遊ばない?」と声を掛けて来た事が不思議でならないのだ。


「俺、ホントはこんな事したくないんだけど、どうしてもお金が必要で……。お兄さんなら優しそうだからイケるかなって」


恥ずかしそうに足を閉じてシャツの裾を握りしめる。

長い間この恰好で街中を彷徨い続けていたのか、顔も青白い。


(なるほどねぇ)


もともと同性愛には理解のある方だと思う。

自分の周りに、そういった輩が多いというのも一つの理由かもしれないが。



「んじゃあ、あそこのホテルで。誘われたわけだし割り勘な。無理なら他当たって」

「ううん、十分だよ。ありがとっ」


普段他人の為に動くことは殆どない。

そんな橋本が1時間2万も出してまで少年を買ったのは、ほんのわずかな情け心と、同性愛に対する少しの興味も入り混じっていたのかもしれない。



***



(アイツ、年上のクセしてケチくせえ)


ムカツク、と凛とした少年の綺麗な声がシャワーと共に流れ落ちる。

この街のナイトクラブNO1のホスト、晴翔(ハルト)は、先ほどまでの愛くるしい少年の仮面を剥ぎ取るとチィっと憎らしさを込めて舌打ちする。

自他共に認めるカリスマホスト、陵晴翔(みささぎはると)とは正に彼のこと。



一席のマージン1000万とも噂される彼がエルメスオーダーメイドの純白のスーツを纏って夜の街へ繰り出せば、人間離れした美貌に魅せられ、何をするでもなく、男女と言わず、客の方から彼に近寄ってくる。

勿論金に困っているわけではない。

彼の売春まがいの性行為は、クソつまんねえと反吐をはく世界で見つけた楽しい『遊び』なのだ。

鶏冠(トサカ)のように盛り上がった髪を撫でつけ、街中のセレクトショップで引っかけた、ユニセックスな衣装を纏う。

さらに自信に満ちた顎を引いて上目使いにちょこちょこと歩いてみせる。

剥きだしの素足を恥ずかしそうに閉じて歩くイタイケな美少年が、まさか陵晴翔とは、誰も疑いもしなかった。

それは日々人形のように愛でられている晴翔だからこそ生まれた遊びなのかも知れない。

例え仕事だと割り切っていたとしても、過ぎた鑑賞はストレス以外の何物でもないのだ。


狙うのは、20代後半のあまり遊び人じゃない奴。

夜の雰囲気に不慣れな方が、顔バレしにくいという、完全なる確信犯だ。

ある男性客からの誘いに乗ってセックス紛いの遊びを体験してからというもの、抱かれる悦びというものに体が目覚めたらしい。

そのため選ぶのは、もっぱら男。


(気持ちよくしたげて、俺も気持ち良くなって、はした金でも貰えりゃサイコー)


だという事だ。

セックスする時のルールは2つ。

行為中も終わった後も、決してキスはしない事。

そして、お互いのプライベートに口を突っ込まない事。

後者は、証拠隠滅ため。

そしてキスは、好きな相手とするものというポリシーが未だ晴翔の胸にあるためだ。

見知らぬ他人にガバガバ足を開けておいて、今更な感じも否めないが。

性欲を貪るだけのセックスと違い、唇と唇を重ねる行為は、心を通わせ合う特別なもの。

幼い頃に見たドラマのセリフを鵜呑みにして、未だにキスとは厳かな愛の儀式であると信じてやまないのだ。


(今回の兄ちゃん、顔はソコソコだけどケチくせえトコが気に入らねえ)


これから、そのどケチな男に身も心もメロメロに堕ちてしまうことなど、今の晴翔には想像も出来ないだろう。

程なくして薄紅色に染まった体にバスローブを羽織ると、再びイタイケな美少年の顔に戻り、バスルームを後にした。

ラブホテルの薄暗い室内。

一歩足を踏み入れたところで晴翔の足は止まる。

エアコンの室温が高いのか、上着を脱ぎ捨てTシャツ一枚になった橋本が、咥え煙草でゆったりとベットの上に座っていた。

これまで相手して来た男らといえば、本能むき出しで今か今かと晴翔の風呂上りを待ち構えていた輩ばかり。

これほどに余裕しゃくしゃくで、しかも服も脱がずにリラックスした様子で「おお、早かったな」などと言ってのけるのは、橋本が初めてだった。

しかし気に要らないのはそこではなく。

気怠そうに顔を斜めに逸らしてふーっと煙草を吐く、橋本のクセ。

何気ない動作に大人の魅力を感じ、ドキリと心臓が波打ったことだ。


(な、なにコイツ、余裕ぶっこきやがって。ぜってーベットで化けの皮剥がしてやる)


橋本が元々タンパク主義者などと言う事は、出会ったばかりの晴翔はもちろん知る由も無い。


「俺、別に風呂いいから。んじゃ、脱げばいいの?」


春の桜を思わせる、ほんのり上気した晴翔の色香にもびくともせず、橋本は淡々と自分から服を脱ぎ始めた。

この界隈を唸らせた、カリスマホストのプライド、そして奇しくもときめいてしまった屈辱を果たすため。


(何としてもこの男をベットの上で泣かせてやろう)


初めて出会うタイプの掴みどころのない男に、これまでにない強い執着を感じた。




***



目の前の光景に、ワナワナと震える。


「し、信じらんない……っ」


思わず自分のキャラも忘れ、独り言まで言いだしてしまう始末。

ベットに上がった晴翔の前には、Tシャツもジーパンも、トランクスも何もかも脱ぎ捨てた橋本が、仁王立ちしている。


「何が?」


と首を傾げる男のブツは、ちっとも頭を擡(もた)げてこない。

反応していない、つまり、勃起してないという事だ。


「何で……何で勃ってないの? 何でぇ?」


健全な男ならば、前戯の前から雄は興奮して勃起しているものだ。

というのがこれまで色々と経験済みの晴翔の中での常識であった。

いくら外面がポーカーフェイスでも、ココだけは心のように隠しようがない。

本能の赴くままに、邪(よこしま)な男の欲望をそのまま勃起に変えてしまうのだ。

そこが反応していないということは、自分に性欲を感じていないということ。

……つまり、橋本からすれば晴翔にそこまで魅力を感じてはいないという事だ。


「何でって、なんにもされてねえのに反応しないでしょ、普通。んじゃ元気にさしてよ」

「………!!!」


く、悔しい悔しい悔し〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!

普通!?

普通ってなんだよ!?

俺の中じゃこの時点で勃起してないなんて、全然フツウじゃないし。

元気にさしてとか、何気に俺様かよ、コイツ!!!


ふ、ふざけんじゃ……、


「ん……っ、んぐっ!」


ふっざけんじゃねえぞ!!!!




最早、晴翔の願いは橋本を興奮させることだけ。

今まで男の体を玩具のように扱って来たはずの少年が、自ら進んで男のペニスを口の中に咥えこんだ。


これは遊びなんかじゃない。

俺の、陵晴翔としての男の威厳を掛けた闘いだ!


橋本を選んだのは自分だという事はこの際忘れ、晴翔は初めて性行為に没頭していた。

愛のない性欲を貪るためと称した見知らぬ男とのセックスに、感じた事のない興奮を隠せないでいたのだ。



「ふ……っんむっ……、んっ」


じゅぷり、じゅぷりと唾液が舌とペニスに混ざって卑猥な音を上げる。

男のペニスを、これまでにないほど、とても丁寧に舐め上げた。

睾丸と根本の境目から舌で丹念にねぶり、裏筋から亀頭まで、舌だけを這わせて上下に何度も行き来する。

次第に容量を増し、大きくなった橋本のそれを見、もっと昂らせたいと必死になる。


「はんっ……ん……んっ……」


小さな口いっぱいに橋本のペニスを頬張り、フェラチオする。

くちゅん、くちゅんと音を立てて、喉の奥までつくように、激しく頭を動かした。

トロリ、と口内に、塩気の混じった粘膜質が溶けだした。

――――橋本の、先走りだ。


「んん……っ」


さっきまでの様子が嘘のように、自分の愛撫に感じている。

晴翔のペニスは橋本への奉仕だけで勃起しすぎて痛いほど興奮し、自分も先端から愛液が零れている



「ハア……」

(え……)


卑猥な音が飛び交うなか、確かに聞いた。

自分のフェラチオに感じ、溜息をもらす、橋本の声を――――。

ゾクゾクゾク……と得も言われぬ感情が背筋を突き抜け、体を震わせた。


「上手いなお前……。気持ちいい」


と、今度ははっきり聞こえる声でささやかれ、ひざまづいて一生懸命に奉仕する頭をヨシヨシと撫でた。


「………!!!」


びゅくびゅくびゅく!!と、自分のペニスが弾けて精子を飛ばす。

気持ち良くさせている筈の自分が、橋本の声に感じて、果ててしまった。


(ひ……、う、うそ……)


口の中のモノは、依然として大きく張りつめたまま。

それなのに俺は、触れられてもいないのにイっちゃうなんて……。

屈辱以外のなにものでもない。


「何だお前、もうイったのか」


橋本は泣きそうな顔をした晴翔の口から自身を引き抜くと、同じ目線になるようにしゃがみこみ、背中に手を充ててベットの上へと促した。

これまででプライドをズタズタにされた美少年の方は、最早されるがままだ。

小さく華奢な体をそっと横たえる。

橋本はゆっくりと覆いかぶさり、自分を咥え込んでいた小さな唇に顔を寄せ……、


「だ、駄目、キスは……、キスは駄目!」


動きに気付いた晴翔が男の動きを何とか食い止めた。


「ん?なんでキスは嫌なのよ」

「……エッチの時のルール。キスは、駄目。キスは……しないで」


聞いてるのか聞いてないのか、「ふーん」と軽く呟く。

貪るだけのセックスと、愛を分かち合うキスは別物。

これまでそういった考えがあった。

だから頑(かたく)なに、自分の唇の貞操だけは守り続けて来た。

しかし、今回はワケがちがう。

もし、この男に自分のファーストキスを奪われたら。

これまで守り続けて来た心の中の何かが崩れ去ってしまいそうで、怖いのだ。



この男は、何かが違う。




晴翔は気付かない。自分が、橋本に惹かれ始めていることに。



「男の前戯の仕方、分かんねえからすぐ入れちゃうよ」


紅を引いたように上気した太腿を持ち上げると、軽く広げる。

間に体をねじ込み、アナルにペニスを充てる。

何度も男を受け入れて来た秘孔は簡単な動作でほぐれ、早くもスルリと亀頭から竿の半分までが入って来た。

アナルセックス特有の、ブルリと鳥肌が立つような痙攣が起こる。


「名前、なんてーの?」

「え……っ、は、はると」


半分まで埋まったものを先端ギリギリまで引き抜きながら、「違う」と言われる。


「それ、源氏名だろ。お前の本名教えて」

「な……、だ、だめ」


名前なんて、セックスには関係ない。

なのにどうしてこの男は、俺の名前なんか知りたがるんだろう。

フンと鼻で笑ったかと思えば、亀頭の先で秘孔を弄っていたペニスが、ズブリと一気に根本まで差し入れられる。


「ぁああ……!!」


今度こそ晴翔の体は、快感に痺れて大きく痙攣した。


「言わねーとキスするよー」

「や、嫌……、だめっ」


すぐに先端まで引き抜かれ、今度はゆっくりと、深く、侵入を始める。男のペニスの形や大きさ、張りつめた血管の脈動まで分かる様に。




「あ……あ……、あ……」


喉がヒクついて、声が上ずる。

本気の喘ぎ声だ。


「橋本瑞貴」

「ん……っ?」

「俺の名前。好きに呼んで。で、お前は?なんて名前?」


深々と侵入すると、今度は体重をかけてゆっくりと腰を前後に動かし始める。

ゆったりと、心地よく。

自然と寄せては返す波の様に、橋本のピストンが始まったのだ。


「あ…、あ……、はあっ、……ん、……うら、こ……たぁ」

「ん?なんて?」


橋本が、晴翔に顔を寄せる。

芯の通ったまっすぐな髪が首筋をくすぐる。

橋本からは、煙草の匂いが漂っていた。


「あっ、アッ……、み、うら……こうた……」

「ミウラコウタ……うわ、アイツと一文字違いじゃん」

「え……、だ、誰……」


アイツとは、同僚の三浦の事。

男のクセしてやたらと可愛らしく、やたらと男にモテる。

その三浦こそ、橋本の周りにいる同性愛者の一人なのである。

ただ、三浦の場合は、どことなく襲われている一方の気もしないでないが……。

晴翔は気になってならない。

橋本が言った「アイツ」なる人物の事が。


(もしかして、恋人……?)


そう思うと、どうしようもなく悲しい気持ちになってしまう。


「コウタ」

「………!」


橋本が自分の名前を呼んだ。

彼のピストンと『アイツ』のことで頭が一杯になっていた矢先のことだった。

橋本が、キスしてきたのだ。

唇に。


「や……っ、な、んで……!ダメって……言った……にっ……んん」


可愛く怒った声すらも、最後は橋本の口の中に蕩けてしまう。


さらに名前を呼ばれ、晴翔(はると)の両手を握り、指を間に絡めた。


「ん…ん……、んっ……あ、みずきさ……っ」


決して激しくない、橋本の律動。

優しく相手を揺らし、しかし根本まで穿つ欲望は確実に晴翔の良い所を押し上げる。

熱い吐息を吸い取られ、初めて経験する柔らかな唇の感触に狼狽(うろた)えた。

橋本は確実に晴翔を高みに押し上げる。

華奢な体を揺らし、体からは汗がほとばしる。

いくつもの快感を与える橋本の方は、涼しい顔のまま。

ただ、「コウタ」と自分を呼び、指を絡めてキスをする。

そう……今の二人は、愛し合っている恋人のようなのだ。


「みずきさ……、みずき、さん……!」


かつて味わったことのない快感に呑まれ、背中をのけ反らせる。

橋本に抱かれる今の自分は、一体どんな顔をしているんだろう。

性行為に、初めて快感以外の感情を覚えてしまったのだ。

気になる。

気になってしょうがない、橋本瑞貴という男が。

これまでも、たくさんの恋人を、彼の腕の中に入れて抱いてきたのだろうか。

その中には『アイツ』も含まれているの?


「みずきさん……あっ、あっ……も…だめ……」


この人のキスを独占したい。

今日だけでなく、これからも。

また、瑞貴さんに会いたい。

色々な感情が快感に重なって行き、晴翔は初めてとなるアナルでの絶頂を迎えた。


「ん、イク……」


直後橋本が唸り、2,3回腰使いが激しくなると、すぐに晴翔の中に熱い精を放った。


激しくは無かったのに、体中の力が吸い取られたように動けない。

しばらくしてぐったりとした晴翔を抱き上げ、橋本がシャワールームへ消えていった。


「瑞貴さん……、俺……」


(お金はいらないから、またあなたに会いたい)


「コウタ」


すっかり純情な少年の顔になった晴翔を待っていたのは、柔らかな橋本のキス。

そして……、


「あとでお前の携帯番号教えて」


未来へと繋がる、一歩。



END

















2012/03/17
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