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 空のにおい
© ショコラ 
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 R指定:無し
 キーワード:告白 友達 関西弁
 あらすじ:「もう友達ではおられへん。」そう思った。
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「……好きや。」
少しずつ遠ざかっていく背中に向かって、小さく呟く。

自分の口が発しているとは思えないほどの、弱々しい言葉。
頭の中では何度も何度も叫び、それこそもう声が擦れるほど言い続けてきた言葉だった。

前を歩いていた空(ソラ)が、ゆっくりと足を止めた。


肩に下げる鞄が、やけに重たく感じる。
教科書もろくに入れてやしないのに。

「急にこないなこと言うてもて、ホンマにすまん。でも、もうこれ以上、空と友達でおんのは我慢できひん。」
雄太(ユウタ)は、すっと息を吸い込むと、一息で言い切った。

空の表情は見えない。


「空、お前が好きや。」
ずっと押さえ付けていた想いが、溢れだしていた。


暑い日差しが、二人に向かって照りつける。
耳につく蝉の声は、辺りの温度を益々上げているように思えてならなかった。

「――知ってる。」
背中を向けたまま、空が言う。
「え……?」

「今頃何言ってんだ、お前。俺が気付いてないとでも思ってたのか。」
振り返った空の顔は、泣き笑いのような不思議な表情を浮かべていた。

「バレバレなんだよ、お前は。」
出来の悪い子供を叱るように、優しく微笑む。


予想外の展開だった。

――ヤバい、俺嬉しすぎて本気で死ねる。

雄太は、鞄を投げ出して空に走り寄り肩を掴んだ。
「じゃ、じゃあ俺と付き合うてくれるんか?」
期待に満ちた目は、きらきらと輝いている。


「いや……、それは出来ない。」
空は、わずかに顎を引くと単調に答えた。

両手を肩に乗せたまま、がっくりと頭を垂れる雄太。
「……せやんな。やっぱキモいよな、こんなん。もう友達でもおられへんよな。」
予想はしていた事だった。嫌われても、殴られても、おかしくないと思っていた。

付き合うてもらえるやなんて、何で思ったんや。
俺のドあほ。


空の肩から手を離し、後ずさろうとすると、ふいに腕を捕まれた。

「誰が気持ち悪いなんて言った。友達やめるなんて俺は許さないぞ。」
空は、雄太の目をじっと見据えてまくしたてる。
眉間には深い皺が刻まれていた。


雄太は苦笑する。

あほ、なんでそこでお前が怒んねん。
気持ち抑えて友達すんのも、結構しんどいねんぞ。


雄太は泣きそうになるのを堪えながら、言った。
「恋人もあかんくて、友達やめんのもあかんやなんて、俺はどないしたらいいねや。」
伝えてしまえば最後、もう今までのような関係ではいられないと思っていた。

まさか、空がこんな事言うやなんて。


「今のままでいいじゃないか。今のまま、友達のままで。俺にはお前が必要なんだ。」
今度は、空が困ったように笑う。


――くそ、そんなん卑怯や。
必要やなんて言われたら、もう何にも言われへんやんか。

雄太は空を引き寄せると、肩に顔を埋めた。
身長差があるせいで、体を丸めるような格好になる。
雄太が嗚咽を上げるたび、白いシャツに染みができていく。

「ひっつくな、暑い。」
言葉とは裏腹な、柔らかな口調だった。


もうちょっと、もうちょっとだけ勘弁して。
顔上げたら俺、お前の最高の友達になるから。
だから、今だけは泣かして。


空のシャツは、カラっとしたお日様みたいな匂いがした。
空のにおいやった。







2007/02/13
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