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 眠れない夜は
© つぐみ 
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 R指定:---
 キーワード:浮気美形義兄×平凡義弟
 あらすじ:ネガティブ義弟の独り言のような、好きな人に悩まされてます
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 眠れない夜は嫌なことを考えてしまうものだ。かく言う俺も例には漏れずぐだぐだと信目のことを考えている。

 新城信目。とにかく人目につきやすい奴だ。すらりと高い身長に所謂細マッチョな筋肉質な体。モデルのような優雅な物腰にホストのようなあざとい色気を醸し出す顔。ようは見た人見た人がなにかを絶賛せずにはいられないような全身美形な奴なのだ。

 だから、考えずはいられない。奴は一応今現時点で俺の彼氏なのだから。

 信目に比べて俺はと言うと、平均身長に体重、特筆するべきところがない所謂平凡と称される人間で、しいて言うなら少しばかり空手が強いと言うくらいだろうか。とは言ってもインターハイに出れるが一回戦は勝てないと言うなんとも微妙な強さなのだが。

 おっと、俺のことはどうでもいい。その信目のことをなぜ考えているかと言うと、奴はもてる。そう、もてるのだ。それだけではない。来る者拒まずな性格なのか、はたまた俺に対する嫌がらせなのか、とにかく言い寄ってきた人間と必ずと言っていいほど『寝る』のだ。もちろん、添い寝なんて可愛らしいものではない。まあ、そういうことだ。

 俺とは、と言うと実に信じられないぐらい何故かストイックさを発揮しプラトニックラブと言うやつを実践中である。馬鹿馬鹿しい。結局のところ俺が浮気相手なのか、それとも付き合っていると言うのは夢の中の話なのか。

 俺だって健全な男なのだから、それなりに欲求何てものも持っているわけで。しかし、残念なことに好きな人には一途な性格だったようで、浮気何てことは考えたこともない。必然的にモヤモヤイライラとなるわけで余計に眠れない日々を過ごす羽目になるのだ。

 全く馬鹿馬鹿しい。信目みたいな奴を好きにならなかったらこんな悩みとは縁がなかったはずなのに。それでも別れもせずにまだ付き合っているのだから、やはり好きなんだろう。惚れた方が負けとはよく言ったものだ。

 ごろんと寝返りを打ち、寝る努力をしてみるがやはり眠気はこず、このまま朝までコースかと思っているうちに、いつの間にか眠ったようだ。快適な目覚めには程遠い嫌に重たい頭を抱え部屋のドアを開ければ、

「はよ。 巧」

と呑気な声が上から降ってきて、一瞬殺意を感じた。こいつが俺の睡眠を妨害する件の信目である。寝起きでも美形は美形で様になるからさシャクである。

「……おはよう」

 無愛想な俺に別段気を悪くすることもなく、信目はにこりとし俺の頭を一撫でする。奴のこういう子供扱い的な態度がますますシャクで、俺より随分上にある顔をじろりと睨んだ。

「可愛くない奴」

 ぼそりと言ったその言葉を俺はしっかりと捉えた。お前の取り巻きに見たいに可愛くないのははじめからわかっていたことだろうに今更だ、とばかりに信目の足を思い切り踏んでやった。こういうところが可愛くないのもわかっている。

 大袈裟に痛がる信目を残して、俺はさっさと朝食を摂る。

 俺と信目は、俗に言う義兄弟である。俺の母親と、信目の父親が再婚したのは夏休みが始まる少し前だった。空手三昧な毎日を過ごしていた俺は籍を入れる少し前まで全く知らなかったが、信目はどうやら随分と前に二人がお付き合いしている知っていたようだ。

 それがきっかけで俺を見に来て、俺を知って、それで好きになったらしい。信目に好きだ付き合ってくれと言われたのは6月の梅雨らしい土砂降りの日だった。今にして思えば雰囲気もなにもあったもんじゃない。

 だがその時の俺は舞い上がっていた。激しい雨の音が優しいバックミュージックに聴こえるくらいには。

 二つ返事で付き合い初めてなにか変わったかと問われれば、特別変わったことはない。とにかくいろいろと有名な奴のことだから、一緒に帰るとかどこかに連れ立って出掛けるとかは皆無で、俺は変わらず空手部に通っていたし、信目は相変わらず浮いた噂の渦中にいた。しいて言うならアドレス帳に信目の名前が追加されたくらいで、メールの履歴も発着信の履歴も追加されることはなかった。

 あれ? 俺らって付き合ってるんだよな? なんて疑問が頭の片隅に湧く頃、突然母親から再婚すると言われ、先方との食事会で信目と同席することになり、気がつけば俺は奴と兄弟になっていた。

 そしてそのまま夏休みに突撃。同じ家にいるのだ。ますます携帯に履歴が残ることもなくなり、一緒に出掛けたと言えばコンビニか親同伴。あり得ない。それでも1ヶ月程はおうちデートってやつを繰り返した。……まあ、同じ家にいるからだけど。

 それでもなんとなくやっぱり付き合ってるんだよなと思えるような軽いスキンシップはあったわけで。ただ一緒にテレビ見たり、何をするわけでもなく同じ部屋にいたり、甘くもなんともないそんな時間が俺には楽しかったが、奴がどう思っているのかは知らない。

 そんなよくわからない関係のまま新学期に近づいてきて、学校が始まっても多分このまま

「実は俺、今学期から新城巧になりました。信目とは兄弟です」

で終わるんだろうな、なんて漠然と考えた。

 信目至上の奴等からしたら面白くないことだろうし、多少の嫌がらせは覚悟しているが、そうは言っても簡単には手出ししてこないだろう。なんだかんだと俺自身空手と言うものを通して多少名前は売れているのだ。奴のファンはきっと野蛮な奴と兄弟なんてと思っても、まさかまさかで付き合っていることまではばれないだろう。

 何故だろう、なんだかそれはそれで悲しい気もする……

 平和主義なのだから平和なことは大いに歓迎だが、それでいいのだろうかと考えてしまう。俺は信目との関係をどう望んでいるのだろう。独占したい。束縛したい。俺を見てほしい。俺以外と仲良くしないでほしい。いろいろ思い浮かんだけど、今信目に言いたいことは唯一つ、浮気なんかしないでほしい。

 たったこれだけ。なのに口にできない言葉。

 俺に可愛さがあれば、俺に素直さがあれば……無い物ねだりのように考えてしまう自分が嫌だ。









2013/01/11
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