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 帰りましょう
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今日も目が覚めたら、見慣れた白い天井。

「酒井さん、おはよう。お下洗わせてね」
そんなところ見られるのははずかしいわい。
そう悪態をついてやりたいところじゃが、なんせわしはもう、動けないし、喋ることもままならない。
「あ”〜!!」
じゃけどせめてもの抵抗はする。
「ハイハイ、ごめんなさいね!!」
もう勃たなくなってから何十年たったそこを看護師さんが洗っていく。
昔、邦彦さんに触ってもらった感覚が、洗われていくたびどんどんわすれられていくんじゃ・・・。

もう邦彦さんが亡くなってから何年たつんじゃろうなぁ。
60になったわし等は、しわしわになったなとか笑いながらもかわらず一緒じゃったなぁ。
わしもまだこんな体じゃなくて。
じゃが、あんたはわしを置いて先に行ってしもうたなぁ。
あんときは、悲しくて、何度も、何度もあんたのしわくちゃな顔を両手で包み込んで名前を呼んだわい。
あんたが先に逝って悲しかったけど、内心少しほっとしてるんじゃ…こんな姿、お前さんにみせたく無かったからな。
わしもいつのまにかこんなんじゃ…。なぁ邦彦さん。

あんたはいつ迎えにきてくれるんじゃ…??


「孝三…孝三!!」

だれじゃ??看護師さんかのう??

「邦彦さん!!」

ありゃぁこれは夢かのう??
懐かしい、まだ若い邦彦さんがわしに手を振っている。
ってあれ??なんで僕はじいさん言葉なんだろう??
銀座のデパートのショーウィンドウに移る自分はスーツ姿だった。
こんな時間から白昼夢を見るなんて。
「孝三!!」
笑顔で走って来た邦彦さんが、いつものように俺の手を握った。
この時代にしては高い身長に、いつも俺は見上げる形になる。
「どうしたんだ、ボーっとして。」
「邦彦さん…なんか僕、変な夢を見ていました。」
「変な夢??立ったままなのにか??」
そう言って紳士的に笑うあなたの顔が僕は大好きで、すごく安心するんだ。
さっきの夢のせいかな、今日はやけにその笑顔に安心する。

「さぁ、一緒に帰ろう。」
「ハイ…」

銀座の街を、僕らは二人連れ添って家路へと向かった。



「酒井孝三さん、ご臨終です」
「酒井さん、ご家族は確かいらっしゃらないわよね??」
「あ、でも遺言預かってますよ??ええと…

僕が亡くなったら、寺西 邦彦さんのお墓に入れて下さい

ですって。」











2007/02/18
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