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 吸血鬼と患者さん1
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 キーワード:年下攻め 社会人 現代ファンタジー
 あらすじ:痛い事をされるのが実はとても好きな怜央はある日何気に立ち寄った歯科医院で理想的な先生に出会うが……
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「……こんなところに歯医者なんてあったっけ?」

槇村怜央(まきむら れお)は営業の出先から直帰する際に見つけた歯科医院をぼんやりと見た。

小さな建物の小さな病院。

「ちょっと寄ってみるか」

怜央は呟くといそいそとその病院の中に入った。
まるで飲み屋でも見つけたような感覚なのは仕方がない。怜央は歯医者が好きだった。

「お前変だろそれ」

友人に歯医者が好きだと言うと大抵微妙な顔をされて否定される。

「変かなあ?だって歯の治療をしてくれる上に綺麗にしてくれるし歯医者出た後って何かすげぇ自分が健康になった気もしてテンションあがらないか?」
「しねぇよ。変な事言ってるといくらお前が整った顔してても女にドン引かれんぞ」

そして呆れ笑われる。
一番好きな理由を言えばもっと笑われ、いや、本当にドン引きされるんだろうなと、初めてのところなので問診票の質問を埋めながら怜央は内心苦笑していた。

「こんばんは」

呼ばれて診察室に入るとそれぞれ個室のようになっているスペースの一つに怜央は案内された。そして診察椅子に座る頃には既に怜央は気分が高揚してきていた。助手に「失礼します」と声をかけられ首に巻かれたペーパーエプロンに怜央がこっそり微笑んでいると先生らしき人が挨拶をしてきた。

「こんばんは」
「えーっと槇村さんですね。今日は……検診、ですか」
「はい」

怜央はニッコリと先生を見る。
マスクをしていて顔はちゃんと分からないがそれでも男性の割にかなり綺麗な顔をしている事は分かる。黒髪は短すぎもせず長すぎもせずその先生の色白の顔つきに似合っているような気がした。

「この時間にやってる歯医者って珍しいですよね」

嬉しい気分を隠すかのようにどうでも良い事をそして話しかけた。

「そうかもですね。ただこの時間は助手さんが少ないのですいません、僕一人で診たりする事も多いかもです」
「問題ないです」

診てもらえるだけで十分と怜央はニッコリ頷いた。
そしてもたれた診察椅子がゆっくりと倒れるのを感じながらぼんやり考えていた。

……僕、か。
どうせなら「俺」かいっそ「私」の方が良かったな。僕とかなんて言うか強く出ない人って感じがして自分的にあまり……。

「はい、口を開けてください」

先生に言われ、怜央は途端すぐに口を開ける。
「んー……結構綺麗に磨いてますねー。右上から。6……、5が……カリエス……C1、4から……ん、んずっと左の5までいって6がインレー。下にいって……右から……」

先生が診ている横で助手は先生が言う用語をカルテに書きこんでいく。
その後で助手は他でも呼ばれたのかここから出て行った。

「はい、一度うがいしてくださいね」

怜央の口を一旦診ると先生が言ってきた。怜央は言われた通りゆっくりと動いて元の位置になった診察椅子から体を乗り出して紙コップの水を口に含んでうがいをする。
そしてまた椅子にもたれると先生がにこやかに「悪くない状態ですね」と言って来た。

「ただ右上の奥と左下の奥に虫歯がありそうです。このまま治療を続けてよろしいですか?」
「はい」

喜んで、と心の中で付け足す。

その後でレントゲンを撮らされた際にも助手を見たが診察椅子に戻り少しするとまた先生だけがやってきた。

「んー、レントゲン、分かります?ここの奥歯、ちょっと中に広がってますね。今日は先にこちらからしましょう。神経のある歯なので麻酔をしてから削り、歯の型を採ってから仮の蓋をする。今日はそんな流れになりますがお時間大丈夫ですか?」

また心の中で「いくらでも」と答えつつ、怜央はただコクリと頷いた。
麻酔と聞いてまた胸が高揚するのが分かる。

注射もこの先生がしてくれるのだろうか。削るのもこの先生が?

マスクの下が見たいと密かに思いつつも怜央は先生の顔を盗み見した後で名札に目を移す。
「鈴木佐和」と書いてある。名前は「さわ」と読むのだろうか。女性のような名前がまた、この目の前の綺麗な男性歯科医にとても似合っている気がして怜央はこっそり微笑んだ。

「はい、口を開けてください」

またしてもそう言われ、怜央はいそいそと口を開ける。

「少しチクリとします」

大いにさせてくださいと思いつつ、怜央は開けた口でなんとか「はい」と答えた。
すぐに注射器の針がゆっくりと怜央の歯肉に入ってくるのが分かった。そしてまた少しずつ麻酔液が注入されるのが分かる。

「大丈夫ですか。辛い時は左手を上げてくださいね」

佐和が言ってくる言葉を聞いても、がっかりな事に注射は全然痛くない。

本来なら歯の周辺は組織が密で、注射の痛みを感じやすい上に骨の中の神経に薬が作用するまで時間がかかる為、痛みも割と感じるはずらしい。だが怜央は麻酔注射を痛いと思った事はなかった。
筋肉を裂いての注射になる為たまに後で腫れてくる事もあるがそんな楽しい状態すら滅多にならなかった。

その後少し時間を空けてから、佐和が歯を削り出す。
機械が自分の咥内に突っ込まれ、歯を削ってくる音は脳内に響いてくる。注射のせいで全くもって痛みはなかったがその感覚を怜央は楽しんだ。

「大丈夫ですか槇村さん」

間にも聞かれたが、削り終えた後にも佐和は怪訝そうに聞いてきた。

「はい」
「ご無理はなさらないで良いですからね。少し息があがってそうでしたので」

どうやらつい息が荒くなっていたようだと佐和に言われて初めて怜央は気付いた。

「印象お願いします」

そう言って出て行った佐和と入れ替わりで入ってきた助手が背後で何やらしている音がする。そして口の中をまた開けるように言われる。

「熱いものがちょっと入りますね」

何それ沢山入れてくださいと内心思っていると確かに削られた穴に何やら熱いものが注入された気がした。そのまま次に金属の上にガムのようなものをてんこ盛りにしたものをつっこまれその部分にあてがわれる。

「はい、軽く噛んで……そのままでしばらくいてください」

助手はそう言うとまた出ていってしまった。怜央は一人でポツンと待つ。

……放置プレイ。

そっと思った。だが放置プレイはあまり楽しくない。とはいえ口の奥につっこまれている印象材を咥えていると少し唾液も溜まり苦しくなってくる。それは好きと言う訳ではないが妄想という名の退屈しのぎにはなった。

少しすると先程の助手が入ってきて口を開けるように言い、印象材を抜いてからうがいを促し、また出て行った。
助手の女性も悪くはない。やはりマスクで隠れてはいるが可愛い顔をしていると思われる。
だがやはり怜央が関心あるのは先生である佐和だった。

「仮の詰め物しておきますね。接着系なので匂いとかします」

そう言いながら佐和が仮封材を穴に詰めてくれて今日は終わりだった。
仮の詰め物をする時の佐和が手袋をしていなかった気がするが仮封材の匂いと味がまた好きな怜央はそちらに気をとられていたので気のせいかもしれない。それにどちらでも良かった。

もっと治療して欲しいし、削るのが駄目でも、もっと弄って欲しいと思いつつ、怜央は会計で次の予約を取って病院を出た。

佐和の治療は上手かった。
見た目がとても好みだと思われただけにそれが少し残念だと怜央は歩きながら思った。



痛みに対して嫌悪よりも興奮を覚える怜央は女性も好きだが、男性の方がもっと好きだ。女性だと少し気を使うような事でも男性だと気にならない事が多いからかもしれない。

そちらの世界でこの性癖がバレるとよくネコかと思われる事が多かったが、それとこれとはまた別だ。
挿入がなくても十分痛い目に合わせてもらうだけで興奮出来るが、そういった行為をするならネコ役では達せないし好きな相手に対してはその辺の男と同じように突っ込みたいと思う方だ。

とはいえ歯医者でそういった妄想は特に治療中していない。ただひたすら歯を削ったり咥内を弄って欲しいと思うだけだ。
ただどうせなら好みの相手にして欲しいし、その好みの先生がヘタクソであればあるほど痛みが味わえる。

「……マスクの下見たいなあ。あと、腕が悪かったら最高なのに」

そんな事を呟きつつ、怜央はコンビニエンスストアに寄った。なんとなく疲れているのでチンで済ませられる弁当を物色してから帰宅した。

次の予約は約一週間後だった。型を採ってから詰め物が出来るまでにどうせなら何か治療してくれたら良いのになと思いつつ数日後、得意先の相手と飲んだ帰りに怜央は歯科医院がある方向とはまったく違う場所からの帰宅途中に佐和と再会する事になった。



夜も更けていて人通りは全くなかった。
電車はもちろん終わっており、タクシーを拾う前に酔いざましと気分転換で帰り途中の小さな自然公園を横切っていた時だった。

妙な場所からガサリと音がしたのを聞きとり、怜央は怪訝な顔をする。
こんな時間に何だと思いつつそっと音がした方に近づいた。

深く何かを考えた訳ではなかった。
もし恋人同士がいつもとは違った嗜好でと思ったのならそっとしておくし、万が一何やらの犯罪行為なら通報出来るならする。野良犬か猫か何かなら問題ないしだいたい音じたいもしかしたら気のせいかもしれない。

そしてそっと覗き、まさかの光景に唖然とした。
音がしたのは多分相手が倒れたからだろう。倒れている相手は生きているのか死んでいるのかも分からない様子でピクリとも動かなかった。そして立っている方はどこか恍惚としながらも呆然としたように立ちすくんでいる。

唖然としたのはまずその目だった。
人のそれとは思えない異様な輝き。

恐ろしい筈なのに何故か引きこまれた。だが次にようやくその目が見たことのある目だと気付いた。
気付くのが遅れたのはこの間していたマスクをしていなかったせいでもあるし、見えていた部分の目が尋常ではなかったせいもある。
だが気付くともうその人にしか見えなかった。

「……さ、わせ……んせ、い……?」

割と離れ場所でこっそり覗いていたし漏れた声は相当小さかった。だが次の瞬間、目の前には佐和が居た。








2015/03/13
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