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 Mora Mela
© 佐藤すずき 
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 R指定:有り
 キーワード:俺様攻め×無気力受け
 あらすじ:交わらないヤジルシ/なのにえろいことはしているというアレ/命令形俺様攻め×無気力受け
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 でも。だって。しかし。
 違う。貴方は間違っている。
 人との会話に否定から入ることは確かに嫌われやすい奴の特徴ではある、統計も出ている。
 三樹は否定されることをひどく嫌う。些細な否定形にすぐキレる。そのわりに砂糖漬にされて胸焼けしそうに甘ったるい、 キスだって愛撫だって丁寧に過ぎてもう逆にまどろっこしいような前戯だって、 歯が浮くばかりかいっそのこと顎でも外れてしまうんじゃないのかと恐ろしく思える程にふかい愛も囁いて。でも。だって。しかし。そういう、相手への最低限の礼儀──ではないのだろうか、と俺は考えている──を先に完膚なきまでに徹底的に、ぶち壊したのは俺では多分無く、三樹のほうだった。

「おいこら、足開け」

 ムードもへったくれもない。そりゃあ俺だってロマンティックなシチュエーションだとか、そういう何かを、三樹に期待したいわけでは無いから俺らは互いに言えた義理じゃあ無いのかもしれないけれど。だからってさァ。それなら台無しにする必要も別に無いじゃん、なんて勝手に失望して見せたところでこの憂鬱さしか生産しない行為が終わってくれるわけでも無ければ、サカりのついた体にアナルパールやらバイブやら果ては尿道拡張バイブやらを寄こされ放置されるというわけでも無い。
 三樹は早々に俺にのし掛かりもう一度言った。うんざりとした顔で如何にも憂鬱だと文句のひとつも溢してもおかしくないような機嫌の悪い声で。

「足開け」

 まさに。
 何だよ、何見てんだ、俺に何を期待してやがんだよ、どーだっていいからオイコラ黙って足開け。
 と、続いても俺は今更驚かなくなってしまっていた。もはや半分以上自棄っぱちなのかもしれねえなァと思えば同じくらい憂鬱さにうんざりとしている俺にとってこんな三樹は少しだけ可愛いとさえ思えた。

「あーあー…はいはい。ちょっとぐれえ待てねえのかよ、おめえはよー」

 言いながら三樹の望み通り膝を開いてやる、と、そこにすっぽりと三樹がおさまりに来ようと身を寄せてくるのが妙にくすぐったかった。
 俺は両腕で三樹の首筋にしがみつき、なだれ込ませるようにベッドに寝そべる。安物のソファベッドは寝心地が悪くて軋むけれどスプリングがスプリングの役目を果たしていない分、実はそれ程背骨を圧迫しない。足を開けと言ったのは三樹なのだが、はしたなく開いた足の持ち主たる俺はというと、めいっぱいひろげた膝小僧で三樹の左右の脇腹を挟んでやる。恥ずかしさは特に感じない。なぜならば三樹の恋人は俺では無いしそして俺も俺の恋人になってもらいたい男は三樹では無いからだ。
 俺達はたいへん爛れている。爛れきって──いる──浅ましくいやらしい獣がふたりぼっち、だらしなく、恥じ入ることも無く、上からも下からも涎を垂らす。もっと足開けよ、と、腿をぺちん、軽く叩かれる。ふたりしてノーパン、全裸、着衣無し。たいへんだ。おそらく俺と三樹はたいへんなへんたいだった。略してだいへんたいだ。だが動物園のペンギンですら同じ檻に雄ばかりを詰めておくと同性愛的な生産性皆無の行為にはしるのだから俺と三樹がこうしていることに何の不自然さがあろうか、と。俺は思う。

「んうぅ、三樹ィ…あんま激しくすんなよ」

 気持ち悦いだけならばそうするのは俺だって大歓迎な話なのだが如何せん体格からして違いすぎるので、俺の体力を考慮することをそろそろ覚えてくれと陳情しても、だめだこいつ。もう俺の言葉なんて聞いちゃいねえ。セックスをどんなふうに自分の思い通りにやるか、どうやって俺の体を使用して自分の思い通りにやるかのことばかり。
 そうだ今。そう云えば俺は三樹とセックスしているんだった。でも。だって。しかし。三樹は俺の足を開け開けと、そればかりなのだから。まァそうしなけりゃ何も始まらないのはわかっているし、始まらなければ終わってもくれないということだってわかっているのだけれども。
 始めは軽く、徐々に深く舌を絡ませあう、勿体振るそんなキスの意味も、力任せか或いは俺の背骨あたり折るつもりかとハグを通り越して拘束染みたきつくてあつい抱擁の意味も、それからなぜだろうか今にも誰かに叱られそうに情けなく眉を下げた──そのわりに厳つい──顔も、今はただ、そうだ全部全部何もかも一切合切、俺に足開けという言葉に集約されている。
 あァひでえなあ、と心にもないことを言う、本当は単純な欲望に真摯な三樹なんかより、ずっと卑怯で酷くて俺は狡くて。三樹が考えるよりも随分狡くて。ついぞくすくす、笑みを漏らすことを我慢出来ない。でも。だって。しかし。俺が笑っていたら、笑うなよ、なんて、うぶな女みてえに真っ赤になるおまえが可愛いから仕方がないのだ。
 好物の生肉を目の前にして『ステイ』、を、されている大きな獣が唸る。ヴゥー、腹のムシの音と似ていてもっと笑えた。がっつくなよ、と言ってやると、じゃあもっともっと早くしろと三樹は唸る。

「まだ余裕だろ。おら、もっと足開けってば」

 合意に添わず強姦に出て良いのか、オアズケする気か? んなもんてめえどこで覚えたんだよ? と、なぜか俺は頬をつねられる。柔らかな両頬が餅のようにびよ〜んと間抜けに伸ばされた。三樹は俺を押し倒しても、その先は俺の許可を取らねばどうやら襲えもしないらしい。へんなとこ鬼畜でへんなとこ生真面目だ。
 そんな三樹が俺は可愛くて、だから怖くて死にそうに早鐘を打ち繰り返す心臓を、なだめすかしては膝の力を抜いた。呼吸困難になりそうな、地上なのに溺れるみたいなキスをされながら揺さぶられてしまえば最期、幾ら俺がもう嫌だと泣き喚いても叫んで懇願してみても、この野郎チンポもげろと呪うように睨んでみても、全部受け流して丸め込まれ、ぎゅうぅ、って、まるで大切な誰かにそうするかのように抱き締められるのだ。それを俺は充分に知っている。三樹はほんとうに酷いことはしない。知っているけれど怖いのだ。
 でも。だって。しかし。俺は何ひとつ変わりたくなんか無いのに、ずるずると引き摺られ何か他の生き物に変えられてしまうような、でも、だって、しかし、それをもしかしたらそうそう悪くないのではないか、みたいな、そんな、損な気分になって。

 予め湯煎で温められていたローションをたっぷりと乗せた三樹の指が俺のナカへと突き挿れられる。
 ──つぷ──り。
 たったそれだけのことなのに俺の膝は反射的に閉じようと奮えた。それを堪えて、咄嗟に噛んだ自分の手の甲に歯を立て食いしばるけれど、三樹の指は侵入を果たしてしまえばただただ進められるだけで、『俺』は不様にも抉じ開けられていく。足開け、なんてもはや言われなくたって、自分の意思じゃあ閉じることも敵わない。

(あァこわい)

 指の侵入よりも足を閉じられなくされることよりも、俺は『俺』がひらかれてゆくことが何より怖い。例えばこれが、この行為が、愛とか恋とか何らかの形を成していたとして、それなら俺は俺にされる回数だけ同等に、三樹にも同じ目に合わせたい。別に男としての主導権を握りたい、とか、支配欲を満たしたい、とか、そういう意味ではないけれど。

 でも。だって。しかし。俺は三樹とこんなふうにセックスなんかするのにいつだって怖くて痛くて死にたくすらなるのに、こいつは──三樹は、それらを微塵も知らないままなのだ。

(おまえもこわい思いをしろ)

 と──言いたくもなる。言えば否定を嫌う三樹は必ずキレるだろうから言わないが、俺ばかりがこんなにも怖くて怖くて痛々しい気持ちになるのは本来不平等なのだ。その筈だ。粘膜を掻き出されるようにナカを好きなだけ這う三樹の指の感触から逃れたくて、長く息を吐く。
 それなのに、それだけで、俺の喉からはひきつったような形容し難い空気の音が漏れ出るだけで、呼吸すらうまく出来なくなってしまう。

「っひ……ぅ、く、ッ……」

 子供が嗚咽を耐えているような声が出るがこんなものはまだ序ノ口だ。

「うぅうっ…ん──んんっ……」
「こんなトコで気持ち悦くなってンなよ、変態」
「っ……へん、たいっ…は、ァ、おま、え…だろうっ────がッ」

 こんなところってどんなところだよ。俺のケツ穴に突っ込んで、おまえのほうこそ気持ち悦くなりてえんだろ。身体中でおそらく最も汚い排泄器官に突っ込むなんて正気を疑う。本来男同士であるのだから、口でだって、それこそ足を閉じてスマタであっても構わないはずだろう? ──いや俺は三樹のちんこなんか死んでも舐めたくないけれど。
 とか考えていたら前触れのようなものを華麗にすっ飛ばし、口に無理矢理舌を捩じ込まれた。反射的にひう、と喉が鳴る。

「んーっ…ん、んんう──っむ、」

 俺の口の中を三樹の舌が這いまわる。その目が今は、もっと口を開けと俺に命令している。

「んんっむ、───…っふ、うぅーっ」

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
 何のつもりだおまえ!
 何だってこいつはこんなに激しくキスしながら俺をじっと見詰めているのだろうか。強引に俺の口の中で粘膜を荒らすならず者の舌は熱く、俺の舌を絡め取るように捕まえる。何としても逃れたい俺の意思など関係なく。
 縦横無尽に蹂躙される。

「んんっ、ん、っ……ふ、っう、んんんーっ」

 舌先の感じるところを甘く噛まれて痺れが走る。同時、ローションで泡立っている俺の体の入り口に3本目の指が侵入を果たし、ぐちゃぐちゃと卑猥な音をたてて掻き回され頭が変になる程苦しくなる。

「んんんんっ」

 三樹の胸を叩いて舌を解放させ、ぷは、っと息を継ぐと、口許どころか顎先にまでつたう唾液でべたべたになってしまった。ちょっと待てよ三樹、そんな目で俺を見んな。でも。だって。しかし。三樹の勝手すぎる舌は俺の顎先から唇へと舐めとりにかかる。

「おまえさァ、キスしてるときくらい目ェ閉じろよな」
「あんな勝手なのキスとは呼ばねえ」
「あ? じゃあ何て呼びゃいいんだよ?」
「じゅうりん」
「……そうかよ」

 そうだよ、恋人ごっこがしたいなら俺じゃ無い誰かとして来い。でも。だって。しかし。非常に困ったことに、体に力が入らない。三樹が俺を好き勝手にするからだ。抵抗など出来やしない程、力の差のある俺を捻じ伏せ従わせて、ひとりよがり、狡いのだ。俺もひとりで狡いからってこれで何もかもオアイコだろうなどと、まったく思われたくない。

「っ……!」

 挿れる、というそんなたった一言の断りもなく、三樹のちんこが俺のナカに入ってくる。ゆっくりと──じりじり、と──焦れながら亀頭が入りきるまではいつものことながらめっちゃ痛い。

「っう、く、ううぅっ…んんうっ」
「泣くな。我慢しろ。男だろ」

 痛みに耐えてぎゅっと閉じた瞼の端から涙と汗が滲み出る。何が、男だろ、だ。男のケツにちんこ突っ込んでくるおまえが言うなと言いたい。酷い酷い、何て酷えこと言うんだ。我慢しろだなんて俺が我慢しようがしまいが無理にでも捩じ込んでくるのはいつも三樹だけなのに。

「っふ、……は、ぁ、あ、あ、っ…」

 息苦しさを少しでも逃がしたくて呼吸をしているだけだというのに、いつの間にか高い声が出る。甘ったるい、酷い声だ。

「み、き、」
「何だ?」
「んぅっ…く、ぅ、ち、くしょ、うっ…」
「は、」
「よけんなっ…ばか、あっ」

 女みたいな声なんか聞かせたくないので俺からキスをしようとしているのに三樹はそれさえ面白がって、俺が伸ばした舌先にほんの少しだけやわく噛みついては試すように息を落とし笑う。
 もっと深く繋がりたいのだと三樹のぎらぎらとした肉食獣染みた両の目が言葉なんか要らない程に雄弁に語る。だからもう口より足を開けよと。クソが、ああもう!

「や、ぁ、」
「何が?」
「お、くっ……やだっ…ぁあ」

 だから奥は嫌だと言ってんだよ俺は。だって気持ち悦すぎて死にそうになる。そんな過ぎた快感は要らない。怖い。なのに否定を嫌う三樹はそれをただの少しも理解してくれない。

「おい、」
「あ、あ、も、…いやだっ…て……っ、ん、んん──っ」

 俺の名前を優しく呼んだって、きもちいか、なんて囁いたって、でも。だって。しかし。今更駄目だ。駄目なものは駄目なのだ。

「なァさっさと俺のちんぽ全部のみこめよ、ほら、奥まで」
「ひ、あっ、あっ、あっあ、んぁあ…っ」

 俺の体の、涙ぐましいまでのナケナシの抵抗など気にもかけず、ずぶずぶ、めり込むように奥へ奥へと三樹のちんこが俺のナカを埋めていく。目の前がちかちかして、垂れ下がる三樹の前髪が俺の目に被さるように影をつくり、持ち上げられた膝の裏がひきつった。身体中あちこちがみっともなく軋む。何の自慢にもならないと承知しているが、俺は体がかたい。

「ん。あともうちょっとだから。な?」

 褒めるように宥めるように、三樹のおおきな手が俺の頭をそっと撫でる。イイ眺めだな、と舌舐めずりをして、全部挿入りきったらしい箇所を満足げに眺めているのがわかる。やばい、俺しぬ。
 あれ程奥は嫌だと告げたというのに、奥から手前へ容赦なく太いちんこがグラインドし、俺のナカにある急所であろう前立腺を何度も何度も抉られる。

「んあっあっあぁあっあっあっ」

 でも。だって。しかし。

「あぁっふ、あ、あっ、三樹っ…三樹っ、あ、ぁ」
「イイか?」
「や、あぁっ……、ああっあ! あ、あ、っうぅ、…く、…あぁあっ」
「俺はすげえ気持ちイイ」
「ちょ、待っ…あ、あ、あぁ、っあっあ、あ、」
「もーでる」

 ──はぁあ!?

「嫌ッだ…って、あっ…──三樹!」

 がつがつと俺を穿っていた三樹のスライドが止まり、最奥で、どくどくと三樹が射精している。俺のナカは精液ですぐにいっぱいになり、入口のあたりでは三樹のちんこの裏筋がびくびくと脈打っているせいでそれが生々しい程わかりやすく伝わってくる。
 ナカでだすなよ! と言いかけた俺の唇は不意に三樹に掠め取られ言葉になる前に失せた。

「おい。俺が猫じゃなくて良かったな?」

 などと言って笑う、三樹のせいで俺の気分は真っ逆さま奈落に落ちた。
 そもそも俺は今日、“そういう気分”では無かったのだ。三樹がキレるほうが面倒臭いので仕方無くセックスを拒否する選択を捨てたというだけで────今朝の話だ。飲み物を買いに出た外の、道の真ん中で手のひらサイズよりも一回り程おおきな影がへばりついていた。最初はゴミだと思ったのでモラルの無い奴が捨てたのかと何ら無警戒に俺はそこへ近寄り、その影が、車に轢かれて死んでいた仔猫であったことに気がついた。1度や2度じゃあ無く死んだ後も幾度も轢かれ続けたのだろうそれは見事にぺったんこになっていて、まるで路上に吐き出されてアスファルトと一体化してしまったチューイングガムと同じようにまさしくゴミに成り果てていて俺は胸がざわざわした。何とも言えない気持ちだった。だが、ざわざわしているのは俺の胸あたりだけで街の中は相変わらずいつも通りだった。猫の死体はどこが頭でどれが内臓なのかももはや一見ではわからない程になっていて、あれはもうプロが鉄のコテでも使い引き剥がさねば剥がれないと思う状態で、俺はそれを、持っていたビニル袋に包んで可燃ゴミに出してやることすら出来ずに、他の人間同様にただ歩き過ぎ去るしか無かった。胸あたりでざわざわと騒ぐ何かは離れても消えてはくれず、でもあれはもう本当にゴミだった。
 うちに帰るとなぜか三樹がいて、これもなぜだかよくわからないがうちのシャワーを勝手に使ったのだろう、勝手にクロゼットから引っ張り出したらしい俺のシャツだけを羽織り『…小せえな』とはっきりと舌打ちをし文句を言いながらも居座った。
 俺は多分知っていた。俺も三樹も、きっとひとりぼっちが好きで、それでもひとりぼっちが少しつらいと思っていること。
 基本的に俺たちは会話らしい会話をあまりしないので、とりあえずコーヒーを煎れてやりながら言ってみたのだ。

『──猫がな』
『…あァ?』
『いたんだよ、道の真ん中に』
『それが何だよ?』
『別に。普通に、ゴミみてえに死んでただけなんだけどな』
『で?』
『俺もいつあんなふうに誰にも気付かれずに死ぬのかわかんねえな、と』
『それだけか?』
『まァ…うん、それだけだな』

 俺は多分、何を言われたかったかとか、何をしてほしいのかとか、そんな願いは三樹に対しては持っていなくて、そしてそれはきっと三樹も俺に対してはそうであって。ただ俺のことを忘れてしまわれても構わないとか、或いは騙されたふりでもして俺を愛してみるのも悪くはないんじゃねえのとか、そんなどうでもよいことばかり考えていたのだ。
 例えば、俺と三樹の間に恋やら愛やらが芽生えるという天変地異レベルに有り得ないことがあったとして──、寒い夜にはふたりでココアを飲む、ような、朝露で曇った窓に互いの名前を書き合う、ような、セックスの後にあたたかいキスをする、ような、すべてをひとつにした後に手を、繋ぐ、ような、名前を呼ぶ声や、やさしい汗や、哀しい呼吸を感じ合う、ような、そういう──俺たちでは絶対に起こらない事柄ばかりを想像して、想像上にしか居ないだろう他の誰か、そんな誰かと繋がってみたいと思っていた時期を何となく思い出して虚しくなった。

「おい」

 三樹が俺に呼び掛けたと同じくして俺をそのまま引っくり返す。俺の膝で三樹の脇腹を締め付けてみたところでもう、足を開けよ、とは言われない。猫が死んでいたように俺もいつ死ぬかわからないのに。そして三樹だっていつ死ぬかわからないのに。誰にも。繋がり合いたいと切実に願いながら諦める誰かも、いつ死ぬかわからないのに。
 セックスは痛い、苦しい、怖い。
 でも、気持ち悦い。
 だって、三樹は俺を置き去りにして俺は三樹を置き去りにしてひとりで楽しんでいるのだ。
 しかし、俺だってただの馬鹿じゃあ無い。

「おまえが猫だったら挿れさせてなんかやんねえよ絶対に」

 猫は刺激排卵をする動物なのでそれを誘発するために雄猫のペニスにはトゲがついているらしい。そんなもんケツにぶちこまれてみろ、惨劇になるだろうが。言えば三樹は一瞬だけ目を見開いてからにやりと不吉に笑い、だから俺が猫じゃなくて良かったなと言っただろ? と無神経な台詞をまた吐いた。
 ひっくり返した俺の耳元で

「さっさと四つん這いになれよ、気持ちくしてやっからさァ」

 と言う。獣では無いのだからどうせするならちゃんと恋をして愛し合える相手と1度だけでもしてみたい。それはどんなに素敵なことだろう、しかしそんなことはしたことが無いからわからない。猫のように獣同士の交尾のようにケツを三樹の顔に向けて四つん這いになった俺の腰をきつく掴んでまた下半身を叩きつけてくる。

「は、っ…あ、あ、…うぁ、」
「おいこら、にゃあ、って鳴いてみろよ」

 ああ、三樹。てめえは猫叉にでも祟られればいい。
 呆れながらも、虚しくて逆らうのさえ面倒臭くてうしろからがつんがつん、俺を突いてくるトゲの無いちんこに激しく喘ぎながら。でも。だって。しかし。好きでも何でも無い人間同士の、しかも生産性皆無な交尾でこんなにも気持ちが悦いのだ。ケツ穴を掘られて自分の身体を自分だけでは支えきれない程揺さぶられながら、そのせいで、にゃあお、と、満更でもなく応えた己の最低な希薄さに、俺も大概くだらない人間なのだと尖った八重歯で嘆息を噛み殺した。







2015/06/15
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