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 缶コーヒー
© ばんこ 
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 あらすじ:「ねえ、死ってどんなものなんだろう」 あの日、俺の親友が飛び立った。
▼一番下へ飛ぶ


「ねえ、死ってどんなものなんだろう」
あの日、俺の親友が飛び立った。





「夕詩、ファミマ寄る?」
「いや、大丈夫かな」
「そっか」

あまり長くは続かない会話。
夕詩は必要以上のことは基本喋らないから。

でも俺は一番この帰り道の時間が好きなんだ。
夕詩は必ず缶コーヒーを買って帰る。
微糖が好きらしい。


俺はそれを横目で見ながら、歩幅を合わせ
一緒に歩く、歩く。

静かな時間が流れ、閑静な住宅街には
二人分の足音が響く。


ただ今日だけは、夕日に照らされてキラキラと夕詩の艶やかな黒髪が哀しそうにたなびいた。




「あのね、紅夜」
「うん」
「明日から僕、学校やめるから」

ちらっと、影のある顏をこちらに向け
缶コーヒーを飲みながらそう呟く。

「そっか」
「そうなんだ、だからね」
「あと1ヶ月だけど良い?」
「良いよ」



ふふっと目を細め薄めの形の良い唇をきゅっと結ぶ。


「明日から夏休みだし、俺はずっと紅夜といたいな」

「うん、いるよ。
夕詩が望むならずっと」

「そう?それは嬉しいね」


そう言って、十字路でわかれた7月の下旬。





「おはよう」
「おはよ」

夕詩がLINEで送ってきた住所を頼りに部屋を訪ねる。
案外快適そうで良かった。



「なに?その袋」


俺が手土産として持ってきた白いビニール袋の中身をしげしげと興味深そうに覗いてくる。


「缶コーヒー10缶、あげる」
「はは、気が利くじゃない」



心底嬉しそうに、いそいそと9缶を冷蔵庫の中に
きちんと並べていれている。

そして、1缶を愛おしそうに手に持ち
カシュッ
とプルタブを開け、豪快に喉に流し込んで行く。



ぷはっと、薄桃色の唇から缶を離し
口内に残る仄かな甘みと苦味を堪能している。


「缶コーヒーなんて飲んで大丈夫?」
「さあねえ、まあ、あと1ヶ月くらい好きにするさ」


「夕詩らしいね」

「ありがとう」


くすっと笑い、ちょいちょいと
綺麗で細く白い手で手招きをされる。





「ん、なあに?」
「手をかして」

うん、となんの特徴もない男子の手を差し出す。
ガタガタと机の中から小さな白い箱を取り出した。


「はい、誕生日プレゼント」
そう言い、箱から銀色に光る指輪を取り出し
左手の薬指にはめてくる夕詩。


太陽の光に翳すと、真っ白な光が目を眩ます。



「きれい」

「綺麗でしょ、紅夜にぴったりだと思うんだ」

「そうかなあ」

「そうだよ、じゃあ僕にもはめて」

「うん」


ゆっくりと、金属の冷たさが残る
美しいデザインのペアリングをそっとはめてゆく。






「きれいだね」

「そうだね、これは結婚指輪だからね」

「結婚指輪かあ、じゃあ誓いのキスもいるのかな」

「あらめずらし、ワンコでも誘えるか」




言うが早いか頭をぐっと寄せられ、
数秒夕詩のキラキラ輝く黒い瞳を見つめ
啄むようなキスをした。



「ファーストキスはコーヒーの味…」
「なあに、檸檬の味が良かったの?」
「ううん、コーヒー美味しい」
「ははは、そりゃ良かったね」
「これで晴れて夫婦に…」
「夫婦になれたね」


こくんと、頷く。
夕詩はそんな俺をじっと見つめる。


「ねえ、紅夜」
「?」
「死って、どんなものなんだろうね」
「わかんない」
「うん、僕もわからないんだよ」

「でもね、僕のために泣いてくれたら嬉しいなあ」
「うん」
「ほんとに分かっているのかねぇ…」


けほ、こほ
苦笑混じりに咳き込む夕詩。


「あぁ、それと1つ約束だよ」
「うん」
「僕が飛び立っても、側を離れちゃいけないからね」
「うん」
「紅夜は、僕とだけいればいいんだから」
「俺も、夕詩がいればそれでいい」



「物分かりの良い子は好きだよ」







それが、交わした最後の言葉。

最後まで、愛してるって言わないところが夕詩らしいな。
今思うと、
それが夕詩なりの優しさだったのかもしれない。





「約束通り、側は離れないから」

「今、行くね」





そして俺も、夕詩のもとへ飛び立った。

End








2016/03/11
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