返信する

 蝶の行方
© 陸 
作者のサイト 
 R指定:---
 キーワード:別れ デザイナー 悲恋
 あらすじ:貴方は俺の周りを飛び回る身勝手な蝶なんだ…
▼一番下へ飛ぶ





「あ、待って」


目の前をひらひらと。
捕まえようとすると、するりとかわしてしまう。


「拓、お前は蝶が好きなのか?」

「……わからない。」




貴方は蝶によくにている。








【蝶の行方】






「あっ…はっんっ…」

白い壁にシンプルな家具。
冷たい色のランプが気持ちを高ぶらせる。


「やっ…もっぅっうごくっなっ……ぁっ」

「相変わらずお前は素直じゃないな。」

「何いっ…ぁあっ!!んっ」

静かな部屋にベットのきしむ音がひびきわたる。


この人とこんな関係になったのはいつだっただろう?





『君、いい才能もってるね。でもまだまだだな。俺のもとで才能を磨いてみないか?』



憧れのデザイナーだった。
だからこそ、まだまだと言う言葉が俺に火を点けた。絶対俺の手で負かせてやろうと思った。


でも、近づくたびにこの人の存在のでかさ、生き方にはまっていった。







「デザイナー界のトップが、こんな事してるってわかったら世間はどうなんでしょうね?」

「それはお前も同じだろ。NO.2君。」

「……なかなか的を得た嫌味をいいますね。」



そう、俺はこの人をぬこうと必死だった。

……NO.2。

どうすればこの人と対等になれるのか。
そればかり考えていた。




「お前はすごいよ。
これからも俺をおびやかすような存在でいてくれるだろう?」

「…はは、急になんですか。」


貴方は普段と少し違う目をしていた。

なぜだか胸のあたりが苦しくなった。















「っんっ……。」

薄暗い部屋に、窓から白い光が射し込む。
乱れたシーツは綺麗になおされ、俺の体にはしっかりと布団がかけられていた。

「有村?」


今日早いって言ってたっけ?

そこに有村の姿はなかった。
まぁトップともなれば急に仕事が入るのは珍しい事ではない。




見るからに高そうなマンション。
高価な黒基調の家具が少なからず並んでいる。

二人で暮らすには広すぎるくらいの部屋だ。




『部屋も飯も提供してやろう。そのかわり今日からお前は俺のものだ。』



彼はそう笑いながら言った。

そんな漫画のような台詞に俺はのったのだ。

一緒にいれば、何かがえられるだろう。
ただそう思った。


そう、ただそれだけだった。







シャワーを浴びながら体を見ると、あの人のつけた跡が体中に残っていた。

「見えるところにまでつけやがって。」


首筋に、一際目立つ紫がかった色をした一つの跡。



自分の体には、すっかりあの人の匂いがついてしまった。






バスローブを着て服に着替えようとした時に、初めてその異変に気が付いた。



服がない。



いつも置いている場所にあの人の服が一着も残されていなかった。


胸騒ぎがした。




鍵をかけずに部屋をとびだした。
電話をかけても少しもでる気配がない。


なんなんだ。
何があった。
頭に一瞬よぎった事に体が震えた。




都会の真ん中に位置する広々としたガラス張りの会社に走って入った。







「あかねさんっ有村はっ!?」

「え?有村さんですか?有村さんなら先程パリに経たれましたが」

「パリ!?」

「…知らなかったんですか?」


パリ?
どうゆう事だ。
そんな話一言も…


「いつ頃でていった!?」

「えっと、今頃空港に着いたころだと思いますが。」

「有難う!」





なんでだ
なんでなんだ。
なんで何も言ってくれない?





無我夢中で走った。
広い空港を走り回って、やっとのおもいであの人を見つけた。

長身に黒み掛かったスーツ。
貴方は遠くを見つめていた。




「有村!!!」


「…拓。」


バシッ

鈍い音がした。
手を出すつもりわなかった。
でも貴方の反応があまりにも普通だったから、無性に腹が立ってしまったんだ。



歯をくいしばり、有村を睨んだ。



「俺な、パリのファッション会社からずっと前から声かけられてたんだよ。
それでさ、俺ももっと新しい事をしたいしパリに行くことに決めたんだ。」



こいつ。


いつだってそうだ。
貴方はそうやって自分で勝手に決めてしまうんだ。


「俺にだまって…
俺をおいていくんですか?」


「拓……好きだよ。」


「嘘だ!!あんたの言う事なんて信じられるわけないだろ!?好きなんてっ……だったら何故おいていく!何故誘ってくれない!」


信じられるわけないだろ。貴方はいつだって俺より上の立場なんだから。


「嘘じゃない。
拓、お前は俺を見返すんだろ?どこまでもどこまでも追ってこい。
そして俺を捕まえてみろ。」

「っ…うっ」



貴方は俺の何を見透かしているんだ。
身勝手で、ずるくて、貪欲。
でも涙がとまらない。



「拓、俺がデザインしたんだ。服だけじゃなくてこうゆうのも手掛けていこうと思ってる。」

そういいながら彼は俺の首に手を回し、ソレをゆっくりとつけた。


「な…に。」


細い細工がされたシルバーの鎖に、シルバーに黒で細かい模様がついた蝶のネックレスだった。


「蝶好きだろ?」


「す…好きじゃっなっ」


涙でぐちゃぐちゃになった。

いい歳した男がこんなところで人目をはばからず泣くなんて。


「嘘が下手だな…拓。」

貴方は指で俺の頬につたう雫をぬぐった。



いつのまにか、俺はこんなにこの人にはまっていた。
こんなに心の奥まで痛むほど。





「こんなもので、ちょっとくらい拓が俺のものっていうアピール。笑」


貴方の顔はひどく優しかった。


貴方は最後までずるい人。

「くっそっ……絶対、絶対、捕まえてやるっ」


「楽しみにしてるよ。」



歯をくいしばり涙をこらえようとした。
彼の胸にもたれかかり、やりばのない悲しさを拳にこめた。



「好きだよ」












ひらひらと舞い
捕まえようとすればするりとかわす。

そして、たまに何処かで休んでは、また誰かがくるのを待っている。





貴方は俺のまわりをとびまわる、身勝手な蝶。








end











2007/03/11
▲ 始めに戻る

作者のサイト
編集

 B A C K 



[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]