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[1] 逢瀬/PIERROT
By PIERROT
12-12 02:00



「ルべライト」

石畳の、
幾筋もの隙間を、
赤い糸を通した和針が這いずり
縫われたあらゆる箇所で発光している
古民家が密集する小綺麗な路
それに挟まれた小さな川が海を目指して流れ
夜の帳は落ちる
水の音だけが空間で
生きながらえている

行灯は千の数だけ川を流れ
内実を喪失した無垢な光の粒が
町中を放浪する燃え尽きた鬼火を喰らおうと
餌を垂らしているように、
百合の花の模様を散りばめた浴衣の袖を
握りながら踊る少女が
ルべライトの瞳を揺らし
血の残像を無造作に書き散らして
白い霧を山岳から引き寄せ
飲まれていく
視界が純白に消える間際
彼女は妖しげに微笑していた

「赤い残像」

古錆びた映写機の回転音と
私の耳たぶを舐める
あたたかい女の
舌の 感覚
目を開けると私は一人
六畳程の部屋におり
一人掛けのソファーに座って
ノイズ混じりの映像を見ている

整列した男たちが
鮮血と内臓を弾けさせ
水風船のように破裂する
一連の現象の後、
彼女は、
映像の最後に現れ
血と肉とにまみれて
手を振る

そして、頬についた五臓の残骸を
長く 赤らんだ
乳頭で舐めとって
私の顔に吐きつけてくる彼女
私は 魅了されていた

「廃村にて」

炎天下のお天気雨
君は空を仰いで目を瞑る
白いワンピースに染みる
火葬場の煙が
君の白い肌に馴染んでいくように、

コンクリートの畦道は
満ち足りるほど黒く変色し
村を囲む森林のミドリと
どこからか響く雀の声
土壁の家屋の間を抜けると
閉店している駄菓子屋と
時刻表のないバス停
ベンチに腰を降ろすと
ジーパンが濡れていたことを
ようやく知った
天気雨はただの晴天に変化し
頬にぽたぽた垂れるあたたかい雫
仰げば君が赤い瞳から経血を流して
頬を 濡らして

駄菓子屋の中には
つがいの子どもたちがいて
空の棚を見ながら
なにかを話している
私は 独りだ

「黒い朝」

塗装の剥げた鳥居の端を通ると
境内の石畳の中間点に
背を向けた君が待っていた
空は暗闇に転調され
紫色の霧が下方に見える
田畑や家屋を蛇のように
這っている
君は黒留袖を着ていて
濡れ羽色の長い髪は北風に靡く
私は一刻も早くと
君の元へと歩き出す
然し近付く度に距離は遠ざかり
君は社の戸の前で立ち止まる
その時
振り返った君のルべライトの瞳を
私は逃すまいと手を伸ばす
社は逆風と共に君を吸い込んでいき
私は膝から崩れ落ち
瓦解していく
灰になる間際
最後に見た景色は
完全に閉まる社の戸

「溺死」

私は殺した
君との邂逅のために
毎日のように私を殺していた
書物を読むように
女を抱いて
涙と避妊具とで溢れたボロ部屋で
溺れていた
窓の硝子が蜃気楼のように
揺らめきながら煌めいている
黒電話には埃が積もり
畳には茸が着床して

男は独り 原始に横たわり
アナログテレビの砂嵐を見ながら
涎を垂らしている
ノイズの狭間には
ルべライトの瞳が
映り込み

「水葬」

私の背中から首にかけてを
やわらかな舌で舐め上げる君
ストロベリークォーツの繊手は腹を撫で
髪を撫で
私はその手を握りしめ
指と指とを絡ませる
足と足とでじゃれあううと
滑らかな太股の感触が
私を伝い 全身を痺れさせる
私は体の向きを変え
君のそのルべライトの瞳を見つめ
君は私の頬を何度も撫でて
唇を重ねてくる
舌と舌は戯れあい
摩擦ですりきれた粘膜から出血し
覚える痛みと血の味が
遺伝子と遺伝子を四重に融け合わせ
私たちは柩の中で
水葬されていく

「ルべライトU」

古びたバス亭で私は
文字の掠れた時刻表を見ていた
駄菓子屋にはつがいの子供たちがおり
麸菓子を頬張りながら
モダンロックの話をしている
農家の軽トラやミニバンが
狭い道路を走り抜け
私の髪を風で揺らし
外国人の観光客は
案内人の後ろで不明瞭な言語を
流暢に発している
私は、
母から貰った村の名産品の入った
重たいモストンバックを
左右に持ち変えながら
山形行きのバスの時間を
気にしている
山形に着けば東京までは楽なのだが
時刻表がよく見えなかった
とりあえず待つしかないだろうと
ベンチに座ると
お天気雨が降ってくる
あたたかい雨だ
コンクリートは黒く湿っていき
子供たちや外国人は民家や店で
困った顔をしながら雨宿りをしている
私は実家に帰ろうかとも考えたが
明日からはまた 営業の仕事が待っている
そうして 困り果てていると
びしょ濡れになる私の頭上だけで
雨は止んだ
仰げば ルべライトの瞳と
可愛らしいショートカット
白いワンピースを着た女が
優しく微笑みながら
傘を掛けてくれていた
なぜ と
私が言えば
彼女は、
知らない と
そうして私たちが無言に近い話をしていると
ちょうど良いタイミングで
バスがやってくる
私は女とさよならの挨拶をして
バスに乗り込み
バスは事務的な音を立てて走りだす
女は逆方向に歩いてゆき
私は一番後ろの座席に座わった
乗客は私しかいないようだ
不意に私は
女の行った方向を見る

彼女は、
泣いていた
ルべライトの瞳から、
涙を流していた
かつての幼さを 未だ湛えた瞳で
小さな腕に抱えた 秤から
溢れる 精液を
掻き出すように
泣いていた

私の乗るバスを見ながら
傘を地面に落とし
ひたすらに泣いていた
私は堪えきれなかった
たとえ君が
誰かの名前に書き変わって
しまっていたとしても

Android(SonySO-02F)
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