月刊 未詳24

2008年9月第18号

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二重星季節 玉座
 木立 悟





双子が
互いを呼ぶ
枯れ野
道ではなくなる道
枯れ野 枯れ野


追いすがり 追いすがり
とりこぼし
曇を燃す火
こぼれ こぼれ
大きく傾き
野に落ちる曇


花に棲む蜘蛛
手折られる花
花を手折る手
手のひらの蜘蛛
目のなかの青空
照らされる耳


縦の曇を聴く
光を聴く
異なる溝を 軋轢を聴く
鉱に眠る目
光を聴く


夢のなかの夢
土の上の硬貨
夢のなかに覚め
土にまみれた指をひらく
手のひらの上
五枚の硬貨


互いが互いを呼びあう歩みに
気付けばひとりになっていた
色のなか降る声の鏡に
うなじは短く鳴りつづけ
鎖骨は緑を流しつづけた


中洲には旧いうたがあり
雨に映り増えてゆく
たしかに手わたされながら
ずっと忘れられてきた
欠けた双子の物語
ひとりの姫の物語


まぼろし
涸れ川にかかる橋
わずかにかがやき流れる呼び声
砂の上に降りつづく雪
蛇の言葉でできた冠


ひとりの枯れ野
ひとりの玉座
愛しいもの等の骨に添われた
うしろ姿の少女の王国


















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蒼い夜
 丘 光平


ひとが灯っていた
奪われてゆく熱のように
傷みながら
ひとが灯っていた


みつけたばかりの花を
しまい忘れる呼吸のように
追いかける風
追いこしてゆく風


一滴の夜は 波紋をひろげ
うきしずむ灯りが
満ちてゆくのは
欠けてゆくのは


 時をはぐれて
雪が降っていた 
幼い落ち葉のように
しんしんと降っていた




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夏虫
 凪葉

 
 
ひとり、
沈みこんでいく夜に
鈴虫も、コオロギも
相変わらず
静かな声で鳴いているね
まるで世界中が
眠りについているかのような
そんな
ささやかでやさしい声だから
目を閉じてしまえばすべて
忘れてしまえるんじゃないかって
そんな気さえしてくるんだ
 
ねぇ、
ゆっくりと冷えていく夏に
虫たちが、
取り残されないように、と
消えていくための歌を絶えず
唄い続けていくことは
もしかしたら人が、
わたしが、
生きていくことと
同じことなのかもしれないね
生まれてから死んでいくまで
終わらない一日の中で
足踏みしたり、唄ってみたり、さ
 
ほんとうは、
夜は、新しい一日までの道標だから
終わりではないんだ
朝から始まった一日は
また新しい朝へと向かう夜へと繋がっているから
だから、終わらないんだね
来年の夏に鳴いているのは
今鳴いている虫ではないんだってこと
あたりまえの中で混ざり合って
押し潰して
なにもかも
見えていなかったんだ
 
更けていく夜に
沈み込んでいく先にある
なにもないところまでの
絵空事、のような
身勝手な願いごと、
くりかえすのは
もう、
おしまいにしなくちゃいけないね
いつか放つ夜を
待ち続けることでしか
呼吸が出来ない
不器用な世界のはしっこで
鈴虫も、コオロギも
鳴いているんだね
わたしが、
この夜に沈み込むまで
ずっと
ささやかな声で鳴いてくれて
いるんだね
 
 
 


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パノラマ
 ミゼット


眠らなければ
繰られない

明けたとしても
夜、
まだ昨日だ

肺の中に
蜘蛛がいて
そいつが
遠くへ行こうとするので

風が吹くと
ひゅるひゅると
喉の奥から糸が連なる

夜更けには
役目を終えた
古い電車の亡霊が来る

蜘蛛が去った
空の肺には
道化師たちが住み着いて
サーカステントを張り巡らした


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二重星季節 新章
 木立 悟





ざらついた
明るさのない
明るい日
写真に
死者に
塗る色もない
そのままの日


岩と涙
価値あるものから伝わらぬ価値
あなたの漂着
あなたの波間
蟻と世界と
翼なきうた


押し寄せる群れ
はざまの光
花びらが苦しい
苦しくない
その器のくりかえしが
言葉なのか
巨大な無数の無のあつまりに
小さくほぐれゆく笑みなのか


あなたのひとつがあなたのひとつに
異なるものの重なりとして
他のいのちのかたちから離れず
けして多くはまたたくことなく
他のまたたきに寄り添いながら
他のすべてよりまたたいている


こぼれている
こぼれつづける
言葉と色と器と音は
同じものとしてまだらにかがやく
晶に銀に水銀に
金に鉛に緑にかがやく


窓から舌の音がする
終わりのない透明に目をふせ
終わりのなさを舐め取っている
音の雨が音の柱を
静かに静かに押しつづけている


葉の裏 曇の火
虫の羽のにおいたち
見え隠れする雨の卵
孵れ 孵れ
楕円の地に
悲しみに
波と流れをもたらせ


風に吹き寄せられるものがかがやき
窓はずっとざらついている
時間を負わない平衡の
片目ふたつ分の明るさが
星のようにあなたをまわり
あなたの朝とあなたの昼
あなたの夜を受けとめてゆく



















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流れ星のうた
 丘 光平


たとえば
一筆の白が
つみかさねてきた黒を
燃やしつくしてしまう そのように

のこり香もなく身投げした夜
あなたは 
あなたを辞めたのではなかったのだと


ひとつはふたりに分かれ
ふたつがひとりに帰らぬまま
なにが起こらなかった
なにが聞こえなかった


 かわいた夜半の
しずかな皮膚のした
張りつめた水のように
あなたは流れていた




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きおく
 吉田群青

いじめられたり
仲間外れにされて
悲しいときには
必ず文房具店へ行った
陳列されている
機能的なボールペンや
流線形の絵筆に指先で触れる
このような小さいものを
手先を汚しながら作って
必死で生活をしている人たちがいる
ということは
わたしの心を少なからず慰めた
文房具屋の店主は
もう人間の形には見えないほどの
すさまじい年寄り方をしていたが
お釣りを間違えたことは一度もなかった

文房具屋の外へ出ると
きまって噂話をしている人たちがいて
あのじいさんはせいよくがつよいから
とか いつも同じことを言っていた
せいよくって何だろう
たべられるものかしら
噂話をしている人たちは
いつも黒い服を着て
帽子を目深にかむっているから
悪い鳥みたいに見える


昼間の半透明に明るい浴室で
空の浴槽にしゃがむ癖があった
裸になって三角に膝を折って
人知れず変態したり
小さな声でうたをうたったりした
何かが厭だと思っていて
でもそれが何かは分からなかった

長時間同じ姿勢でしゃがんでいると
体から夥しい水が流れ出してくる
その水は瓜のにおいをたてていて
尿とは違うようだった
膨らんで
もうすぐ咲くような予感がしていた
昨日床屋で刈り上げた襟足がちくちくして


甘いものを好んで食べ続けた為だろうか
家の庭へ出てしゃがんでいると
蟻にたかられることが多かった
わたしは知らぬ間に
夥しい糖分を分泌しているらしい
しちしち音を立てながら
体中の穴という穴から侵入してくる
規則ただしく列を成して
まるで鋼鉄で出来ているようだ
振り払っても逃げないし
閉じようと思っても意に反して
体は開いてゆくばかり
自分の体が隙間だらけだと知るときの
なんとなく張りつめたような気持ち
とか

お腹の中や食道や耳に入り込んだ蟻は
そのまま死んでしまうらしかった
痛さも苦しみも感じなかった
動くと死骸がぶつかりあって
小雨のような音を立てた

苛立たしくて
足もとの蟻を渾身の力で踏みつぶす
しゅくっ と音を立ててつぶれた

縁側で陽に当たりながら
祖母がしずかに眠っている




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呼鐘
 木立 悟




手首をすぎる風の先に
向かい合う双つの枯れ木があり
雨に雨を降らせている



夜が増すごとに
熱は辺をゆく
遠くも近くも ただ打ち寄せる

朝の裾が笑い
見えなくなる
はざまはにじむ
雨ににじむ

幸福を差し出し
ゆがみを得る
軌跡に実る火
燃す音のなか
燃されぬもの

闇のなかに
闇の穂があり
闇より暗く
水を集める
小さな器の
ふちを照らす


母に盛られた毒を吐き出し
自ら選んだ毒を呑むとき
羽は生まれ
羽は生まれ 空を焼く

やさしいものは毎日変わる
やさしいものは見つからない
やさしいものはどこにもいない
焼け落ちてゆく無人の街なみ

おいでおいで
あっちへおいき
手のひらの鐘
鳴り響く

舌の上に血と空が重なり
雨音にも稲妻にも分かれることなく
呑み込まれなお呑みこまれながら
そのままの鐘を聴きつづけている


何かが流れ去っていた
光の色が変わっていた
水のような匂いがつらなり
涸れ川をひとすじ下っていった

白に遊び 銀に遊ぶ
夕陽にはない色
はじまりと終わりの外の手のひら
さかさまの刃の森から降りそそぐ

巡るものが描くむらさき
夜のうしろにある色を呼び
動かぬものに手を差し延べ
動かぬものを動かしてゆく



地に到くことのない静かな明るさ
痛みは今夜も牙の位置にあり
拡がりゆく火へ鳴り響いている





















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pic/北城椿貴


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