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月刊 未詳24

2010年7月第40号


2024年04月26日(金)19:03


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Musica Purgamentum
 葉月二兎


 井戸から汲み出した雛鳥の
無精卵に含まれていた「しんでいけない」と嘆く
それに、腕が二鎖
 の塩基配列になって絡み付いている

磁鉄鉱の硬度のように携帯できる重力となって

それが何処からか剥がれ落ちた大き
 な破片であるとさえ思っていた
ただ隣接した地肌に イオンの濃度が高まっていることを、

「さようなら。君の奇形児。」

でも、僕らはそれを丁寧に拭き取って、
ダンボールのなかに置きっ放しにしてい
たことが嬉しかったんだ

僕らから君を取り集めようとしても、
見つかったのは永遠、 
 それも、意味
の持たない永遠が、それを代わりに再生されてしまう

浸透圧によって溶け出してしまった火星の氷の破片すらも僕らは飲み込んでいた気でいたんだ
僕らの部屋に降り注いでいたのは不器用な傷
 を付けられてしまった衛星

馬の胎盤を僕らがその破れ目に吐きだした

ほら、それが
 北側に飾っていた白い花の観念に似ていた

それは冷静を装っているけど、狂っている
かのような、微笑みを
君は永遠から取り出して
  互いを知らない存在の、実験を取り仕切る
だけの、
正体を少し知る

水滴の表面に君の足音がうずくまることのできないように
赤いペットボトルが列をなして
それくらいの配給
 を待っている

「私、こわいわ。だって......」

君と僕らが日々を乗り過ごしていた皿のうえに
お腹はすいていませんか?

胎細胞に蛾の沈み落ちてゆくよ
みたことがない
 それを
隠すようにして、

僕らは困難な時にあってさえ、互いの存在を知らない
ままに、  それが何であるのかを見極めようとしていた
    肺魚
が、産み付けられました

まるで化石から営みを掘り出したかのよう
に君の子
 宮は汚泥の匂いしかしない

して、さえ、
僕の視覚は観念のパレードを廻り、
剥き出しの頚椎に青白く噛み跡を気づかせる
のは、そこ、
けして、色がなかったからではなく

液晶の水面となった感情がそれを食べている
  雌馬が爆弾を飲み込ん
で破裂してしまったよ

臨月寸前だった幽霊が壁掛け標本のなかから脾肉
の 軟らかさを汲み出したから
僕らの季節に花々を渡して
  からは、
毒蛾が僕
の背の高さまで闇を築く

 だけの、それ
に、正体をまた少し知る
「僕らの、同じ深淵のなかでは眠れない」
 それの、意味
の持たない永遠が

して、さえ

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ひとつ めぐり
 木立 悟











    雨が光になるときに
    置いてゆく穂は十の色
    水銀の譜の散る窓に
    まぼろしのかたちが来ては去る


   爆ぜては透る
   限りある音
   色の速さを
   あおぎ見る色


  海を知らず 海へ向かう
  滴がまたたき 片目を閉じる
  雨がはおる雨の色
  音の後に見ひらくもの


 双つのかたちを水はめぐる
 蒼の終わりの白へ白へ
 熱はこぼれ 高まってゆく
 空の逆さへ逆さへ響く


これしか色がありません
ええ 無量でいいのです
すべての生きものの入口に
ある日ふいに立つのです


    手のひらに沈む珠の行方
    まぶたの内をただ聴いている
    はじまりのかたち 肉のかたち
    おぼえていない光のかたち


   脱ぎ捨てた衣が標となり
   原をすぎる陽にたなびいている
   穂の滴を見つめる蝶
   無数の自身に動けない蝶


  那由他は那由他の那由他に分かれ
  硝子の巣から飛び立つ硝子
  影は直ぐの迷路を歩む
  霧と霧のはざまを歩む


 失くしたひとつに気付かぬまま
 ずっとお手玉をしていました
 空が空へ揺れています
 渡すものも無く 明けています


原のなかを
道は羽ばたく
白みはじめた地の底から
常に常にはじまりは吹く





























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まるでおだやかな宿命みたいに
 ホロウ



きちがいのきれいな歌声が
鞠のように転がる夜明けの街路
途切れた記憶が空気に触れて
朝露となってショーウィンドウでこと切れる
ぼくは眠れなかった
きちがいの歌声が聞こえたので
こうして出てきたのだ
あまり自慢出来ない衣服を身にまとって
はげしい雨の後の
世界はやさしいですか
かれはそんなうたを歌っていた
ぼくはそんなかれの音符に
よけいな記号を足さないように
気がけて一本違う通りを
てくてくと歩いていた
かれの声はきれいなテノールで
夜明けの街角によく似合った
きちがいだと判ったのは
きれい過ぎたせいかもしれない
ぼくは水たまりを踏みながら
寝ぼけた頭で聞いていた
はげしい雨のあとの
世界を気にかけてばかりいるそのうたを
それこそが音楽だなんてふうには思わなかったけれど
それもまた音楽なのだというふうに考えながら
まだ車のまばらな街角の空気は澄んでいて
ぼくは眠れなくてよかったと感じた
きれいな声のきちがいのうたがあり
雨はやんでいて
空は明るくなろうとしていて
それ以上のことがあるだろうか
それ以上のことが
なにか必要に感じるだろうか?
そんなことだけでいいのだ
幸運というものが
たとえばやすらかな眠りなんかと
ひきかえに得られるようなものなら
ぼくは空缶を踏んづける
だれも殺さなかった君主のように
ほこりといらだちの
両方をつま先に込めながら
最初の車が静寂を裂き
きちがいはうたを忘れ
頼りなげなハミングしか
そこには残らなかった
なのでぼくは
コンビニエンスストアに
立ち寄って
パンを買って
食べながら帰った
そうだ
記憶は




朝露に
変わってゆくのだ




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ななしのひとみ
 腰越広茂

何者でもない 何者かへと黙礼をする
白く底の無い曇った空をひとすじつう
っと黒い鳥の影がとおりすぎる。
わたしはいったい誰なのか
しらむおもてに波ひとつ立たずないだ
水平線を立ちつくす
すると
いちじょうのひかりの無表情へさす
一瞬
黒いドレスと髪のみが風にそよぎ
われをわすれる。いつも
しみこおる民はあおぎみる
つかいふるされた亡霊の影を
洗面所の鏡が
ゆらぎつつ手をふりつづけている。
雲のむこうへ、飛び去る影のつめたあい
叫び
銀河の中心の暗い。源流
引力は
ひとつひとつのいのちをひっぱる
誰にも呼ばれず。
出会ってしまうきずだらけのいのり。
わたしになまえはありますか
ほんとうのなまえが
ころがっている石にさえある
つらぬく
という。何者も最期は
ひとりきりだそして
すべてひとつになる
果てしないそらが
この目に映り



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