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只今恋人出張中につき。
R指定:無し
キーワード:電話 ほのぼの リーマン
あらすじ:運命(カズナ)の恋人は、10歳年上の青葉(セイハ)。そんな彼は一泊の出張中で…。ほのぼの話。 ※サイトは15禁です
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……寒い。
仕事から帰った俺は、一人寂しく夕飯を食べ、シャワーを浴び、TVを眺め…やがて早々と眠りについた。ベッドには一人分のスペース。俺は出張中の恋人の名を呟く。
「…青葉…」
いつも彼が横たわるスペースに覗くシーツの白がやけに寒々しくて、虚しかった。
時計を見ればまだ十時。青葉今、何してんだろ。
…まだ研修とか受けてんのかな。さすがにもう食事とか、風呂とかか?
思わず携帯を開きかけ――枕元へと戻した。やめよう。ガキじゃないんだ、迷惑かけるなんて。
「…寝よ」
起きてるから寂しいんだ。ほら…きっと、遠くから聞こえる電車の音とか、犬の鳴き声とか…二人で過ごしてれば気にならない音が耳につくから。
「おやすみ、青葉…」
馬鹿なことをしているとは思いつつも、呟いてから目を閉じた。
その瞬間、携帯が鳴る。しかも厄介なことに、この音はメールじゃなく電話。
…なんだよ、人がせっかく寝ようとしてんのに。
機嫌を少し損ねた俺は、手探りで携帯を掴み、目を瞑ったまま電話に出る。
「はい、榊ですけど」
…しまった、不機嫌丸出し。上司だったらまずい。
後悔しつつ、恐る恐る相手の言葉に耳を傾ける。
「あれ?」
…聞こえてきたのは、そう呟いた柔らかな声。
「不機嫌、ですか?」
「青葉っ!? えぇっ!?」
えっ、まっ、マジでっ!?
耳に届いた大好きな声に、驚きと嬉しさと焦りで叫ぶと、青葉は小さい子を諭すように微笑む――そんな顔をきっと向こうでしていると思う。
「もう夜ですから、もう少し静かに、ね?」
「えっ、あっ、了解っ。…ってか青葉、出張忙しいんじゃないのっ? 電話大丈夫っ? 何してんのっ?」
長電話は悪いかなぁ、とか思いつつも、つい急(セ)いて聞いてしまう。会えないのはたった一晩だけなのに、話したいことばかりだった。
「今はお風呂を出たところ、です。まだ同室の方が戻らないので…多分もう少し大丈夫かな」
「そっか」
青葉はざっと、想定していた程キツいスケジュールではなかったことを説明してくれた。
でも正直、声を聞けることだけで舞い上がっていて、細かい内容は頭に入ってこないけど。
「ところで」
「何っ?」
「運命、さっきやけに不機嫌のようでしたが…」
青葉の声色が急に真剣になった…かと思いきや、堪えきれなかったようにクスクスとイタズラ気な声。
「僕に会えなくて寂しかった、とか?」
「ちっ、違…っ!」
あまりにもどんぴしゃな答えに、顔中が一気に熱くなる。
同時に、あまりにもあからさまな俺の反応に、向こうで爆笑紛いをしだす青葉。くっそ…。
「じ、冗談でしたのに…っ。あははっ」
「うるせ…っ」
けれど、言い返せば、笑わずに言ってくれる。
「僕も寂しかったですよ?」
嬉しいはずなのに、素直に言葉が出ていかなかった。顔は相変わらず、異常に火照ったまま。
「おっ、同じ室の奴と浮気すんなよっ!?」
「ふふっ、しませんよ。貴方だけです」
言った直後、携帯の向こうでガシャリと音がした。同室の人が戻ったらしい。
「信じるからな。…じゃあ、おやすみ」
青葉にも付き合いがあるだろう。気を遣い、無理矢理会話を終えた。
「あ、はい。おやすみなさい」
ピッ、と、短い電子音と共に電話が切れた。
なんでだろ、声が聞けて嬉しいのに…また少し、寂しい。わがまま、かな…。
なんとなく携帯を握りしめたままでいると…携帯が再び鳴りだした。
ディスプレイには、大好きな名前。
「…青葉?」
耳に当てて呟くと、苦笑いをする青葉の声。
「すみません、また…。あの、どうしても…」
なんだろ? 疑問符だらけのまま聞き返せば、少し照れたような笑いを含む声。
「おやすみなさい、運命」
すごく優しく俺の名を呼ぶその声に、一瞬で胸にナニカが満ちるのを感じる。
それはすぐに、笑顔となって込み上げてきて…。
「んっ。おやすみ、青葉っ」
「はい」
また電子音と同時に青葉の声は聞こえなくなる。
だけど何故か、満ち足りた気分だけがここにはあって…俺は携帯を枕元に戻した。
明日もきっと冷えるから、あったかい料理でもつくっといてやるか。それから…お疲れ様って、名前を呼ぼう。
そこまで考え、俺は睡魔に身を預けた。
2008/04/22
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