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 理想論
© 柚月 
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「はぁ?別れた?」

呆れたように言った俺に、「まあ座れよ」とこいつは自分の前の席を指差した。放課後の教室に、こいつと俺以外に人影は無い。

元々お前から告白したんじゃねーのかよ。ヘラヘラと笑う幼なじみを振り返りつつ正面から見つめ返した。

「そだよ、別れた」

「あんだけのろけて来たクセに…!」

今思い出してもイライラする。なぜデートに付き添わねばならん、彼女のかわいいところランキングなんてみじんも興味ないし、彼女と一緒に奢ってもらう筋合いもない。

「思ったんだよね、理想と違うって」

「へー…」

理想と現実が一致する確率は、ほぼ0である。こいつはそんな事も知らんのか。

「なんなんだお前の理想って」

お前のドリームがどんだけ高いのか、試しに俺に聞かせてみてはいかがだろうか。
こいつが惚れただけあって、女が苦手な俺から見ても彼女は可愛いし、優しかったように思う。

うらで豹変して幻滅したの流れだったら、やだな。

「俺の理想としてはねー」

「なるべく簡潔に頼む」

長くなりそうな気配を察し、そう一言で告げる。

いい加減お腹すいたし、早く帰りたい。

てか、家が近いんだから帰りながらでも良くね…今さらだけど。

「簡潔に?」

「出来れば一言で頼むわ」

そう言うと、こいつはじっと俺をみながら静かに頷いた。

それから、一度視線を外し天井を拝み、続いて床に視線を転がした。

ほんのわずかな間だったが、異質なまでに静かで妙だった。

「……お前」

「は?」

「お前、かな」

俺の理想。

視線が外れたままだったが、静かで自然な物言いだった。
それが俺の頭を、より困惑させる。

「ちょっとたんま」

「はい、待ちますよ」

「一言じゃなくて良いから、分かりやすく言って下さい」

チラと幼馴染みの顔を見ると、視線があってしまい慌てて反らした。なんだこの状況、恥ずかしい。

「お前が俺の理想の最終形態だわ」

「悪化してる!」

俺は頭を抱えながら突っ込んだ。

「え、何が?」

「理想が俺とか訳が分からんのに、最終形態とか言われても困る!」

「俺のこと嫌い?」

「いや、好きだけど!そういう問題じゃなくてだな!」

「じゃあ付き合おうよ、決まり」

「は」

頭を抱えたまま視線が交差する。

にこやかに笑いながら頷いたこいつに感じた感情は、あきらめだった。



理想論

(面倒見いいし)
(料理出来るし)
(変な気使わなくていいし)
(子どもとか出来ないしね)

(セクハラだ)







2011/07/10
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