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junk
 嘉納紺

午前四時には決まり事
眠りが途切れては煙草

懐かしい冷暖房機の音を耳に
ひどく卑猥な夢をみた
卑しさを狂おしさに換えてみたいが
その直前で毎夜見失う決まり

広すぎる部屋にあるものの
広すぎる寝台の隣にないのだよ

削れた胸に唾液を流し込んだりして
たくさんに満たしてくれないものか
淋しい背中に唇と爪とを宛てて
ついでに寄り添ってくれてもいい


薄紫の羽をした
アゲハが脳裏を
渡って行く時刻


卑猥な夢を断ち切る午前四時

背中は空の温もりに
預けてもいられずに

こおこおとこおこおと

機械音が肺の洞を痛めてしまうから

渇きながら始まる夜明け
無心に煙草を吸う決まり


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野鳥
 ルイーノ
 
 
 
ひゅうる、
る、

めくられゆく
めくられゆく低空を
飛んでみてくれ

ちいさな桟橋の世界
開かれた寒空
きみはまるで
水槽を
手に入れたかのよう
白に染まりゆく
言葉のない眺めが
快感なのか
快感だったのかい

あああれは
他人の暖炉だな
あああれは
ようく燃えている
橙色のモザイク
ふつふつと
城壁の草種
その輪郭を包む

それは粗末な炎
枯れたジビエの苦み
渡り鳥が過ぎたなら
声が耳へと届いたろう

冬の晴天の厳格が
夜の月光の幻が
この距離を埋める前に
逃げろ
どこまでも逃げろ
風をならせ
捕まるな

鼻の先は
水晶ではない
泥に顔を
詰まらせて死ね

哀れなる翼
星は
奪わる事なく
降るだろう
また風が鳴っている

無情にも追う月光が
そして今夜を青にする
かなしみは
野鳥だけが知っている
 
 



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ホームにて。
 ピクルス

 
ごらん
こんこんこん
と降る雪
沈黙の音を聴く揃いの耳
くるぶしまで埋まりながら
あの樹まで歩いた
いっぽにほ
ざくざくり
誰が春になると咲くと思うだろうね、櫻

風つめたく悩ましく
僕等の首を撫でる
振り返るとすぐに見えなくなる足跡が
暗示するのは
白い黄昏のカンパネルラ
鋼鉄の月が霞みながら浮かぶ駅舎
この世のものとは思えぬ声でアナウンスが流れる

(猫撫で声は好きじゃない)
僕は、栞を
君は、櫛を

黙ったまま泣いていた
錆びた鉄橋を渡って最終列車が
もうすぐに

(朝とは違う顔で帰る)
(冬の葡萄がいつも酸っぱいとは限らない)
(哺乳類は総てハダカになってまるくなる)
(鼻と鼻をくっつけあう)
(蜜のような水が巡る音がするね)

鉛色の空に輪郭はないけど清潔過ぎて

私は少し怖くなったので彼のコートに両の掌を入れました
僕は不安を紛らわそうと踵を幾度も鳴らした

なんにもない河川敷に
轟、
と風が吹いて
君の乗る汽車は

私は帽子を目深に被りました
僕は煙草に火を点けた

黙ったまま笑って
黙ったまま頷いて
君が去った東は見ない
君がやって来た東を
雪は
ますます
風は
静かに
僕は
動くことも出来ずに
 
 


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