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ほんのう
 えあ
 
わたしは橋を渡ったつもりできみにさわる
ほんとうは、きみはあちら側にいるのに、触れている、見えるひかりとなって、こちらまで、伸びている
足下でさわさわと擽る、枯れすぎてしまった雑草
さりさり鳴る砂の粒
わたしはわたしの背面に並ぶ花たちを
躾ることで咲かせていった、ことを思いだしていた


きみはわたしを見ている、
姿形はわからないというのに、しっかりと
視線を此処へと寄せている
湖の上にも立てるような垂直の姿勢で、そのことを、わたしは知らずに、知っている
波打ちぎわに捨てられた死体のように、
重なり合って、
ゆっくりときみにわたしの熱を移してゆきたい
そうして、すべてをあなたに移していって、消えていくものを、
わたしは積み重なった死体のいちばん下から見ている
守っている


(声をだすことを忘れて)
乗りすてておいた自転車の車輪はもう何年もせいししていたように、軋んだ音をだす
触ったさきから、ぐずぐずと崩れてゆきそうな、色をしていた
簡素な骨組みのむこうの、だれかの棄てられてしまった瞳と、目が合う
けれども、わたしはそれを拾わずに、なかったことにしようとする足で地面を蹴って、瞳に砂をかけて、瞼が閉じるのを、待つ
(発熱、それから蒸発)
そうして、誰の足跡もない方へ、光が伸びるのを、待っている


背中を、きみの方に預けている
わたしが見ていないものを、きみはとおくで見ている、つもりでいる
きみの影ばかりを集めて、束にしてから、川へ流す
背中の視線の温さに、かざす花が思い浮かべられず
運ばれることに無関心な影たちは、なんにも含まずに
触れたことのない、つめたい最奥で、絶える
呼吸が結ばれようとしている、橋の中間で
お互いに寄り合えずに
指先に熱を持つ

 


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負け犬、噛まないのか?
 泉ムジ
 

  所詮 つくりごと
  だから許せ

大門氏、三たび来りて
口笛を吹く
熟読中である「現代詩手帖」伏せ置き
何事ですかと問えば
キミぃ、朗報ですよとのたまう
歪な毛穴に誇張
された頬の紅潮に察知する
つまりこたびも合コンですね
大門氏、応えていわく
天与無き者は求めよ、戦え、そして奪うのだ!
箴言に力籠り握り潰す「現代詩手帖」
突き上げる情動
の斜めな発露により
ゴウコンコーンと宙に弧を描く

  無人の部屋
  の隅に
  ねじくれ へし折れて
  その紙束は「現代詩手帖」なんかより
  よほど相応しい題
  /例えば?
  /「悲しみのオブジェクト」とか?
  を与えられることも無く
  消費されるための
  エンタアテイメントでは無い
  極北に
  眠る 孤児の
  なきがらを
  幾つも内包していた

五対五が
五対三となり
余りニ、帰りて
−きゃつらの面は、あれは、栄養失調の狐じゃないですか
−しかし右端の女性はなかなかでした
−いやいやキミぃ、ああいった温和しそうな女性こそ、一皮剥けば毒婦だ
−果たしてそうでしょうか
−そうだ、化けておるのだよ、雌狐さ
口口に
ワンワン吠え
大門氏、蒲団を占拠
暴君の高鼾
に辟易し「現代詩手帖」を拾うと
数ページ抜け落ちて

  ファック
  ユウ と思う



 

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リ/バース
 望月ゆき


昨日が、夜の中で解体されていく



肉体だけを、濡れた風がばらばらにして
過ぎ去り、それでもまだ鼓動は 宿る



わたしが必要としているものは
わたしの内部の、底辺にあって
誰かの、決して届かない舌を いつまでも
待っている 
たどりつけるまで、幾度も
動脈であみだを繰りかえしながら
誰も見たことのない永遠とか無限について、
考える あるいは、



眼を閉じて、眼を開く その反復
次の季節が廻ってくる、違和感
そうしてなにもかもは 真似事だと



たましい、だったかもしれない
たましい、と口にすることの曖昧さの明証
夜が 眠りからいちばん遠い場所で
しゃがみこんでいる
すこしのびた爪の先を、噛みちぎる
小刻みに、咀嚼されながら 不安定な
わたしの中心へと向かう



太陽に沿って、朝がくると
解体されたきのうと、よく似た背格好の今日が
組み立てられていく 
規則正しい脈のふるえが伝わり、わたしの
皮膚が閉じられると
昨日よりすこしだけ、低体温の今日がはじまる



 


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アザレア
 フユキヱリカ
 




女子校育ちは気がつよくて
と、眉を顰(ひそめ)る父の
たしなめる手にエスコートされ
日曜はショッピングに行く

青白いガラス窓の
温室に咲く花でさえ
その身を愛らしく
あざとく子種を残すのだから
月とふたつの星を胸に抱いた
母が
太陽であったように
それは自立の為よ、と
得意げに笑った


教会へ続く並木道を
紺色のコートに
いろとりどりの少女たちが
柔らかな頬と
ひざ小僧を朱くしながら
ミニスカートの裾を
ひらひらさせて
擦れ違って行く
白い襟の純潔は
吐息のように

あなたとこの路を通った時も
三十まで独身だったらもらってやるから
と、指を絡ませ
やがて
少女は歩道側へ
庇われて歩くことを知った


花言葉は
あなたに愛されて幸せ
ねぇ
今度までには
彼を紹介してもいいかな


アパートの窓から
積もりそうな淡雪を眺めた
明かりは消したまま
りょうてのひらをひろげたくらいの
浴槽に浸って
たまにはわたしから
あなたの背中を抱きしめると
ああ、守られている感じがするねと
重心を傾ける

二年経ったら
もっと広い部屋に越そう
とあなたは言うけれど
このバスタブに
タプタプとお湯をはって
脚を伸ばしきれないくらいで
今はちょうどいい

立ち上る湯気の中
わたしたちは
ついばむような約束をして
実を結んだ




 


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無題
 クマクマ
 

鏡と正面して、あざをあざで化粧する。旗よ、籠よ、セックスを論じる以外に、その斧をぶつけようがなかったとしても。

信号で停止。罪の是非を、今日の来る毎に問うこともなく、横切っていく積乱雲。

そんなにパーティは続いていくから、石は金にして、穴は泉にして、贈りものを用意しなければいけない。検疫なぞ、始まってもいない。


 


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コスモポリタン
 時渡友音
 
僕がたった今踏んづけた蛙を
空の向こうに広がる隙間から眺めている君たち
いたずらに降り注ぐ紫外線を
そっちにお返ししてやりたい
がんばれアスファルト!
(容赦なく染み込む黒い波)
干からびた蛙
これはそっちにはいないのか
黒い路面に白い腹
その上を歩く黒い蟻
これもそっちにはいないのか
蟻の目指す白線
路面を分断するこの長い線の向こう側は
昨日からこちら側に戦闘行為を仕掛けている
たくさんの蛙が黒蛇の皮を剥ぎに来て
あるものは黒蛇に飲まれあるものは途中で行き倒れ
それもただ眺めている君たち
地上の雄叫びをそっちに跳ね返してやりたい
がんばれアスファルト!
(黒白黒白白黒白黒黒黒白)
ここの強い日射しを知らない君たち
むせ返るようなコントラストを知らない君たち
ここでは黒蛇の皮をひん剥いた蛙が
それを被ったまま次々と仰向けに引っくり返っていく
しかし彼らの腹は日射しに侵されじみじみと黒ずんでいく
僕はそれらを一匹ずつ丁寧に踏んづける
(白い腹黒ずんだ腹)
背負われた黒皮はアスファルトに癒着する(黒黒黒)
そのさまもただ眺めている君たち
蟻は白線の向こうを目指している
やって来た蛙がそいつを踏み潰し
背中の黒を地に押し付ける
それを僕が踏んづける
でも遠くの君たちには僕と蛙と蛇の違いも分かりはしない
僕は平べったいそれをアスファルトから引き剥がし
力いっぱい宙へ投げつけた
 


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