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ANSWER−切れ端
 凪葉


死ぬ、という言葉を口にするくちびるの動きを、わたしはまじまじと見つめているのです。それは、死ぬ、という行為が死なない、という行為とどのようにして結びつくのか、いくつかの考察を昇華させるための糸口としての、いえ、それらは単なる言い訳であり、ただわたしは、その一瞬あなたのくちびるを押しつぶしたかったんだと思うのです。
 
 
聞きなれないトランスミュージックが、聞きなれないというだけでわたしを拒むことさえも、流れていくことの無の中で然るべき形に変わり、わたしのからだはいつしかそれらを求めていたのです。これは、遠い昔の話。まだ兄が兄として存在していた頃、わたしたちは夜の国道を宛てもなく走り続け、幾度も同じ旋律を流し、中古の車に敷かれた不釣り合いな程高価な革のシートをどのようにして盗みだすのか、と、熱は果てなく、口元から垂れ流しのまま溢れては冷め、響く重低音は絶え間なくリズムを刻み、やがてわたしたちはいつも、誰も居ない海へと辿りつくのです。そこでは、今あなたが見ている絶望を色にしたような海の唸り声が、ただひたすらに胸元をえぐり、言葉というものは、ことば、ですらなくわたしたちは安らかに声を亡くして、赤子のような震えを覚えるのです。
(それが、今あなたが震えている理由なのだとは、わたしは決して、口にはしません)


はじめまして、さようなら。そのようにしてすべてが一区切りであるのなら、わたしを呼ぶわたしにも、さようならと言える日はあるのでしょう。もしその時が来たなら、わたしは一通の手紙を書いてから、灰にして友へと送りましょう。それがまたひとつのはじまりとなれば、わたしはまた新しいわたしに、はじめましてと言えるのです。これは、わたしがはじめて「死なない」と口にするくちびるの動きを覚えた日の、暁の色です。どうぞ手にとって、確かめてください。どうぞ口に放り込んで、確かめてください。あなたの中でうつくしい放物線を、この星の半円を描いていく様を、わたしに言葉として与えてください。最後にあなたが、さようならと口にした後、わたしはまた、はじめましてと朝を生みましょう。
 
 
すべては嘘からはじまっています。死ぬ、というあなたは、死ぬという言葉をわたしへと手渡してしまいました。手渡されたわたしは、死なない、という言葉をあなたに返そうかと、思いを巡らせています。その巡りの谷間に幾筋もの水脈が細く長く伸びているのだとして、わたしはそのひとつを選ぶことを戸惑いはしません。ですからわたしはまだ、辿りついていないだけなのです。
 (友へ、伝えるはずの言葉がありました。自らを殺める者たちの自らを語ることの息吹を、あなたが憤りを告げた日からわたしは幾度も夜を巡り、ようやく今、あなたへと辿りつけそうなのだと)

あなたは嘘を終えるための日付けを、数えてください。そしてその歳月の果てでわたしが答えを口にする時は、わたしのくちびるの動きを、どうか忘れずに見届けてください。わたしはあなたが口にするさようならの語尾に手作りの終止符を与えます。それは、あの夜の海を詰め込んだどこまでも黒く絶望色の、うつくしさの内側に閉じ込めた、たったひとつの言葉の渦です。
(はじめまして。それをわたしは決して、口にはしません)





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黄色い星
 フユキヱリカ


誰が教えたわけでもなく
指で三つ、をつくる
しいちゃんは
たくさんを
それはささやかなたくさんを
欲しがろうとする


絵本読んで、と
わたしの膝上に乗っかって
ほお擦りするように
高い体温を
抱きしめると
揃ったえりあしから
シャンプーと
ほのかに甘いにおいがする

角の公園で
たくさん遊んだ日は
耳のうしろから
おひさまのにおい


せんせ
四つちょうだい
ピン、と高く突き出した
主張する手は大人びて

一つだけよ
と母がなだめ
ちっちゃい紅葉の
てのひらに
こんぺいとうを握らせると
舌足らずに なんで、と
わたしの目をのぞきこむ


四つちょうだい
春に、おねえちゃんになるの
しいちゃん一つね
赤ちゃんにあげるの


良い先生らしからぬ
わたしは
手品師になったかのように
ほらしいちゃん
てのなかをみてごらん
一つ、二つ、
三つ、四つ
四つあるよとひろげる

そして
わたしの手から一つ
上手につまんで
ちいろい、
きいろい星だ

含んで笑うのである


カリ、コリと
しいちゃんの口の中で
見えなくなった星は
真昼の月のように
空へと溶けた

かわいい妹がいいな

願いをのせて

タンポポみたいな
ちいろい、
きいろい星だ


ささやかな
しあわせ
含んで笑う




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無題
 みなみ弘之

嗚呼 額に納められたままの 親和の欲求の少女たちよ

沈黙を保ち 今は約束通り深呼吸しているの?

素朴な愛に サイケデリックな唄
健康な心に 痛ましき詩人の心理学

それでも僕らは 平和を保ち 愛を祈った

今 昔より平和な町で 頑張っているよ

承認欲求は 多分君たちと同じように 僕の心の中で ざわついていたよ
ギターと絵筆と2冊のノート

因数分解なんてやっていないよ

理系じゃない?

そう でもきっと理系 彼らの言った通り

夕方 隣りの部屋で小沢健二がかかっていたよ

いちょう並木は僕たちを「おとなになれば?」って諭してくれそうだね

この詩が経過報告

君たちが沈黙の中祈るばかりだとしても だよ

じゃ

夕日に

サヨナラ しよう

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名前をもらう日
 安斎修羅

別れて、泣かなかったから、ずっと苦しかった。


波打ち際を
心臓ぼっち抱えて
不安定に歩く私は
まだ名前すらなくって
幸せを知らない幸せで笑った
あのときはそれが本当でした
今だって嘘にはならないけど
本物じゃなかったってことは分かります

音がなる方へ
まだ道が途切れない方へと
私は四六時中歩いて
それにも終わりがあること
なんとなく風に聞いていた
悲しいとか
そういう青い気持ちは湧かなかったのに
自分が寂しいって
どこかで焦っていたせいで
いくつかの足跡を見落として
引き返したり慰めたり
忙しく誰かを待っていた


星を売るときの約束を、あなたはまだ憶えていますか。


そこが最果てのように見えた
あなたは濡れた髪を搾って
私と同じ波打ち際を
さくさくと軽やかに渡った
手をとりあうと温かくて
初めて自分を理解できて
そうだ
私が私だけじゃない私に
なったら名付けたいと思った
できればパラスとアテネみたいに
悲劇でも誰かと共にあるよう
願いを託して星を売った
あなたにだけその場所を教えて
別れて
今度こそ泣いたら
それがそのまま海になって
命を抱いたら幸せでした
道はまだ
どこも
途切れぬままで



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Mのオマージュ
 榊 一威
ピアノの音にのって歩き出す、揺れる風景、何処に行くのかわからないのに、どうして皆足を一歩一歩だし
て進んでいくのでしょう、隙間を埋めるような願い、生きようとすることに、何かを拾うたびにおもう、記
憶の端々に残る、消えてゆく、消尽する、ものたちは戻れないから、始まりがあって終わりがあるね、広い
大地の上、闇の中、夢を描くよ、罪になろうとも、あなたと、出会えて良かった、それで、良かった、

(狭間に落ちた、)))導くモノは、今日も、

また同じ時を過ごすのか、それとも何か変わるのか、ありふれた現実が偽りを纏い信じろと云う、同意は到
底できないのに、誰かが頷いている、明日がきたって、こんなにも掴めない世界、その瞬間、失望に変わる
ことを知っているのに、追いかけてしまう、灰になるまで扉を捜す、冷めきった体温で、彷徨い歩くんで
しょう、同じ歩幅で、そうしてきたんだろう、わたしは、忘れないよ、例え、傷をえぐられたとしても、

(希望/絶望、泣きました、それで、繋がる、))

灯がともるように朝日が昇る、見つめる事ができずに蹲る、穏やかな朝なのに、旅立ちは辛いね、本当の答
えがあると信じていた、あの幼い日を、何も怖くなかったあの日のあなたを、わたしは眩しく覚えている、
一瞬で思い出に変わる、この日常は残酷で、時間は研がれた刃みたいだけど、オレンジの朝焼けが沁みるか
らか、あなたは、怖くない?遠くて近い明日がくるまでの、この間隔が、いつの間にか空は蒼色、

(唱えた単語は、あなたへ移動する、、、、)

濡れた風が、凪いでゆくから、先回りした泪が止まらない、埋める腕は誰の腕なのか、そんなシーン、夢の
ような日々、振り向いて足痕が消えてゆくのを確認する、見えているものは拘り、つまり出口があると云う
事は、外の世界が切り開けると云う事、人生は永久に出られないブラックホールだと、おもっていた、此処
にいる事すなわち今、通り抜ける希望が、少しだけ見えた気がして、あなたは涙を止める方法を知った、

(イコールじゃない、記号、もある、、)))

触れる、直に触れる世界は、光を吸い込む、切り取る風景は、光に濡れネガに残り、あなたは途方もない選
択肢からひとつを選ぶ、サインすれば、扉は開く、彩られた世界はたぶんあなたを包むでしょう、その時初
めて解るんだ、見落としていた/見向きもしなかった未来を、感情を、思考を、危険を、そして愛情を、さ
あ、わたしの手の届かないところまで、最果てまで捜しにゆけ、きっと、きっと未知の答えが待っているだ
ろう、




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自画像
 みなみ弘之

ホロ苦いマウンテン・ブレンドと柔らか過ぎるナポリタン

この喫茶店の奥のトイレの壁には
いつかの画家が描きなぐった自画像が架けられている

妖精は その周りを「虻ではないのよ わたし」 と言うように 旋回しては
日曜の午後 少しだけ着飾って来た GS勤めの娘を 魅了しているかは判らない

その娘の彼氏はセブン・スターの煙と戯れながら 彼女がトイレから戻って来るまでの待ち時間ともつかない短い時間の中で 魂をhealしているつもりでいる

こんなありふれた日曜の午後を あの自画像は どんな心持ちで 見つめているのだろうか?

時代は急速に降下し始めて止まないところだ
GS勤めといって 時給はいくらだい?

自画像を描きなぐった画家の激情には 誰も気付かないまま
時代だけが 擦り抜けるかのように 降下して行くのだ




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pic/北城椿貴
top banner/吉田群青
under banner/町田アキラ

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