月刊 未詳24

2008年5月第14号

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すぎるうた
 木立 悟





灰は盲いて仄になり
灰より熱い火のなかにいる
背から腕へ溶ける羽
夜の漕ぎ手の手首に宿る


星の奥から風が来る
目のかたちの痛みに降る
十月十日後のめまいのために
寝床がふたつ用意される


川に落ちた楽器を追って
うたうたいは帰らない
舳先に置かれた器の水に
月と曇はくりかえし咲く


   照準が 土に突っ伏して
   何を狙っているのですか
   ああ突然 百年がすぎて
   そのままのかたちに腐っております
   ひとごろしどの
   半分土になった
   将軍どの


慈悲にあふれ 心を欠いた家族のうた
何かを殺め 逃げつづけるもののうた
さまざまな色の光の輪が
川のなかへ降りつづく


   戸口には何処かで聞いた声
   だが誰なのか思い出せない
   巨大な無言が
   くちびるとくちびるのはざまに立ち
   見つめあう目に互いは居ない
   あなたの秘名も たましいまでも
   わたしは知っていたはずなのに


器で雨と光をかき出し
波紋がすべて流れてしまうと
蒼のなかで蒼を見る目の
ほんとうの色が聞こえくる


見知らぬ祭を舟はすぎる
目をとじるたびうたは変わり
水を呑むたび別の夜が来る
羽は手首をまわりつづける















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ささら
 鈴木

とびちるこぼれるあふれる
亀裂は断続する黒点から
ただれて淡々と
丸いメロディを一、二、四
円周率の汀に咲けなかった蘭のつぼみ
ひらくたおやかなゆびへ花粉は黄色く
なみだぼくろに代わって
裂ける 縷々
そこにあなたのぬけがらがある

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薔薇の空
 丘 光平



さんさんと
朝に燃された稜線の
響きあう七色のしずけさを
どこへ仕舞えというのだろう

溢れかえる焦燥を
留めおくためだけに
繋ぎあわさるわたしらを
破りすてよというのだろう

 まばたきする間に
燃えうつる薔薇たちと
摘みおとすそのまなざしに

さんさんと
明日を待たない大きな空は
一点の曇りなく降るだろう




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遠投
 んをわ

 
水の方向を向いている
それはたなびいている
それは
というそれは何ものも指していない
留めているものがほしかったのだ

指差しをしたかった
その方向が留めている水
が向かっている
たなびいた模様と反射熱
あちこちに散らばった (どの方向かに)
あちこちに散らばった (内側や外側に)
準星が惑わす限り
それは散らばっている
見失っている
指先は螺旋


一歩踏み出すと隕石として笑っている
足が払われて給水塔から水が漏れ出す
それ

と指を向けていいだろうか


か かん かんた

んなことだ


目玉が蒸発してタイムカードが押される
テレビ芸人が水浸しになって凋んでいる
首を吊っている
白い鎖骨の女性がそれを指差して
高級な指輪が眩しい
 
 


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ほくろ.
 しもつき、七


停留所にしろい花たば
立ちつくすのは、乗車し切れなかった
女の子たちの小さな初恋
ハンガーにかかった、青いシャツが
洗剤のにおいをふりまくと
少しの初夏っぽさにゆられて
風になっていく


適切な温度のバスのなか
女の子たちはされど気丈に
丁寧に育てあげてきた白いうなじの
エロさを笑いあって/それはもう、さわやかに
やわらかげな長い髪、
さびしい風におしつけている



やかましかった空が
しんと晴れて
きいろい


「似合わない茶髪で何年もいたの」
「たばこの香り、気に入らなかったなあ」

すきだった人のわるくちは
しょうもなくて
妙に心地よいことをしっている



  まちには
  海があって
  鳥や、首輪の犬たちがいて
  よくそこにでかけた
  日曜日が好きな
  すてきな人だった



女の子たちは睫毛をふるわせると
なんとなく、
降りますランプをそっとおして
それぞれの場所へかえることにする

やさしい顔を
している



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むらさきの むらさきの
 木立 悟




脚を焼く火が
胸にとどく前に消え
ふたたび冠のかたちに現われ
両肩を抱き燃えつづけている


まばらな陽のなか
あなたは身を反らし
地と空のきわ
水と空のきわを
飛沫のように埋めつくす羽


夜のむらさきが
見えなくなってもむらさきのまま
森や原をひたしている
手からも器からもこぼれさまよう
あなたは
そのようなあつまりから来た


奥の奥にある傷の熱さを
ひとつの水がまわりつづけて
息やうずきや
治らぬ唱を聴きつづけている


宇宙を知らずに笑む声が
砂の庭に自身を描くとき
あなたは羽と冠を脱ぎ
炎だけをまとっている


崖と荒地
躊躇する指
紙の上に
紙と同じ音があり
街や道の切れはしを
夜の曇に敷きつめる



苦しいですか
童話が燃えてゆくのが見えますか
でもあれは偽りです
ほんとうのほんとうの語り部は
まともなひとたちのためだけに
おかしなもの 不思議なものを
見捨てたりはしませんから



それがどれだけ苦しいものでも
あなたを消し去ろうとせぬものは
あなたをさらにあなたにする
ふたつ以上の季節の名を
発することのできぬ日々の
あなたは満ちて見えぬむらさき
ほのおほどきはばたくかんむり























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そんなふうにして過ぎていく
 望月ゆき





 きみがとなりにいて、まつげの
 触れるくらいとなりにいて それは
 おどろくほど退屈で いとおしい
 午後で







きのう、オジギソウが発芽して
日記にそのことは書かなかった
夕立がやんで
運ばれてくる、夏の気配と
カーテンのすその匂い
それとおんなじくらいにきみのことが
好きだけれど
それも、書かない



毛羽立ってしまった
思い出とか、記憶、
しまいこんだそれらを忘れたふりをして 
あしたの天気のことなんかを話す
部屋の中は
心地よいうっとうしさと、孤独と、
しあわせのようなものが
飽和している
日記をつけるのは、もうやめよう



週末になったら、遠出しよう
どんなかなしみからも見つからない
彼方まで
オジギソウには たっぷり水をあげて
ぬかるみを避けながら
迷走する、夏の先端
もしも追いつかれたら 泣こう



あした、
おはようを言うと きっと 
オジギソウはおじぎをして 
きみの指の隙間からひらかれていく
未来、
それよりも きみ
足の爪を噛むくせがあるって知っても、
きらいにならないかな
そんなことばかり思い出して、笑う






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山岸さん
 腰越広茂


山岸さんは、
もう いない。
おさるさんに似た顔で
さようなら
もいえず
むねにちいさく根づいたきずが
うずくのである
おさるさんに似た顔で
いま
さようならをいおう
山岸さんをこえる
かけ声で

しげみに風のやつがはいりこんだ
ひっそりとした足どりで
初夏の山肌をなぜて来たのか
青青とした
せせらぎのような清清しさだ

澄んで澄んだみずみずしい夜空を夢みながら眠りにつき
あふれるひかり鮮烈な朝に欠けた三日月が
  山脈を刻むことごとく
脈は律動し
今日はいつだ
果して

とこしえに覚めぬ 欠け続ける

潮風にあらわれたしじみに
いつまでも暗いしげみからのぞかれている
かけ声のうしろすがたが
ほんのりとかすれていく

ある日果せなかった
羽化をかかえた懐から
こだましていくおもいでが
ゆう焼けに染まり
しせりしせり と夜の重さへ
しみこんでゆくのである
夜は遠く暗い記憶にみちて
限りなくふくらむ ことば無い声を
山岸さん、と発している



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