月刊 未詳24

2009年1月第22号

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夜の山
 木立 悟









板のような
霧のなかの
岩をめぐる
冬のまぼろし


応えは応えつづけている
応えられぬものはないかのように
ひとつひとつこぼれゆく
ひとつひとつ消えてゆく


長い夢の記憶をたどり
痛みの無さ においの無さ
土の上 水の上
花の不安の道をたたむ


夜より高く
暗い山を
小さなものが登りゆく
何もないこと
明るいこと


川に沿い
花と花の露があり
風の茎を映し
鈴になる


明けることのない夜のとなりに
転がり明ける夜があり
花を花に咲き散らし
指を脱ぎまた指を脱ぎ
うたに積もるうたを数える

























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CELESTINO
 鈴木

きみはサックスを吹くぼくは席につく
それを読むにおいやかな菓子をきみは
吹くぼくはそれをホムンクルスのたえざる
赤さ
へと
ロクス・ソルスのたえなるふるさとへきみ
はそれを飲むふるいにかける集まりを作る
ぼくは
きみと会うにおいて血の酒によりそう歌詞とはざまへと
きめくブルーノ・タウトのイスのブルー、はもん
どりうつを吹け
ば苦悶のむらさきへときみは集まる
欣求浄土!
の……
戯れに迫る音色からサックスはいずこへ飲まれるの
ひどく青くしるべなきしらべに届く葉よ
風鈴の印象ぼくはそれ
押し吐くの……かつて吹奏楽を耳にしたことがない家内の墓づてに
吹くの……海底で「おぼわ」海底で「おぼわー」……
ジンベエザメのげっぷがぼくとして石塔の苔がぼくとしてきみは
サックス
を吹くぼくはそれを飲む藝大の早大の一角で鳴らす歯をきしる
モカを飲む三月下旬並のわらしべの午後にまた飲もうねって
どうでもいい感じで蚯蚓を裂く断面が時間なのか
三十五号館は六角先生の
設計だよ退任……四分割の視界……左上から金属音……右上で笑う七草
ハープ、シャルドネ、二瞬ひきつる樫、えびぞり、
「あなたがそうといえばそうなんでしょう」、四元、ぼくは
それを
鉄棒のように見るみるミル変貌をとげ
刺す指から親の血がこぼれるあなたはあなたをのがれさる名ばかりの……


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NEWS
 5or6
 
Northで罵られ
Eastで言い捨てられ
Westで飢え焦がれ
Southでは散々の
ニュースが響く

インディア・ペーパーで賞辞をはり
穴をあけて
覗き込む政治家
琴爪はエメラルドの煙を掻き
瓶詰めオイルで鬢を束ねる国家
黒髪は太陽により黄金に錯覚し
少年達は文囈のブーケで
星を反映する髪飾りを作った

カタパルトの音が聞こえるまで

深緑は夕日にとけ
宣言の封は破られ
震災は空に鳴り響く

世紀を待たずに
十も数えぬまま
銃を取る子供たちの
まなざし

見知らぬ大人の
(奇襲爆撃)
見知らぬ大人から
(鎖国霹靂)
見知らぬ大人へと
(嫉みの狙撃)

問い掛けては
転んだり
見上げたり座ったり
痣になって

彼らの夕暮れが終わっていく

五感宿る去来を着座して時間を待つねだりに奴らは懐からばらまくお菓子をなんの感慨も無しに見上げては黒煙を撒き散らしている

それが
セロファンのまやかし

加えるんじゃない
くわえるじゃない

消毒は済まずに浮かぶラクダの瘤に押しつけられるのは鉛

やられている
やられているのか
やられている
やられているのか

何も知らない迷彩

あぁ
野原の中で
もうすぐ咲く花の名前も知らずに
血液の繋がったシャベルで
みんな穴を掘っては
縮こまって
埋まっていく

それが聖戦というのなら
平和である世界は実に退屈で
遠くの方で爆弾を買い
空に投げ付け
石油のような匂いの海で
浮かぶ子供たちがいる事を新聞で気付く

そうだ聖戦だ
凄惨だそうだ
そうだ凄惨だ
聖戦だそうだ

穴の開いた靴で
徴兵のお手紙をお隣さんに持っていく
火薬が見えそうな世界だから
すこし襟を立てて
背を曲げて歩けば

Northで罵られ
Eastで言い捨てられ
Westで飢え焦がれ
Southでは散々の

ニュースが響く

赤いドアの向こうで




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往路
 木立 悟




闇と闇が話している
静けさが首すじを去ってゆく
遠い扉から
のびる明かり


岩の呼吸を冷ます波
夜へ遠のく夜を照らす熱
朝には消える
氷の鐘


雨のなかの灯
滴を横切りつづけるもの
動きは赤い線になり
熱のむこうに音をひとつ置く


砂のまばたき
紙が白が羽が白
ゆうるりほぐす
ゆうるりつむる


明けない夜の流れの前に
泡は目覚め 曇を揺らす
分かれゆくうた
ひとつひとつの色を見つめる


はたはたと裏切り
氷の鐘を持ち去る手
ふたたび鉛の首すじをすぎ
静けさは幾度も星へ到く


























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LUST
 イシダユーリ



夜の街灯を
叩き割りながら
踊り方を
見つけよう
裸に
レインコート着て
透明を濁そう
嫉妬が
ソウルを
ラバーにする
ゴムで
口をいっぱいにして
もぐもぐやるんだ
よだれが
アスファルトに
信号を描く
電信柱は
みんなむかし
兵隊だった
まっくら闇に
うごきだして
女の子たちの靴を
脱がして
袋につめこむ
ずりずりと
ひきずって
朝がくるまえに
海に捨てる

朝日が
ぬらぬらとした
ステップを
照らしたら
恥ずかしくなって
しゃがみこもうね
恥ずかしいってだけで
抱き合おうね
殺しあっても
なんの後悔もないくらい
この道は濡れてる
たべて
たべて 
歯をたてて
なめて
なめて
とてもつめたい

かたい とても

おまえのことなにもしらない
あたしが言うのは
たとえば
さびしそうな目をしているね
星が胸につきささる
きもちわるいダンスみたいに
ロマンチックな科白
なにもしらない
おまえがここにいる
ってこと以外は
なにも
しらない
よだれでできあがった
小さすぎる
地上絵が
かき鳴らす
リアルは
名前も知らない
あの娘の歌
この世にはいない
あの娘の歌

きもちわるいダンス
ロマンチックな科白
ラバーソウルと嫉妬
すっかり
蒸れた
レインコートが
ピンク色に
染まる
すてて
すてて
ぐちゃぐちゃにして
ひろって
ひろって
しわをのばして
くりかえして
やめないで
次の夜がくれば
街灯は
なにもなかったように
光っている
から
胸かきむしる
この世にはいない
あの娘の歌が
とても必要




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ぱん
 吉田群青



あんぱん
と囁くときの
女の子のくちびるが
あんなにも淫靡なのは何故だろう

ふっくりと焼き上がったあんぱんを眼にすると
ぼくはつい乳房を連想して
歯を立てて食らいついてしまうのだ

特に真夜中
さびしいときには
幾つでも貪り食ってしまうのをやめられない

一人暮らしの四畳半で
天井の隅を見つめつつ
あんぱんの空き袋に囲まれて横たわると
透明な女たちに守られている気がして
ひどく幸福な気持ちになる
それは刹那的でひどく甘美だ
現実逃避にはうってつけだ


最近
ますます鋭角になってきた君は
クロワッサンばかり食べている

尖った先端を白い歯で噛んでいるところは
まるで共食いそのものだ

この頃の君はますます痩せて
部屋のどんな隙間にでもぴったりと収まってしまうようになって
見つけることも困難になってしまった
さくさくさくという
君の歯が立てる音がそこらじゅうに満ちているから
どこかに存在していることだけは解るのだが

台所の床にクロワッサンの食べかすが無数に落ちている
その光景は
荒涼とした月面に似ている

いつの間にか外は真っ暗で
まるで宇宙みたいである
おおいと君をよんでみるが
宇宙には空気がないのだから
どんなに近くにいようとも
どんなに喚きちらそうとも
何の音も
君には届かないのである

それを忘れて何時までも呼ぶ
わたし
呼ぶ程に孤独になってゆく
ぽつん


早朝
薄暗い店の中で
たったひとり
ぱんを焼いているぱん職人
痩せた肩を震わせて
泣いているようにも見える
腕がゆっくりと放物線を描き
生地を叩きつけ
小麦粉が霧のように舞う
早朝の森の中のようだ
絶滅した美しい蝶のりんぷんのようだ

彼の背後には
無数の切断された女の指
みたいなしょくぱんの耳が堆く積まれていて
ああ
あのひとはひとをころしてきたのかもしれない
たったいま
ひとをころしてからここへきたのかもしれない
そんな気持ちすら起こさせる

やがて開店したぱん屋で
にこやかにレジを打つ
ぱん職人の爪の先には
わずかに血が付着している
その手からぱんを買うとき
何故だかひどく官能的な気分になって
体がぶるっと震えてしまうのを
止められないでいる






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夜を噛む
 ma-ya
 

鎮火したあとの原っぱには
わたしの家がありました
一匹の、犬がいました
お気に入りの香水の壜と
母からもらった鳩時計と
それからたくさんの
キャラメルがありました

白い煙が浮かんで
星座がかすんで
でも踏んでいる焦げた土は
あたたかいです とても
風にのって
足元に落ちた銀杏の葉を
掴もうとする
指に切り傷を見つけました
こうして
知らないあいだに
傷んでいくのだろうね、
林檎みたいな
清潔な果実ではないけれど

無造作に散らばった
真っ黒の木屑を一つ、
犬歯で噛みました
咳きこみ
唇からぽろぽろと零れたのは
夜の欠片だったのでしょう
 


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pic/北城椿貴


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