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[452] By とおりながらS
06-29 20:26

小さく呻き土間に倒れ込んだままの桃彦から鞘を取り去ると、彦八は脇差しを収めて寝間に向かう。
お峰とお竹と目が合ったが何も言わず寝床へと入った。

翌朝、ボロ屋に桃彦の姿はなかった。
彦八は別段慌てることもなく、顔を洗い朝餉を済ませていつものように鍛練場へ向かう。
「む、ここにおったか」
到着とともに桃彦の姿を認めた彦八は、改まった倅の姿に思わず声がもれた。
「親父。本日今より弟子として鍛えていただきたい」
手をつき頭を下げる倅に、彦八は一瞬老顔をほころばせたが、すぐに真顔に戻る。
「覚悟はよいな?」
「昨夕に思い知ってございます」
地面に額をこすりつけんばかりの倅に向けて一つうなずくと、足元の棒切れを示す。
「ではまずお前の体力から見よう。それと歳加減もいい頃合いじゃ。本日今より名を桃太郎と改めよ」
「承りました」
答えて立ち上がると、桃彦あらため桃太郎は棒切れを取り、力強く振り抜く。
老齢の父と拾われの息子の修業の始まりであった。

SH006
[編集] 妹の部屋覗き
[453] By とおりながら21
06-29 22:45

それからの日々は単調だが充実した一家であった。
桃太郎は姿をくらませることもなく鍛練に励み逞しくなり、お竹も歳相応に美しくなり家事に磨きがかかった。
彦八とお峰は子供達の成長に目を細めながらも、厳しく優しく教えを与えていた。

しかしある日のこと。
「様子がおかしいのです」
お峰はそっと彦八に告げてきた。
聞けばお竹のちょっとした振る舞いに異変を感じるのだとか。
「例えばどんな?」
様相の分からぬ彦八は問うた。
「ぼんやりとしている時があるのです。桃太郎を見つめていたり、裏山を見上げていたり」
ふうむ、と彦八は腕を組む。
「まさかとは思いますが……」
言いさしたお峰を彦八は制止する。
「言うてはならん。口にすれば子供らも気付くやもしれん。今は言うてはならん」
しかし、と彦八は押し黙る。
桃太郎を一端の剣術使いに育て上げるのと同様に、お竹を嫁にやることも老夫婦が負った役目である。
彼等が成長の暁にはいつか伝えねばならない秘密である。
そしてその秘密に関わるような影がそれぞれにうごめいていることを懸念としてある。
「時が来るまで言うてはならんぞ。場合によっては墓までじゃ」
彦八はもう一度念押して、お峰も「はい」と了承した。

SH006
[編集] 妹の部屋覗き
[454] By とおりながら22
07-02 20:58

「桃、お代わりはよろしい?」
「ん。もらう」
質素というよりも貧しく代わり映えのしない夕餉であったが、その中でも桃太郎とお竹のやり取りは子供の頃から変わりはない。
彦八は目の端でそれを見ながらも、事を進める時期に来たのか判断せねばならないと考えていた。

食事も終わり家族が寝床を用意する中、彦八は煙草をふかしながらお峰に伝える。
「近いうちに里に下りる」
「なにかご用でも?」
「いやなに、ひさびさに庄屋殿と世間話でもとおもうての」
「左様で。……お泊りなさるのか?」
「ん。おそらくそうなる。万一の事などないと思うが、桃と竹を頼むぞ」
「……かしこまりました」
彦八の意味ありげな言い回しと目配せに、お峰は裏の意味を理解して受けた。

SH006
[編集] 妹の部屋覗き
[455] By とおりながら23
07-04 22:54

三日後、彦八は早朝にボロ屋を出て里へ向かった。
桃太郎には鍛練と課題を命じ、お竹とお峰には家事と戸締まりを言い付けた。
昼をかなり過ぎた頃には彦八は庄屋の居所に着き、「ごめんなさいよ。主はいるかえ」と気軽に入り込む。
これまでに幾度か縁のあった里である。すんなりと客間へ通されさほども待たずに庄屋が現れる。
「これは先生、おひさしゅう」
挨拶を済ませ茶と菓子が運ばれると、庄屋が「実は」と切り出し
「近々にご挨拶に伺うつもりでおりました」
と続けた。

SH006
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[456] By とおりながら24
07-08 20:51

「なにかあったのかえ?」
思わせぶりな庄屋に彦八は先を促す。
「いえ大層なことではございません。家督を娘婿に譲って、私は隠居いたそうかと」
後悔もなく微笑みながら話す庄屋に、そうかいとだけ答えて彦八は茶をすする。
「気ままに暮らすのも良いものじゃ。して、隠居してどうする?」
「娘婿の仕上がりは万端でございますが、しばらくは共に住んで様子を見ようと思います。
一年もしないうちに少し離れたところで畑でもいじろうかと思っています」
答えて庄屋も茶を一口。
「この里と先生のお宅の真ん中あたりを考えていますよ」
「ほほ、この老いぼれのまね事はほどほどにな。気楽にする前から気を使うてはならぬよ」
彦八も笑顔で応じてお茶請けの羊羹をほおばる。
「いえいえ、そんな……。それはそうと今日は何か御用がおありと見受けますが」
「うん。庄屋殿の現役最後のお願いとなりそうなのだがな」
彦八はもったいつけるように一旦間をおく。
「娘の嫁ぎ先に、似合いのところはないかと思っての」

SH006
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[457] By とおりながら25
07-21 21:49

「左様で。お竹さんもとうとう年頃になられましたか」
庄屋は目を細めやや遠くを見る。
彦八もつられる様に目を伏せ吐息を逃がして感慨深げにうなずく。
「そうさな。わしのする大仕事の一つなのやもしれん」
「そんな大仰な。子供などは半分は自分で巣立っていくものですよ。最も、私は婿をもらったので幾分かは動揺しませんでしたがね」
「それはそれじゃて。大事なのは拾い子である出自よ。剣術道場を潰した藤堂の名は使えぬて」
「またそのように」
「まあ聞け。そこでじゃ、庄屋殿の遠縁なり養女なりで嫁がせて欲しいのじゃ。さすれば竹には今よりマシな暮らしをさせられようと思うてな。なに、公家や武家の嫁に出せるだけの修業はさせたわえ。どうかな庄屋殿?」
彦八の言葉に庄屋は腕を組んで黙り込む。
SH006
[編集] 妹の部屋覗き
[458] By とおりながら26
07-31 16:49

「いや、悩むまでもないことでした。先生にはいろいろとお世話になりっぱなしでした。この村田清兵衛、隠居前の最後の仕事を引き受けさせていただきましょう」
「そうか、やってくれるか」
「ただし一つ条件がございます」
一瞬晴れやかに笑った彦八であったが、庄屋の言葉にむっと唸る。
「同じ時期に拾われたお子、桃彦さんでしたか? 彼ともどもに養子として当家の籍に入っていただきます」
「やつは元服の証として桃太郎と改名したわえ。しかし桃も養子にとは、なにか理由がありそうだが?」
幼年期の暴れ放題だった桃太郎を知っている庄屋である。今は改心して彦八の指導の元で剣の鍛練に励んでいるとはいえ、庄屋には桃太郎を養子に取る利益はなにもないのだ。
彦八の指摘に庄屋は「実は」と真相を語りはじめた。
SH006
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[459] By とおりながら27
08-08 20:29

「以前に捨て子を探している二組の来訪者のお話をさせていただきました」
庄屋の前置きに「覚えておるよ」と、彦八は先を促す。
「あれ以来、数年のうちに何度も訪れておりまして。さすがに奴らも諦めはじめたのか、人数は減り同じ者が一人で訪れるようになったのでございます。
何度も迎える度に顔なじみになり、話す機会も増え、世間話もするようになりましてございます。
それで分かったことがございまして、捨て子を探している一組は大商会で、もう一組は野党でございました」
「まさかに」
「向こうはそれぞれの主らから命ぜられてやむなくの探索。それが何年も何回もこちらに足を運べば嫌気もさしましょう。本人たちの口から聞き出しましたので確かでございます」
彦八は有り得ないと心の隅に追いやっていた予想が現実になったことに唸った。

SH006
[編集] 妹の部屋覗き
[460] By とおりながら28
08-09 00:16

「して、どちらがどちらなのか」
ずいぶん長い間をおいて絞り出すように彦八は問うた。
「大商会が女の子を。野党が男の子を、でございます」
やはり、と腕を組んで彦八はまた黙り込む。
お竹が大商人の娘であれば産着の質の良さや漂う気品にも納得がいったし、桃太郎がならず者の落し子であれば奔放で暴力的なところも頷けた。
だが賦に落ちぬことはある。
「なぜ未だに探しているのかが解せぬ」
考えにふけるあまりに丸まった背を伸ばし、改まって疑問を吐き出す。
「そこは人の暗い部分でございましょう。商家にも野党にも跡目や権力を欲する輩が居るのでしょう。子を捨てた理由があるように、子を手元に置くことで謀を練っているのではありますまいか。
実を言えば、娘婿が来てくれねば私どももどろどろともつれていたやもしれません」
「かようまでに人の業は深い、か」
庄屋の憶測を受け、彦八は道場をたたみ山奥へと移った経緯を思い出していた。
「このような山田舎でも人は変わらず人なんじゃな」
苦々しく彦八はもらし、「そのようで」と小さく庄屋が相槌をうった。


SH006
[編集] 妹の部屋覗き
[461] By とおりながら29
08-11 19:19

「しかし、庄屋殿の養子に入ることで難を切り抜けられようか?」
「お竹さんは問題ありますまい。商家とは掛け離れた嫁ぎ先を探すつもりでおりますし、当家の遠縁や養子の子細まで調べられようものではありませんよ。
桃太郎さんも、姓が変わるとはいえ、先生への弟子入りしていることは変わりません。以前より先生とゆかりのある当家の養子を先生の弟子にやってもおかしくはありますまい。
ましてやこのまま手元に置きつづけるおつもりではございませんでしょう?」
ふむ、と頷いて彦八は腕組みを解く。
「あいわかった。その条件をのもう。庄屋殿に拾い子隠しの片棒を担いでいただこう」
彦八は晴れやかに笑い、庄屋は慇懃に頭を垂れた。
「ところで先生。今夜はお泊りになられますか? 久々に一献いかがですか」
「いや申し訳ない。折角の誘いだがすぐに戻らねばならぬ。酒はまた次回にいただくとしよう」
庄屋は残念がったが、これから杯を交わす機会は増えるだろうからと慰めて、庄屋の館を出た。

SH006
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