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無題
 ちよこ

翌朝は翠のひかりのうち
みえないようなものたちの
押し付けない翅音の最後
填め殺しの瞳から
綺麗に
のたうちまわる器

誰かかもしれない
借りた指の軌跡
必死にまばたいては
果てのないすじ
柔らかく押し返すための
数えきれない海のひだへ
まだ
響くから
だから
このままでいる


空気を預けるように歌う
それはそれはひどく
あおくなったりする空は
風の生まれる
それから
なにもかも
響ききった嵐
あおく透ける瞼のきわ
押しやられてしまった
遠のいてしまった

身体中の生きてるを
返してしまって
だけどどうして
気管支はいま
抱え込んでる
砂粒みたいな記号の
はきだせないでいる
手放せないでいる

丁寧につくりあげる
忘れたようにつくりあげる
さらさらになった手紙の角は
まだ丸くはなくて
どうしても
深い息を続けるよう
仕向けてしまう

重さのないような
音を伝えないようなその
そのひとつぶは
何時だって
泣くことを
思い出させて
くれる


息の詰まった月ばかり見る
もしかしてどこか
欠けたりしてないか
本当にゆっくりと
瞼を感じなくなってゆく
なんて小さくて愛しい
廻ることだけが証明
あのこを乗せたまま海はゆき
いまなら遠くで満ちている
でもきっと
そんなのは勘違いでいて
もっと生々しくいて
もっと大切でいて


そっと
頬ずり
それから
いってらっしゃい

優しいひとの涙
集めばらまき
いまだゆらり
春のうちに
目覚めたから
空気に孕み
少し
ほんの少し名残惜し

ララ
ララララ

春のうちに
目覚めたから
しかめつら
声が伸びる夜
大事にしてね
肌を泳ぐ
一粒だって

大切そうに
微笑む

右手
とびこえ
左手
挙げて踊り
それから歌う

全て
貴方から

夏のうち
また
目覚めるかもしれない
そのままで

ララ
ララララ

この
泳いでく世界
とても
さらさらとした
手触りで
ゆめみたいで

いつのまにか
りょうては握り締めていて
だれかのてのひら
らせんかいだんのてすり
やさしいきもち
いやだと
だだをこね
それでも
つみつみかさねて
さらさらときえ

握り返すもの
なおさらで

いっぱいのひかり
浴びたとき
みえるものは
きっと
くるしい

だから
やすらかに
ありたいとおもう

この
泳いでく世界
とても
さらさらとした
手触りで
ゆめみたいで
いっときも
わすれずに
すうと
かけぬけていて

やすらかに
ありたいとおもう

つみつみかさねて
さらさらときえ






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蜂蜜したたる月の下
 谷真帆

蜂蜜みたいな月、と、自転車こぐ吉川さんに言ったら、ええ?いつもと一緒だよ、なんて、取るに足りない。
わたしには蜂蜜が今にもたらたらとろとろたれてきさうに甘くみえる。夜風と自転車のスピィドにふかれながらゆれながら、吉川さんの古ぼけたGジャンをつかむ。吉川さんとわたしは同じアルバイトだけど吉川さんとシフトが一緒になることは少ない。あんまし会ったこともない。今、吉川さんの自転車の荷台にまたがっているのだって偶々でしかない。偶々。わたしが友達とごはんを食べて家に帰っている途中。やたら長い信号を待っていて、吉川さんに遭遇したのだ。たがいに会ったことなんてそんなにないのに、顔を覚えていたのが、なんだか小さくうつくしいことにおもえた。「どこに帰るの?あ、おなじ方向だしのっけてってあげるよ」吉川さんは、ほら、と体をひねって銀の荷台を軽くたたく。わたしはおそるおそる荷台をまたぐ。「あんた軽いね〜」私をのせて自転車は静かに動き出す。信号はちょうど青に変わった。「でもこの前3kgふえてたんですよ」「え、全然だよ、そんなもん。ふとってる内入らない」笑いながら、首をふりふり吉川さん。

わたしは。
誰にも言ったことないけれど、吉川さんを初めてみたときから、なんだかいっぱいやりたいことがある。吉川さんと旅に出たい。京都の桜がみたい。大きなしだれ桜だと、なおいい。吉川さんと映画がみたい。ミニシアターのものがいい。なあんにもおきない、けどいやに色のきれいな映画がいい。吉川さんと、ごはんが食べたい。洋食でも和食でも中華でもいい。すごく安い食堂でもいい。吉川さんと椅子のある本屋へ、吉川さんと電車で海へ、バスで山へ。
「あの、今度、ご、はん…食べにい、いきませんか?梅、酒のおいしいところが、ある、です」震えてしまい、妙なところで切ってしまったり、音があがってしまったり。口の中でこの言葉はとどまってしまったかと思うくらい小声だったと思うのに
「ああ〜いいねえ!わたし梅酒、好きなのよね〜」楽しみね、いつにしよう?吉川さんは、ぐいぐい自転車のスピィドをあげる。
わたしはそれにのせられて。そっとGジャンの背に額をつけた。



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うすいスープ
 フユナ

こどもたちが
口を真っ赤にしながら
園庭であそんでいる
誰かをつかまえ
気に食わなければ噛みつくために


こどもたちは
細い睫毛にひとつずつ
金銀の王冠をつけており
その毛並みはどんな王者にも
負けることはない


ひときわ
うつくしいこどもが
逃げ出した白く肉付いた腕をとり
歯を立てる
睫毛の王冠が
灼熱の色を湛えた


痛いことしちゃだめよ、
と女が首を掴む、
それすらもこどもは見返す
激しい憎しみを忘れた女を
痛めつけることを判りぬいた目で


昼の時間
スープを飲んだこどもが
不機嫌な顔つきで
顔を あげる
歯を立てられたこどもが
ひどく青ざめた王冠を
こちらに向けていた


ひどくうすいスープだな
この血を薄めるよう
この場所で飲まされるのは


午後
こどもたちが
口を真っ赤にしながら
園庭であそんでいる
それすらもうすめようと
大人は
水を撒いている



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踊り子
 ピクルス
 

これからは
あたい、
おいてけ坂をだらだら下ります
春を送り花摘み唄ささやくように歌います
一年草が刺繍に入ったハンカチを
ゆらりゆうらり振りながら
さあ、しっかり
きっときっと

探しあぐねて待ち焦がれる老女にはなりたくない
あたい、ちゃんと笑いたい
揺れているのは冬の溜息
揺れているのは探す星
いつしかほどけてゆく広場で湯気を恋しがる人
眉がうまく描けないような
じれったさ
座り込みそうになって
おなか痛くなって
おへそを触る

花を飾ってくださるのなら

かなしい色の花でもよい花嫁になれるとききました
あんた、
ここに居てくれろ
もう二度とは

ゆるしてね
ゆるされないよね

いつかいつか
あたいも被りたかった花冠
あんたに褒められて
夏木立が夕映えに染まるみたいに
あたいは、そんなあたいが大好きだったの

伊達眼鏡をかけてみる
形見のコートに頬すりよせて
あたいは桟橋で佇んでいる
ふしあわせ違うよ
あたいの掌、あんたの掌
おでこに当てたら
たくさん見えた
耳に触れたら
生娘みたいにときめいた
揺れているのは街の灯りだけじゃない
嗚呼、
ほら、また御舟がゆくよ
 




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月面
 ルイーノ
 
 
不思議な再会だと思った
おれに未来が
あるとしたなら
きっとこんな日を
いうのだろう
十年じゃないわ
八年
そうだったろうか
それよりもおれは
驚いている
知ってるか君は今
おれの想像通りの姿だよ
昼下がり
影を抜いたワンピース
後ろには
二歳くらいの子供がいて
あなたの子よ
ひとみしり
そして二人で笑い合った

家と洋服の匂いが伝わる
君の食卓のルーレットで
君の旦那のウイスキーを
飲んでごめんよ
バルコニーの異邦人と遊ぶ
君とおれのベイビーが見る
飛び移れそうな
日本海庄やの屋上
乾きのクレーター
貯水タンクと
デッキブラシがどこまでも
呼んでいるよな月面を
小さな瞳に映し込んだ
君とミルクで
乾杯もよかった
彗星の尾を散らし
汗ばむ
他人の吐息をぶつけ合う
秒針が重なる頃合いには
君の大事なベイビーが
デッキブラシの月面を跳ぶ
遠く遠くへ遊びに行く
夜の高架を踏み越えて
世界の果てまで繋がった
真空の中を跳んでいく

メロンパンナの丸いかお
未来
月面
信じて欲しい
 
 




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