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未完の、ソネット 「残響」
 望月ゆき


昨夜、遺伝子と数回にわたって交合したけれど
最後まで、ぼくが触れたのは
ぼく自身の器官だけであったので、
結局のところ どんな言葉でも形容できない



感性や知性を、すべて破壊したい
不必要なものを削ぎ落として 内臓で
会話しよう あるいは 
呼応、



エコー、エコー、ぼくの
舌を 染色体に絡めると、
声に、まだなれない振動が生まれて



エコー、エコー、愛しいヒトの
息づかいがひびいて、やがて
それは耳鳴りになる












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交歓
 ちよこ

春、ほの甘い夜の底に
わたしは光を持っていた
音のない
氷のような光
痛い

夏、あらゆる空に架かる虹
身震いをして
設けるべき水面をなくした
そうして
緑は濃くなった
空は深くなった
その完璧な青に
わたしはどうしようもなかった
振り返らない
ひとかけらも残さない

 秋の野は金の紗を掛けて、美しさに波打つ。あたしはその金色を、おんなじようにこの上ない誰かを、ひどくいとおしいと思う。

つま先が湿るのに任せて
溶かす
やわらかな土が降り積もだけ
あおく脈は巡るだけ

冬、窓から降りた花をかき集めて
薔薇だといった
花の中の花だった
まぶしさに目を
心許なさに掌を
閉じてなおゆるやかに
開いてゆくもの

世界が総てを美しくして
わたしに愛し方を示す
春、すみれ色の宵に
なすがままに身体をあたためて
わたし
光を欲しがった
ひくく流れて透きとおる
可視のてでさらいつづける
その水のような光






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接触
 えあ



その日の夕空に
焦がれたものが冷たくなって
ふみしめた柔らかな土が、
ふたつの心音をくるむ
まっさらな晴れを
花のいばらが迎えてゆき
紅い輪をつくる。輪になって、運ばれるように、みつめ合う
わたしたちは流れるものをとどめる術をもたず
ただ、くちびるを同じ速度で動かして
確かめ合う


少しだけずらして、靴を脱いで、
変色した本のページをめくる
(短針も、長針も、
進まないことを、いいことに)
隣の部屋からは先生の声がたえず
夢にあえると思ったので
目を瞑り
床の冷えた感触に耐える
(先生って、だれだろう?)
不都合のなさすぎる声だから
どこにも行きようがなく
反転しては瞼に落ちて消える


寄りあつめられて
みんな孤児のひとみをもったみたいに
ぎこちなく
机をかこみながら
自分の名前をいっしょうけんめい思いだそうとしている
四角いちいさな紙に
名前と
誕生日を記し
これだけじゃないはずだから、
考えなおす、
をくりかえす
汚れた灰色の絨毯のうえ
粉々になったひかりが
窓際のあなただけ包み
触れたら夢になってしまうから、
見ないふりをする


埃っぽくなった指先を困りながらも、
あなたを考えている
単語ひとつひとつが
繋がっている気がして、
とうとう時間が気になって
古くならないことを祈り
文字の丸みをなぞって、惹かれあうように、白紙の部分に見えない輪を書く
文字がすべりおちて、
すべてがすべりおちて
ちいさな足にざざざと当たる
水たまりになった文字は深い緑色を、していた


フロートティーを口に運びながら
甘さについて考えて、
それがどこにもないことに、気づこうとしている
目の前には
伝わりあった瞳が並んでいて
人生って、とか言うから
わたし自身が甘くなってしまう
まぜられたフロートティーがミルク色に近づく
溶け出すなんて、ずるいって聴こえる
だって、とかが得意だから
さっき食べた文字と一緒に
嘔吐した

もう空は、雨を滲ませて
呼応する夜のしじまが
わたしたちを流す




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けもの
 ma-ya


お皿のうえに
雲をひときれ置いて

お父さんはふたたび狩りにでかけた
じょうろを右手に計量カップを左手に森へむかった
わたしはついていきたかったけど、それはお前の役割ではないからいけないと諭され、なーんーでー! と癇癪をおこしてもみたけどまるで効きめはなく、お父さんは簡単な顔になり、雲をひときれちぎって、これを食べて待っていなさいと云った
心外だった

お皿のうえの雲をかんさつする
置かれてしばらくは死体のように動かなかったが、太陽が窓からひかりを差しこんでくると、七色にひかり表面を毛羽立たせた
わたしは机に片頬をくっつけてその様子を絵に描く/もくもく具合をうかがいながら本質を描くのはとてもおもしろかった/水星はとても冷たいというすずめ達は、風が鳴ると銀杏の木から放射状に飛んでいった
スケッチブックはすぐに埋まり、あらゆるものを裏っかえしてクレヨンを走らせる
お母さんがいたらきっと、けいべつの目つきでわたしをののしるのだろうけど、さいわいお母さんはぜつめつしたあとだったので、わたしは心置きなく絵を描くことができた

さてわたしは雲を食べなければならず、どうしたものかと首をかしげている
その前に顔を洗い洗濯物を干して掃除機をかけることをわたしはのぞんで、だけどそれを左脳は必死にくいとめようとした
しかたなく窓ぎわのパキラに挨拶だけをして、雲を食べることにする
おはようと声をかけると、パキラはふかぶかとお辞儀をして、もとに戻り、わたしはフォークとナイフを用意する
雲をフォークで押さえ、さしさしとナイフで切りはなしていく
ひとくちサイズが大切だ
一瞬、だれかの悲鳴がきこえた気がしたけど
さして問題ではない
ような気がしたから
さして問題ではなかった

ひりひりと苦く、しょっぱい
あまり美味しくない
と思う

きっと
お父さんも、もう戻ってはこない





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エレファント
 5or6

剥奪された紳士のように腰が曲がりくねって
星になった少年の瞳のようにはなれなかった
虚ろのウスノロ
エレファント
自分の年金払わずボランティアに励む牧師に懺悔した
簡単に出来ない奴だっているんだ
大抵の妄想系が集う大衆食堂でパンを食べた
沢山のクズを落としながら
真剣
だったけど
透かして他人のふりをする隠者達の内緒話
聞こえて蔑む

あなた達のプッシーも制御出来ないのに
あなた達のプッシーも満足出来ないのに

そんなんじゃない

情熱的で理知的で無邪気で複雑で享楽的で理想的で空想的で現実的で感傷的で冷静で怠惰であって勤勉で隠遁的で社交的で自我的で愛他的で楽天的で厭世的なプッシーを求めて僕は

仮面を脱いだ

うぅ

踏絵のような
でもいいんだ
ほら
エレファントが横になって眠る
とても素敵な出会いがあったから
呼吸が出来ないような

素敵な出会いが

とても綺麗な朝でした
とても綺麗な朝でした
とても綺麗な嘘でした

天使は確かに異端だって
皮肉に笑うなよ
直接的な愛を使ってキスしたかった
そう
町のみんなは優しく
ハレモノ触るような目をしながら
それ以上行くんじゃないと親切に教えてくれた

何も言えなかった

何も言えず自分の部屋に戻ってスーパーマンの本を読んだ

でも彼は人間じゃなく宇宙人だった
僕は母さんから出てきたんだろ?
その

情熱的で理知的で無邪気で複雑で享楽的で理想的で空想的で現実的で感傷的で冷静で怠惰であって勤勉で隠遁的で社交的で自我的で愛他的で楽天的で厭世的なプッシーから出てきたことを証明したくて僕は

仮面を脱いだ

うぅ

踏絵のような
でもいいんだ
ほら
エレファントが横になって眠る

とても素敵な出会いがあったんだ

呼吸が出来ないような
素敵な出会いが

とても綺麗な朝でした
とても綺麗な朝でした
とても綺麗なきみの

嘘でした




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夜の帳 V (断想.五月)
 如月

浅い雲の隙間に
透きとおった月の
浮遊する午後は
誰のものでもあり
誰のものでもなく
沈んでゆくあなたを
思い出と呼ぶには
あまりにも近い五月の
きっと
やわらかなやさしさで
流れていく雨を
降らせた
祈り、のような呼吸で
ゆっくりと
包みこむ、夜の帳は

 *

そして、
街がぽつり、と
声を落としてあなたの
忘れ物を拾った
帰り道、のような
山々の向こうは
一つ、また一つと
消えそうな今日を
燃やし続けているのだ

ほら
鳥のように鳴く幼い肩を
抱きしめる肋骨
それは母の
胎動をとおる
生まれたばかりの体温を
忘れない記憶の
美しい輪郭
わたしたちの声





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間奏
 及川三貴


窓を無心に磨く雨音で
鉱石のように凝り固まった背中
手元に空白のノート
ペンは柔らかく握られたまま
冷めてしまった珈琲が
あなたの唇を忘れていた
とても低い声で唄い出せば
思い出すような気がして
雨脚追って始まる二つの音が
口から落ちて水面に円を描き
あなたはこの午後の
雨色に当てはまる言葉を探そうと
喉の奥で息を始める
床の上をさざ波立てて駆ける風が
悲しい予感を震わせて
後ろから背中を強く抱くと
窓は溶け出して
外は冷たい海
色のない雨の中で
最後の踊り
始めるあなたの為に
耳元で探していた言葉を囁く




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