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どちらにしても風は吹き続けるのだから
 ホロウ




わたしのなかを
あなたのなかを


風がいちど
吹きぬける


あつくもなく
さむくもない


温度とは
呼べそうもない風


放浪、漂流、点在、葬送―住み処を
持たぬものたちには


すべてが
住み処でもある


わたしのなか、あなたのなか、吹きぬけてゆく



語らないものこそが
すべてを教えるのだ


心の衣類を捨てて
誇り高き輝きを見せなさい


肉体を持たぬ心なら
それは神だ


わたしは夜をあきらめて
指先のみで詩を紡ぐ
渇いて、きしむ眼(まなこ)の


浅いすり傷は
感情のしるしだ


夢魔よ
おまえが


この夜のサバスを
わたしから奪うと言うなら
わたしは
その洞穴を
引き受ける
真意となろう


わたしのなかに
あなたのなかに
ひとときの
風のわだち
そのわだちを


同じ目をした
ふたりの天使が
レイルのように
たどっている


教えはある、無垢な眼なら
それを
受けることができる


夜に目をひらいた
わたしは夜そのものだろうか
暗闇はわたしを
まじりけのない信者に変えるだろうか?
わたしはわだちを踏む
突然拭われたあとの


新しい
地面はやわらかい


わたしは泣き
そして許される
それは
しきたりのない告解である


あなたのもとにゆきましょうと
あらゆる言葉が言う
わたしは首を横にふり
わだちのむこうを探す


気づきませんか
風は吹き続けているのに
かたちを変えたのは
あのときだけなのです


すべてのものをはらい
此処をあとにするとき


新しいどこかに
おなじ影を見る


離れるとは
近づくことである
わたしはなにも





捨てたり
しなかった





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命日
 腰越広茂

六月二十七日は、
私のしるひとの命日です
あの葬式では、
天気雨降りました。
七色の午後
左手薬指の約束に花輪をそなえました。

あの天然水は
このからだをとおりながれることはなくいまも
封を切られずに沈黙し 幽かな光に静止しています
行方不明な影を
たどることは出来ず
傘をささずに立ちつくし 空の雲をみあげました

くちびるもぬれて、ぬれて
うしなったはずのことばを
視線にそわせた
しずけさが飽和している
宙をつかんだこぶしのなかに
、すべてあるの、とひらく左手めまいにかざす

いつかしら。(風のふきすぎ(万有、引力、さね。
色もなく玄雲(は)(水影透けて(下もなく
いなびかり(を)、(投影され(上もなく
いなびかり(に)、(映る(左右もなく
心音轟き解ける雲(まなざししずか(ここはどこか
天の河へと流れこみ(古の血自動脈を(障子のむこうは縁側
風をみつめる翼の飛翔(いつまでも(ひとしれず
青葉はゆらぎ(神経はふるえ(光合成
円をかく傘(しろがねの切っ先(つかをにぎる解放
超新星の(胎動の微笑(ひかれあっている
掌は(浮上(と
鎖骨の曲線(を(演奏し
よみがえらせる(そっとふれ(なぜる
星雲の空想さ(あやすあやとり(無時空を

そうね。変幻自在の葬列が拳螺の中心へさか
のぼっていく私のしる世界のみが世界ではな
い光の軌道の静脈を雲影さまよう糸杉を想う
墓守へ伝書鳩を飛ばす花輪の受付は黙礼をす
。。。
やっと本日、あのかたの果てしない花守の、
水限をむすぶ 果実は遠いおもひ出



※(ふりがな)水限(みぎり)



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夕刻
 黒木みーあ



水面を這う燕が、橋の下を金色に反り返る
積み上げられた若草からは
湿った土の生ぬるい温度が
吹き上がる風と混ざり合い、空へ舞っていた

青黒く、東の空に突き抜ける鉄塔
一台、二台、低い音をうねらせ
白のセダンが通り過ぎていく

今や黒点となった鳥の群れは
遥か遠く、ゆるやかに下降を始めている
空の群青に
夜が重なりはじめても尚
残り火に赤く、ひきちぎれた雲が燃えている

手を翳す
そこに無いものを在るものとして
橋の終わりで
生まれはじめた虫の雑踏を散らした風に
下腹部は急速に冷えていく

鐘の音
大気を、割るようにして
帰る場所を伝えるように
どこへも帰れない言葉を
その静けさで
どこまでも響かせてほしい









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星期
 上原楽恵
 
めくれる夜明け
空ろに傾く黄色い世界の
端にかるく立ちあがり
振り返る月を視ながら
うすい眠気を閉じていた窓を開け、日を数える

ゆびおり

生まれてから今日まで
肌を焼け焦がしてきた日にち
匂いの消えない
母子手帳に残された刻印のあと
にじませる

痩せ細った電信柱にとまる鴉が
生まれてくるはずだった児を嘴に咥えて逃げる

なごりおしそうに
鐘を鳴らす始発電車を踏み台にして
明けない空に向かって手を伸ばしている

 


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私が自殺する日には
 ただならぬおと

 
私が自殺する日にはすれちがう人が皆あなたならいい

花時計、もう回想だけで過ごしてゆけるだけの時間が秒針の先にとまり。乗れるはずもない、ひしゃげた自転車があなたさえ居れば牽かれて奇妙に鳴いている。すれちがいざまのあなたは私を基点に一周だけ旋回すると、なにもなかったかのように過ぎ去ってゆく。私にとってのあなたの周りからは昨日までと変わらぬ洋楽の幻聴が聞こえている。

なんども花時計の前を私がとおるのは、そこで会えなかったあなたとすれちがいたいから。耳を噛んでくる甘さに地盤がゆるんで風向きにうながされた一歩に長い時間が絡みついてくる、私の足の甲に坐りにくるのは風景のない影。もうすぐ来るはずのあなたもその影によってないものとされ、くたびれた私の靴紐は切れそうなまでにひっぱっられて弄ばれている。

私はそこからじっと動かなくなる。花時計から破裂しはじめた緑色の閃きの葉から、枝が八方にうねうねと結われていく。その一本だけが解かれ、私の胸に宛てがわれると、胸中にからりと栗の花が咲いた。行き先をのばす白線が、これ以上あなたをどうしようもない道路にまぶしく突っ切っている。おもむろに私に押し寄せてくる段差の上は、今なにもみえてはいないが、おそらく四辺に二十センチ間隔でちとせ飴の植えられた畑がひろがっている。飴の先端はだれかに嘗めらてしまったのか三センチほど溶けていて、丸みは人差し指くらいがちょうどよい。そこへトンボが飛んでくる。とまる指を選ぶようにカタカタと、しかしどれにもとまれないまま畑を超えていく。ぼたぼたと、私のあしもとが染みはじめている。上空では熟れた雲が風に振り落とされ、はいつくばってそれを舐めた遠足の子らがアリになっている。その行列を踏まないように離れて歩くうちに、いつのまにか私は情けないほど大きくなって例の畑を踏み荒らしている。

どんなにあなたを思い出しても私の自殺をひきとめてくれるようなあなたが一人もいない
それでも私が自殺する日にはすれちがう人が皆あなたならいい




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