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月刊 未詳24

2010年12月第45号


05月22日(水)02:58


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 吉田群青

ぼうっと土の上に立って
夕暮れなんて見ていたりすると
そのまま足の裏から根が生えて
そこに根づいてしまいそうになる
慌てて足を引っこ抜いて歩きだすけれど
やっぱり幾人かは油断していて
うっかり根づいてしまった人もいて
そういう人たちはもう人間ではないけれど
まだ植物にもなりきれていず
口だけを僅かに動かしていて
水をあげるとごくごく飲み干す
春とはそんな季節である


濁った銀色の月光が
ひとびとの髪を
王冠のようにぼんやりふちどっている
だから月の出ている晩に
すれ違うひとたちは
王冠をかぶったまま逃げてきた
薄情者の王様や王女様に見える


空がうっすら薄紅に染まるほど
桜の咲いた上野恩賜公園で
五年前のわたしとすれ違った
はっと振り返ったらもういなかった
夢だったのかと歩きだすと
すれ違った人の振り返る気配を感じた
いま振り返ったその人は
五年後のわたしであっただろうか



一回まばたきをしたら
いま
もう冬になった
十回まばたきをしたら十年たつのかもしれない
百回まばたきをしたら百年たつのかもしれない
ねえ知らないうちに
わたしたちみんな
あ の形にくちをあけたまま
ぽかんと死んでゆくのかもしれない



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ひとつ こがね
 木立 悟





顧みられない壁の横で生まれ
白も黒も知らずに白と黒になり
街を隠す羽を動かしている


冷たいにおい
曇を遠ざけ
冷たいにおい
手の甲を踏む


街に沈む街
機械は静か
鏡の前へ
午後は午後を連れてゆく


どこかで
鳴りつづけている鈴
向こう岸の子
ほんとうの ほんとうの
名前を呼ぶ


にぎやかでささやかな
無為の朝のあと
空には
閉じるしるし
呼吸のように
屠られる言葉


たくさんの小さなものが眠り
指や頬や
くちびるから駆けのぼり
空に触れる夢を見る


沈む やわらかく
沈む
波うつ空に
紋の上に
紋をこぼす


こがねいろ匂う子
もとめてももとめても
白く白く遠去かり
海は ふところの午後をひらく
坂からも
街の下への入口からも
見えるように







































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(あさ水を弾く)
 田中智章


あさ水を弾く
風が汚されたのどをあらう
聴覚のゆめは畸形の吐いき
明日から野放しの天使が



生まれたばかり生まれたままで蟻が燃えて、逃げた骨片の表面で水が啼いている。話し声
が気になってカードを投げつけようとして水銀の川を。絵は二十二枚、それを十一枚とみ
なし一枚を除くべきか加えるべきか悩むうちに炭酸の海に無数の花が転生した。息が喉か
ら拡がる。丘には放し飼いの爪あとが夜ごと走っている。



九十九の浜を
生きたままプリンターの口からは
ぽろぽろとリングの石灰の滓
夜が仮にも夜ならば
結節をデネブとして波を口にふくむことで
「いいから」と言われた背中をみている



私は生物ではなく namamonoとして
装着した本や 海藻を
値引きしたまま歩いて
歌われれば雨に傷つき
切り開かれた体を
地面に縫いとめた



残骸の静寂は綿菓子をほおばった子の歩幅で、クレーンの鉄塊に骨を抜いた魚の亡骸と小
声で話している。野から海底から、岩が響く音の印字をレコードした婚礼が繰り返し自壊
しているのんびり、星が砂浜を降下していく根が斜めに、大きな空を裏返して夜の表面か
ら膿んだ泡が、波が冷たくて喉をあらった。




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心中未遂
 ただならぬおと


隣に居るだけだとしても
あと少しだけ僕を手放しきれない
あなたのくすり指が
愛しい
がらがらになった電車で
鞄を太ももに載せて坐る
あなたの
靴は八の字になっている
三角州を思い出した床が
爪先の間を末広がりに流れてくる
あなたにとっての僕の全部が
つちふまずの陰りに
淀んでいる

 交換できたらいい、
 死んだ方がいい僕と、
あなたの中で
生きてほしい僕

車窓に浴びせられるドス黒い豪雨が
滂沱としたツバに思える
うつむいた僕は
意識を脳天からかすかに飛ばす
それでももう届かないのかもしれない向こう側の向こうまで
ふたりでならまだ飛んでゆけそうな気がした
ゆるされるまで

電車を降りてからアーケード街を歩いている
目に入る看板を片端から声に出して読んでいると
あなたは一々読まれた看板をさがし
見つけたときには
もう次のを読まれている

握っていた僕の手が
ひらきかけてきても
あなたは段々にぎり直さなくなって
とうとうしゃがみこんだから
手をさしのべると
つかんでくれたのに
その拍子に欠けてしまった
あなたのくすり指
くすり指ほどにしかなれなかった
あなたにとっての僕
 僕って、
非力な小声で笑いかけようとすると
あなたの顔は僕の顔に近づきすぎていて
むしろ、すぎて
いった

 僕は
 あなたを愛しています
 あなたより、僕より、愛しています
道端に落ちている靴下の意味がわからない
目線をあげると、弧状のパースペクティブが直線化され
あなたにとっての僕の外部も含めて
草莽から空へ氾がっていく

 終着点まで来ては
 その都度、行き先を変更し、
 降りやまぬ黒い線に
 ビッと引っかかれまくって
 やがて来た夜は、朝に行きたい夜は、朝に、溶けて
 暗い爪先から全身を光につらぬかれても、朝になら
 かつて抱きしめた、その、斜陽の胎になら
 生き埋めにされていいと願う夜は
 夜は、
 償いですか、愛ですか、
そのどちらが
僕ですか
あなたに
聞いているんです

あなたに聞いているんです
あなたは僕に死んでと頼んだ後にメールであやまってくれました
でも気に入られるようにあやまれるほど足すべき語彙を知らないあなたの
携帯電話の画面がなげうたれていてまぶしかったベッドで
受信音はふるえていました
それが僕からなのでした
だからあなたも一文の返信をくれました
それより他のことはもう覚えていません



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紫蕗
 安斎修羅

私のまばたく間に
失われてしまった幸福へ
どうやって追い付こうか

雪の眠り
蓮の花咲く季節へと
月の夜を導く
静けき森の声

たった今飛び去った
雁の羽が湖の瀬に
その偶然よりも
遥かなる運命を
手繰り寄せて滑り落ちた

(取り返せない永遠でも)

あなたが
この指の先に触れ
踏み出されたその一歩を
いとおしく
受け止めた傷痕で

かたちのない
私の魂が
虚しくも生命循環の
後塵と費やされようとも
ここに記すすべての誓約を
あがなうためにのみ捧ぐ

何ものも
この忘却の時の彼方でも




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