月刊 未詳24

2009年8月第29号

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アナフラニール
 mei
出身:和歌山


頬がストロベリィジャムの女の子が生まれた日にはたしか
僕は君とあたらしい世界について話していた


その日が何曜日かなんてのは僕たちにはどうでも良くて
クリィムを混ぜている水車を見るとその先には
誰がつくったのかお菓子で組み立てられた家がたっていた
僕と君にとって今日と云う日は特別何も変わりのない一日で
ストロベリィジャムの女の子とは何の関係もない
僕たちはただ
現在の世界の不満を口にしながらアイスクリィムショップに行った
そして君がチョコチップのアイスクリィムを買ったあと
僕はチョコミントのアイスクリィムを買って
その店にいた少女が僕たちの横を抜けて店の外に出ると
星の子供は永い夢を視ようと目を閉じた


前の世界からあたらしい世界に移った際に上昇を始めた水位は
今もなお上昇を続けるばかりで
いつかは此処も水のなかと呟いたのはどちらだったのか
僕は覚えていない
僕と君はこれと言って嬉しい記憶もなく
楽しい記憶もないアイスクリィムショップで少しのあいだ
お互いの記憶を重ね合っていた
夏のあいだに終わってしまった世界で君が
淡いピンク色した蝶々のまぼろしを視たことがあったのなら
ようすいに沈んでいった女よりも少しだけ多いチョコレイトが君へ
話しかけてくるだろう


ばいばいと言ってはいけなかったんだよと言ってから君は
その言葉自体つくられるべきではなかったのにと続けた
川を静かに流れているのはブルー
僕たちはそれ以降何も言わずに上昇を続ける青を眺めていた


閉鎖されたアンタレスの観測所が遠くにぼんやり見えていて
空では季節はずれの蠍が心臓をさがしているのだけれど
覚えているだろうか
君が初めてアンタレスの観測所から空を見上げたあの日のことを
あの時に泣きながら言った君の言葉は謝罪の言葉だったのだと
あたらしい世界になってから気付いた


ソーダによって洗浄された世界に生まれた
ストロベリィジャムの頬をした女の子
降ってくる祝福の言葉を受け入れる彼女のジャムは蠍の心臓より
朱い色をしている


※絵はGENk氏
画像
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すぎる水
 木立 悟
出身:その他







水の上の火
空の姿か
底の姿かわからぬまま
ひとり ほどける


風 息 原へ
去るを見る
砕けるを見る
散るを見る


傘をたたむ
遅い夜の色
ひとつやわらかな
人わすれ人


滴をぬぐう手
黒と異の粒
ぬぐいきれない空の針
生まれつづける緋のにおい


よく似たものが歩いてゆく
今もどこかを歩いている
帆の醒める音
醒める音


いつか再び会えるのだろうか
頂きの痛み
曇間の声
眠りの失いまたたき


冬の遊具
鬼火
吹雪が吹雪を追い
街をすぎる


多くの色が流れ落ちてゆく
低いところ
さらに低いところ
多くの 深い扉


雨は風になり
風は内に入り込む
どんなに狭い隙間からも
風は風に入り込む


似たものの群れが
傘をさしては通りをゆく
暗がりに立つ音
光をそっと押しのける音


雨のなかを流れるものが
幽かに色を伝え来る
閃くものの巨きさに
幾度も幾度も立ちどまりながら


おまえが讃えるあの色は
必要のない色なのだ
花を忘れ 葉を忘れ
光を合成せて


静かな容れ物が
はじかれた緑に満ちてゆく
樹を昇る音 落ちる音
境へ境へ鳴りわたる

























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アレジオン
 mei
出身:和歌山


クリームで前が見えないけれど
世界には青が降っている
炭酸を抜かないで
誰かの声を聴いた僕は夢中になって世界を振った





勢いよく噴出した青を二人の子供が飲んでいた
子供たちは夢中になって飲んでいた
さよならブルー
北十字から南十字まで転がっていったブルー
静かに眠る子供たちに青が近づいていくから
子供が神さまになって
世界はもう少しだけ優しくなれるようにした
星の場処なんて誰も知りやしない
青よりも青い場処に立って僕は目を閉じた
この町の青は透明に近い青だと思った
アンタレスを観測する場処は既に閉鎖されてしまっていて
どれがアンタレスかわからなくなっても
この青い町から見えるのは綺麗な赤だった
もうすぐ秋になるのだろう
冬になれば青にかわって白がくる
青い空から青い雨が降るので
僕は目を閉じた
僕から抜けていったのは炭酸ではなくて
愛している
と云う言葉だったのかもしれない





あの日の帰り道に友人がクリームに溺れて死んだ
そう聞いたのは数週間が経った日のことだった
天国から降ってきているかのようなどしゃぶりの青のなかで
僕は二人の子供がかわらずにそこにいたのをただ眺めていた
その次の夜もまた次の夜も
ソーダはたえることなく降り続けて
二人の子供はずっと
クリームに溺れながらソーダを飲んでいた





隣町の女が妊娠したらしいと誰かが言った
あたらしい
あたらしい何かが宿ったのだから世界も
僕も何か変わるのだろう
いつからか僕もクリームにまみれていた





炭酸が目にしみると子供が言い出したのは今年に入ってからだ
炭酸が目にしみることを知ったのはいつからか
僕はいつの間にかそういうものだと覚えていた
炭酸は目にしみる
生まれてくる子供の目にもいつか炭酸が目にしみる日がくる
僕はそう思った
生まれてくる子が男か女かなんてのは些細な
本当に些細な問題で
どうにもならないと言うのなら目を閉じれば良いだけだ
そして夢を見よう
あたらしい
あたらしい夢を見よう
そして全部忘れてしまわないか





子供たちが去っていったのは僕の生まれた日
新しい世界の誕生もまたその日の朝だった
クリームが少しばかり多めに降っていたから目は赤くなっていた
青い世界で赤い瞳が遠くの遠くの空の向こうを見ていると
無数の星屑が落ちていく
ガラスの水車が時々まわって微かにクリームを混ぜている
自分にはそのクリームで前が見えないから
世界には青が降っているかどうか教えてくれと女は言った
炭酸を抜かないで
誰かの声を聴いた僕は静かに青を川に流した





世界には青が降っている
クリームで前が見えない

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scoop
 5or6
出身:その他

骨のライフルに群がる
アルゼンチンアリの様子は
核シェルターに向かう
まさにそれで
ケロイド状の体は
恋人達のようにしがみ付く
バナナの絵と名付けて非難された
働く女王の
ハイヒールに踏み付けられて悶える政治家
いく「手本」という教則をマニフェストに掲げ
素敵な夜行性の首穴に収縮される象ガメの議事堂
鈍い落日が反射する
自由を掲げた採決
なめらかな木片のような手先で
何回も報告書を捲る科学者
灯台からの翻訳に受話器は外されたまま
異国の言葉で、失敗だ、を繰り返す
あぁ
エックス線に透かされているようだ
透かされて
ニスを塗られた体に
緊縛用の弦を張った日常
真実は巡り
襖に開けた小さな穴からの過ち
エックス線に透かされているようだ
大地の条令は暴露され
地面に広がる渦巻状の螺旋
それを汚してはいけないと
住民達は開拓者のスコップを

地面に落とした





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before dark , before daylight
 いとうかなめ
出身:秋田


彼が住む家の屋根から地平線が見える
海に何枚も重ねられた薄い和紙が色を放棄している
鳥は風鈴の内側に映った空を旋回しながら
打ちつける飛沫の膜を数えている


物語
という言葉を思い出して
私は小さな指輪を外し
足元が覚束ないまま大きく振りかぶり放り投げた

庭の畝から西瓜達がその輝きを一斉に見つめ
隣のトマト達は描き出された艶やかな弧を妬み
車のクラクションが空に弾き
葉の裏に隠れた虫がざわめき
鳥は鳴いて
海は夜のしじまの為に
すべてを手に入れようとしている
 


一月

鎖骨に留まっていた七色のオウム

足の甲を舐める錆色のコヨーテ

背中に張りついた金色の孔雀

ちょうどそれは酸素がなくなった

指輪の月からのこと



息を吐いてみる
肌にまとわりついた鱗が
部屋の鍵をそっと閉める
鮮明だったと嘘をついて
オンボロの体を着替える
魚達が私を少しずつ食い潰し
高速で回転すれば
酸素を生んで気泡を弾く
何度も
繰り返された
海、だった

確かめるように
息を吸ってみる 


足跡を連れて行った砂は
奪うことも好きなのだと思った
観光客の家族が裸足で浜辺を散歩し
太陽は遊んでいる黒い髪の少女にだけ
少し多く光を注いでいる
波が世界の一定を刻み
遠くの老人を静かに眠らせてもいる
昔そこらじゅうに蒔いた芽にならず沈んだ無数の種を
ゆっくりと拾い集め
貝殻に入れると軽く転がす


物語
とはどこまでのことだろう
かぞえさえしても
終わりそうになかった
思い出すことはなにもない
永遠が約束をして
海があって太陽があった
思い出すことはなにもない



貝殻を拾い
手のひらでもう一度転がす
そして力いっぱい掴み
しっかりとした足取りで
二三歩踏み込むと
大きく振りかぶり放り投げた




輝いている
 
 
 


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青雨の裸婦
 腰越広茂
出身:その他

しげりしげり光の青青としげった青葉を食む
尺取虫の羽化をした。
青空の縁を

すぎる時はぬれている。
白い肌の、青く浮かび上がり
おもい出を語り継ぐ
(おばあさまのわかいころ一時
 白いお米はたべられなかったそうよ)
羽化をした、羽が、やがて雲とも交わる。
すべてを声にする
紫に冷めたくちびるの自問
流水の果てに。

日輪に暈のかかり
昇ってゆくほそい雲
を黒い影たちが見上げている。
風はいまだ訪れずここに
青葉はおだやかにそよぐ気配もなく
静かに光合成を告白している

これが一つつばめらひくく
無関係なものか、と
あらわにする
味覚に
耳をかたむける、くびすじの細さ

『今宵は、
雨かしら



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pic/北城椿貴


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