エターナルゾーン日記板


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[1] Eternal Story(web漫画)
By TUINDAYO
気ままに書いていきます。

不定期更新です。

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少年編キャラ紹介【一部】
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[返信] [編集]2019 03-05 23:16 [Android]

[82] By TUINDAYO
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 アルと呼ばれた若い男は、一行を村外れに建つ小さな一軒家へと案内した。

 外見だけを見れば、どこにでもありそうな古い家だ。

 だが。

 壁面には複雑な模様が幾重にも描かれていた。

 文字にも見える。

 絵にも見える。

 しかし何を意味するのかは分からない。

 それがかえって、この家の異質さを際立たせていた。

「入るぜ、じいさん」

 アルが扉へ手をかける。

 すると。

 まるで待っていたかのように扉がひとりでに開いた。

「アレレ?どどどどういうことっス?」

 サンが耳をぴくぴくさせる。

「すごーい!なにこれ!?」

 ミナも思わず目を丸くした。

「なんだかコワいです・・」

 ルーデルは恐る恐る家の中を見回す。

 リッカだけは慣れた様子だった。

「こっちだ、さっさとしろ」

 アルが先導する。

 一行は細い通路を進んでいった。

 外観からは想像もつかないほど内部は広い。

 まるで別の空間に繋がっているようだった。

 やがて。

 奥に巨大な扉が現れる。

 金色の装飾が施された豪華な大扉。

 小屋の中にあるとは思えない代物だった。

「大ジジ様、ただいま戻りました」

 リッカが恭しく頭を下げる。

「おお〜はいれぇ」

 のんびりとした声が返ってきた。

 リッカが扉へ触れる。

 すると大扉は重々しい音を立てながらゆっくりと開いていった。

 その先には。

 古びた椅子へ腰掛けた老人の姿があった。

「よお戻ったのお・・リッカ」

「お久しぶりです」

 リッカは膝をつく。

 老人は穏やかに目を細めた。

「なんじゃああんたら・・?」

「申し訳ありません」

 リッカは頭を下げる。

「予言にあった銀髪の男は・・」

「来れなんだか」

「はい」

 リッカは悔しそうに頷いた。

「代わりにその仲間をお連れしました」

「フム」

 老人は静かに頷く。

 そして。

 一人ずつ見始めた。

 まるで本のページをめくるように。

 ゆっくりと。

 丁寧に。

「・・・」

 ミナが思わず姿勢を正す。

 ルーデルも居心地悪そうに身を縮めた。

「あのー・・?」

「大ジジ様はすごい目利きなの」

 リッカが説明する。

「いま、あんた達を見定めているのよ」

「あ、あんまり見られると恥ずかしいです・・」

 ルーデルは顔を赤くした。

「ふむ・・ほお・・これは・・」

 老人は何度か頷いた。

「もうええ、よおわかった」

 一同が少しだけ安堵する。

「ではさっそくはなそうかのお・・」

 老人はゆっくりと語り始めた。

「今よりひと月ほど前のことじゃった」

 その声に合わせるように部屋の空気が静かになる。

「わしら村の民は町より離れたこの厳しい地で、古来より細々と暮らしておった」

 老人の視線が遠くを見る。

「作物を育て、人を育み、ただありふれた日常を過ごす」

「それらだけが我らの世界の全てであり、生きる理由じゃ」

 静かな声だった。

 だが。

 その言葉には確かな愛着があった。

「そんなある日、事は起きた・・」

 そして。

 長い沈黙。

 一同が続きを待つ。

 だが。

「・・・なんじゃったっけ?」

 しーん。

 部屋の空気が止まった。

「・・・・・」

 リッカが静かに頭を抱える。

「はぁ・・これだもんなぁ・・」

 アルが大きくため息を吐いた。

 この反応を見る限り。

 どうやら日常らしい。

「私が話します・・」

 リッカが立ち上がる。

「大ジジ様はベッドでご安静に」

「お・・おおぉ・・」

 老人は素直に引き下がった。

 慣れている。

 リッカもアルも。

 そして大ジジ本人も。

「じゃあ、改めて説明するわ」

 リッカの表情が真剣になる。

「今・・私たちの村は存亡の危機に陥ってるの」

 一同も自然と姿勢を正した。

「ひと月前、センティメラ様の祠から黒い霧が・・」

「せ、センティメラ様!?」

 ミナが思わず立ち上がる。

「あの十一神の一柱とされる・・!?」

「そうよ」

 リッカは頷いた。

「まさかこんな場所に祀られていたなんて・・」

 ミナは驚きを隠せない。

 だがリッカは話を続けた。

「知ってる人もいるだろうけど」

「センティメラ様はすべての感情を司る神様よ」

 その声が少しだけ重くなる。

「その祠から現れた霧は・・すぐに村全体を覆いつくした」

 リッカは拳を握った。

「私たちはたまたま外れにいたから助かったけど・・」

 あの日の光景が脳裏によみがえる。

「霧が晴れた後、私とアルは村へ戻ったわ」

 その時。

 リッカの表情が僅かに曇った。

「でも・・」

 静かな声。

「そこにいたみんなは・・一切の感情を失っていた」

 部屋が静まり返る。

 リッカはゆっくりと目を閉じた。

「いつも入口で怒鳴ってた鍛冶屋のおじさん」

「畑で歌を歌ってたおばさん」

「毎日追いかけっこしてたガキどもの声すら聞こえない」

 声が少し震える。

「みんな立ったまま動かなかった」

 何も見ていない瞳。

 何も感じていない顔。

 笑いも。

 怒りも。

 悲しみも。

 喜びも。

 何一つ残っていなかった。

「呼んでも返事はない」

「肩を揺すっても反応しない」

「ただ・・・そこに立っているだけ」

 リッカは唇を噛む。

「生きてるのに」

「まるで人形みたいだった」

 誰も言葉を発しなかった。

 その光景が容易に想像できてしまったからだ。

「一切動くこともなく・・今も村のみんなは何をするでもなくじっと佇んでいるわ」

 ルーデルが小さく息を呑む。

「私とアルは祠へ向かった」

「原因を調べようと思ったから」

「でも祠の周りはもっと濃い霧が立ち込めていて入ることすらできなかった」

 そこでアルが口を開く。

「困った俺たちはじいさ・・村の長に助けを求めた」

「長には不思議な力があったからだ」

「そうして長の助言を受けたリッカがお前らを探しに行ったってわけだ」

 アルは腕を組む。

「どうだ、わかったか?」

「は、はぁ・・なんとなくですが・・」

 ルーデルは困惑しながら頷いた。

「???オイラにどうしろって言うんすか」

 サンは相変わらずだった。

「あんたはどうでもいいわ」

「ソッ・・」

 即座に黙る。

「ダメよ、そんなの」

 ミナが首を振る。

「私もエレナも女神テルミラに仕える身」

「その祠には近づけないわ」

「おい」

 不意に声がした。

「なによ・・ちょっと黙っててちょう――」

「あいつ、出て行ったぞ」

 全員が固まる。

「・・・は?」

 リッカが振り返る。

 そこにいるはずの小さな姿がない。

「・・はっ!?」

 ミナが青ざめた。

「エレナ!?」

「い、いつの間にかエレナちゃんが・・!」

 ルーデルも慌てて立ち上がる。

 部屋の空気が一変した。

 そして。

 誰も気付かないうちに。

 エレナはどこかへ消えていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[返信] [編集]2025 10-10 20:16 [pc]

[81] By TUINDAYO
ーーーーーーーーーーーーー


 険しい山道の途中。

 ようやく腰を下ろした一行の前には、ルーデルが用意してきた弁当が広げられていた。

 ラプトの料理人たちが腕を振るったらしく、蓋を開けた瞬間から香ばしい匂いが辺りへ漂う。

「ばくぶぁくふがもがへが!!」

 サンは既に口いっぱいに食べ物を詰め込んでいた。

 何を言っているのか誰にも分からない。

「う...うまいっすー!!」

 どうやら美味いらしい。

「気色悪い」

 リッカは呆れたように言いながらも、しっかり弁当を食べていた。

「ま、まあまあ...」

 ルーデルが苦笑する。

 せっかく作ってもらった弁当なのだ。

 美味しそうに食べてくれるのは悪い気分ではなかった。

「はいエレナ、あーんして♪」

 ミナは完全に保護者モードである。

「あーー」

 エレナが口を開く。

 その無防備な姿を見た瞬間。

「!かっわっいっいー!」

 ミナが悶絶した。

 テルミラの巫女としての威厳など欠片も残っていない。

「おい」

 瓶の中から声がした。

 誰も聞いていない。

「むぐむぐ」

 サンが口を動かしながらリッカの弁当を覗き込む。

「リッカそれいらないっすよねいただきっ!」

 ひょい。

 ぱくっ。

「あ!」

 リッカが目を見開く。

「このチビ!」

「ブキュッ!!」

 拳がめり込んだ。

「あへへ、もうたべちゃったっすw」

 サンは懲りない。

「...おい」

 再び瓶の中から声がする。

 やはり誰も聞かない。

「さ、サンちゃん」

 ルーデルが慌ててなだめた。

「まだたくさんあるから、ね」

「あらっ、このお芋美味しい」

 ミナはのんびりと食事を続けている。

 そしてついに。

「おいっ!!いい加減にしろ!」

 ゴンゴンッ!

 瓶の中のグルンガが壁を叩いた。

 一同の視線がようやく集まる。

「あら?」

 リッカが首を傾げる。

「声が小さすぎて聞こえなかったわ」

 完全に嘘だった。

「さっさと出せ!」

「なんでよ?」

 悪びれる様子もない。

「腹が減った」

 グルンガは歯を食いしばる。

「はやく飯をよこせ小娘」

「なーんか怠いわね〜」

 リッカはわざとらしくそっぽを向いた。

「くっ、この...」

 怒鳴りかけたグルンガが突然固まる。

「うおっ」

 額に汗が浮かぶ。

「なんだお前」

 瓶の向こう。

 エレナがじーっと覗き込んでいた。

「じーーー」

 逃げ場はない。

「何を見ている」

 グルンガが顔をしかめる。

「そこにある肉を持ってこい」

 エレナはにっこり笑った。

「あはっ!」

 そして。

 キュポッ。

「ごはんですよー♪」

 楽しげに肉を詰め始める。

「おわー!!」

 グルンガの顔色が変わった。

「瓶に詰めようとするやつがあるか!!」

 ぐぐぐぐぐ。

 肉が眼前に近付いてくる。

「つ、つぶれる!」

「あははは!」

 エレナは大笑いだった。

 グルンガの悲鳴だけが山へ響き渡る。

 ――――――――――

 それからしばらくして。

 一行は再び山道を歩いていた。

 切り立った岩壁。

 遥か下に広がる深い谷。

 人の住む場所など到底思えない秘境。

 そんな場所を越えた先。

 リッカが足を止めた。

「見えてきたわ」

 全員が前を向く。

「あれが私の育った村よ」

 山々に囲まれた巨大な集落がそこにあった。

 石造りの家々。

 広大な畑。

 外界から隔絶されたとは思えないほど大きな村。

「!」

 ミナが目を見開く。

「聖地の奥にこんな村が・・」

「と、とても広いですね」

 ルーデルも驚いていた。

 その隣で。

「Zzzz」

 サンは寝ていた。

「...きたわね」

 リッカの声が少しだけ固くなる。

 村の入口。

 そこには一人の青年が立っていた。

「戻ってきたか、リッカ!」

 日に焼けた肌。

 鋭い目つき。

 明らかに村の戦士だった。

「様子はどう?アル」

 リッカが真っ先に尋ねる。

 アルは顔を曇らせた。

「何も変わんねえ」

 その一言だけで十分だった。

「みんな四六時中うつむいてばっかだ」

 村の空気が重い理由。

 それだけで伝わる。

 アルはルーデルたちへ視線を向けた。

「そいつらは?」

「村長が予言した救世主」

 リッカは答える。

 だが少しだけ言葉を区切った。

「....その仲間たちよ」

「ど、どうも...」

 ルーデルが頭を下げる。

 しかし。

「あぁ!?」

 アルが叫んだ。

「銀髪がどこにもいねえじゃねえか!」

 正論だった。

 救世主。

 そのはずの銀髪の少年がいない。

「言ったでしょ」

 リッカが眉を吊り上げる。

「その仲間たちよ」

「そいつを連れてこねえと意味ねえだろうが!!」

「うるっさいわね!」

 リッカも負けじと怒鳴り返した。

「時間がなかったのよ!」

 二人の声がぶつかる。

 ルーデルたちは完全に置いてけぼりだった。

 その様子を。

「......」

 グルンガだけが黙って眺めている。

 やがてアルは大きくため息を吐いた。

「はぁ...」

 肩が落ちる。

「この村もおしまいか」

 その言葉には諦めが滲んでいた。

 リッカの表情も曇る。

 アルは踵を返した。

「とにかくついてこい」

 歩き出す。

「時間がねえ」

 リッカは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「ふん!」

 だがその足は迷わずアルの後を追う。

 村の中心部へ。

 全ての始まりが待つ場所へ向かって。

ーーーーーーーーーーーーー
[返信] [編集]2022 07-26 21:32 [pc]

[80] By TUINDAYO
ーーーーーーーーーーーーーーー


 聖地ザイン。

 切り立った岩壁が幾重にも連なる山岳地帯。

 空は晴れている。

 だが、この場所にはどこか奇妙な圧迫感があった。

 吹き抜ける風は冷たい。

 足元には大小様々な岩が転がり、少し足を滑らせれば遥か下の谷底へ真っ逆さまだ。

 人の気配など本来あるはずもない場所。

 そのはずだった。

「1時の方向...岩の陰」

 先頭を歩いていたナギサが足を止めた。

 いつもの軽い調子は消えている。

 視線は鋭く一点を見据えていた。

「警戒しろ」

 エリオの声が低く響く。

「了解」

 ツキも表情を引き締めた。

「嫌な気配だぞ。。。」

 アッシュが眉をひそめる。

 ただの気のせいではない。

 全員が何かを感じ取っていた。

 エリオは静かに剣へ手を添える。

「そこにいるのはわかっている!

 誰だ!姿を見せろ!」

 風が吹いた。

 岩陰から一つの影が現れる。

「......」

 黒い外套、身軽そうな服で覆った人物だった。

 顔はヘルムに隠されている。

 男か女かも分からない。

 だが。

 その場に立っているだけで周囲の空気が重くなるような異様さがあった。

「こんなところで何をしているのかしら?」

 ツキが問いかける。

 その人物は淡々と答えた。

「お前たちを通すわけにはいかない」

「はぁ!?

 どういうことよ!」

 ナギサが声を荒げる。

「なんだおめえ!」

 アッシュも前へ出ようとする。

「落ち着け」

 エリオが二人を制した。

「野盗には見えないが...まずはそのヘルムをとってもらおうか」

 謎の人物は小さく肩を竦める。

「それはできないんでな...」

 その瞬間だった。

「おいおい!

 そんなやつらとっととのしちまえばいいだろうが!」

 岩の上から黒いゴブリンが飛び降りる。

 ニヤニヤと下品な笑みを浮かべていた。

「なんなのこいつら...?」

 ツキが顔をしかめる。

「通さない?」

 ナギサの周囲に魔力が集まり始める。

「誰に言ってんのよ...!」

 空気が震えた。

「スカージ!!」

 光の柱が轟音と共に出現する。

 眩い閃光。

 岩肌を白く照らし、周囲の影を吹き飛ばすほどの威力。

 だが。

 それは動かなかった。

「ソウルメイト」

 静かな声。

「サタン」

 次の瞬間。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――。

 大地が唸った。

 岩壁が震える。

 足元の小石が跳ねるように転がり落ちていく。

「なっなんだあ!?」

 アッシュが叫んだ。

「地震か!?」

 エリオが足を踏ん張る。

「はじめっからやりゃいいんだよ!」

 黒いゴブリンだけが愉快そうに笑う。

 そして。

 現れた。

 巨大だった。

 山の一部が動き出したかのような錯覚。

 黒く禍々しい巨体。

 異様な角。

 濁った瞳。

 呼吸をするだけで周囲の空気が重くなる。

 まるで存在そのものが世界を拒絶しているようだった。

「グオオオオオオオオオオ!!」

 咆哮。

 その瞬間。

 ナギサの放った光が吸い込まれた。

「なに!?」

 ナギサの顔色が変わる。

「あのデカブツ!!

 私のスカージが...吸いとられた!?」

 光は消えた。

 抵抗する間もなく。

 飲み込まれた。

 そして。

 サタンの身体から黒い波動が広がる。

 オ ー ル ド レ イ ン 。

 世界が静かになった。

 風が止む。

 鳥の声も消える。

 まるで生命そのものが息を潜めたようだった。

「ぐっ...なんだ...力が」

 エリオが膝をつく。

 身体の奥から何かを引き剥がされるような感覚。

「抜けていくわ...!」

 ツキもその場に崩れ落ちる。

「あぐぐ...」

 アッシュも苦しそうに歯を食いしばった。

 ナギサは肩で息をしている。

「ハァッ...ハァッ...

 なんなのよ...あれ...」

 理解できない。

 戦いですらなかった。

 ただそこに存在するだけで奪われる。

 そんな理不尽な力だった。

「ケッ!雑魚がよ!」

 黒いゴブリンが吐き捨てる。

 だが。

 それ以上興味を示さなかった。

「もういい」

 静かな声。

「行くぞ」

「命令すんな!」

 文句を言いながらも黒いゴブリンは従う。

 巨大なサタンも黒い霧の中へ溶けていった。

 後には重苦しい沈黙だけが残る。

 エリオは歯を食いしばった。

(これは...まずい)

 今まで感じたことのない脅威。

 あれは災厄だ。

 放置していい存在ではない。

(知らせなくては...)

 仲間達へ。

 そして世界へ。

 何かが動き始めたことを。

 ――――――――――

 同じ頃。

 険しい山道を進むリッカ達の姿があった。

 見上げれば岩壁。

 見下ろせば断崖。

 慣れない者なら足が竦むような道を、リッカは迷いなく進んでいく。

「もうすぐ約束の場所につくわ」

 振り返らずに言った。

「エレナ〜

 お水ですよ〜♪」

 ミナは完全に保護者である。

「ん...」

 エレナが眠そうに返事をする。

(この二人

 どう見ても役立たずね...)

 リッカはため息をついた。

(早まったかもしれないわ)

「あの...」

 ルーデルがおずおずと声を掛ける。

「なによ」

「少し休憩していきませんか?

 お、お弁当貰ってきたんです...」

 リッカの眉がぴくりと動く。

「あんたね

 遊びにきたんじゃないのよ」

「そ、そうですね...

 すみません...」

 ルーデルは肩を落とした。

「さっさといくわよ」

 その時。

 グゥ〜〜〜〜...

 静かな山道に腹の音が響いた。

「!」

 ルーデルが顔を上げる。

「あ〜!」

 サンが何かを言おうとした瞬間。

 ブキュッ!!!

 「まだなにも「うるさいっ!」

 リッカの踵が見事に顔面へめり込んだ。

「お弁当にしましょう」

 ミナが微笑む。

「お腹が空いてたら困るでしょ」

「わーい!」

 エレナが両手を上げた。

「しょ、しょうがないわね」

 リッカはそっぽを向く。

 その様子を。

「......」

 グルンガだけが黙って眺めていた。


ーーーーーーーーーーーーーー
[返信] [編集]2022 05-28 23:49 [pc]

[79] By TUINDAYO
ーーーーーラプトーーーーー


 ラプトの朝。

 出発の準備を終えたルーデルたちは、屋敷の前で待っていた。

 だが。

「レインさん来ないですね...」

 ルーデルは何度目か分からないほど街道の先を見つめる。

 もう戻ってきてもおかしくないはずだった。

 しかし姿はない。

 リッカは腕を組んだまま鼻を鳴らした。

「どうやら期待外れだったようね...」

 少しだけ残念そうにも聞こえる。

「私だけでも行くわ」

 迷いはなかった。

「あんたたちは関係ないわけだし」

「エエ!?」

 サンが飛び上がる。

 ルーデルも慌てて前へ出た。

「わ、私達も力にならせてください...!」

 声は震えていたが、その瞳は真剣だった。

「困っている人を放ってなんておけません...」

 リッカは少しだけ目を見開く。

 そして小さく息を吐いた。

 その時だった。

「オイ、どうでもいいが」

 グルンガが片手でエレナを持ち上げる。

「こいつはどうするんだ」

「?」

 持ち上げられたエレナは何も分かっていない顔をしていた。

 リッカは即答する。

「少しは元に戻ってきたようだけど、そんなお子ちゃま連れていっても足手まといなだけよ」

 冷静な判断だった。

「あのミナとかいう女に返してきなさい」

「フンッ、当然だな」

 グルンガも頷く。

「そういうことだチビ」

 だが。

「いや!!!私もいく!!」

 エレナが全力で暴れ出した。

 ぶんぶんと手足を振り回す。

「むむむ...困ったっすねえ」

 サンが頭を抱える。

 そこへ。

「待ちなさい!」

 聞き覚えのある声が飛んできた。

 全員が振り返る。

「み、ミナさん!その格好は..」

 ルーデルが驚く。

 ミナは旅装束に身を包んでいた。

 いつもの巫女としての姿ではない。

 覚悟を決めた旅人の顔だった。

「私はエレナの保護者よ」

 迷いなく言い切る。

「当然付き合うわ」

 そして少しだけ微笑んだ。

「それに...借りもまだ返せてないもの」

 リッカを見る。

「テルミラの巫女として借りは作ったままではおけないわ!」

「おねえちゃーん!」

 エレナが飛びつく。

「ああエレナ〜よしよし/////」

 さっきまでの凛々しさはどこへやら。

 ミナは満面の笑みで抱きしめ始めた。

「ぐううっ...」

 サンが胸を押さえる。

「なかぜるっす...う!」

 感動しているらしい。

 しかし。

 ブキュッ!

「はぁ。仕方ないわね...」

 リッカの足が容赦なく顔面へ突き刺さった。

「すぐに向かうわよ」

 ぐりぐりぐり。

「鬼...」

 サンが床に沈んだ。

 ――――――――――

 同じ頃。

 聖地ザイン。

 山岳の間を進む一団の姿があった。

「ちょっとナギサ」

 ツキが呆れたように言う。

「あんた主の護衛任されたんじゃないの?」

「だってあんなとこ居てもつまんないんだもーん」

 ナギサは悪びれもせず答えた。

「護衛なんてオジン二人で充分でしょ!」

「みんなでピクニックだな♪」

 アッシュが上機嫌で笑う。

「いや任務な...」

 エリオは頭を抱えた。

「あとでどやされるぞこりゃ」

「ん〜?」

 ツキがニヤリと笑う。

「お父さん係は大変ネ笑」

「むっふふふ、とことん憂さ晴らししてやるわ...!」

 ナギサは拳を握る。

「はあ...」

 エリオのため息は深かった。

 だが。

 その空気が突然変わる。

「なんだか変だぞ...」

 アッシュが立ち止まった。

「アッシュも気付いた?」

 ナギサも同じ方向を見つめている。

「え?なに?」

 ツキが首を傾げる。

「どうした二人とも」

 エリオも周囲を見渡した。

 しかし何も感じない。

「上手く言えないけど...嫌な気が」

 ナギサの表情が険しくなる。

「この先からだぞ...」

 アッシュも珍しく真面目だった。

「...?」

 ツキはエリオを見る。

「エリオ、感じる?」

「いや...」

 だがエリオは首を振った。

(ナギサは感知術に長けてる...それにアッシュは勘のいい奴だからな)

 だからこそ。

 無視はできなかった。

(何が出るか...)

「とにかく慎重に進もう」

 全員の表情が引き締まる。

 ――――――――――

 一方。

 こちらも聖地ザイン。

「あの〜..サンちゃん?」

 ルーデルが困った顔をする。

「ムッ?」

「頭...お、重いです...」

 ルーデルが困った顔をした。

 いつの間にかサンが頭の上に座っていた。

「ハッ!!!」

 サンが飛び上がる。

「いや〜!オイラとしたことがついいつものクセでくつろいじゃって!」

「そんなクセの悪いゴブリン置いてけばいいのよ」

 リッカが冷たく言い放つ。

「ムカーーッ!!!」

「ま、まあまあ...」

 ルーデルが慌てて止めに入る。

「ぷんっ!!」

 サンは頬を膨らませた。

「あーあー!こんなことならレインを待ってりゃよかったっすー!」

 そして。

「...ンン?」

 急に辺りを見回し始める。

「どうしたの?」

 ミナが尋ねる。

「そういえばグルンガはどこ行ったっすか?o(・ω・= ・ω・)o」

「あれー!」

 エレナが指差した。

 全員の視線がそちらへ向く。

「.....」

 そこには。

 小さな瓶の中へ閉じ込められたグルンガがいた。

「やや!そんなところに!」

 サンが駆け寄る。

 リッカが説明した。

「聖地ザイン...悪気があればたちまち幻惑に引っ掛かるわ」

 神秘に満ちた土地。

 それがザインだった。

「だからこうして瓶に入れてるのよ」

「ホェー、悪気!」

 サンが感心したように頷く。

「便利なこともできるんすねえ」

 そして瓶を覗き込んだ。

「ぷぷ、それにしてもちっちゃくて虫みたいっす」

 つんつん。

「あはは!」

 エレナが楽しそうに笑う。

 瓶の中のグルンガは青筋を浮かべていた。

「後でころす...」

 低い声だけが静かに響いた。

ーーーーーーーーーーーーーー
[返信] [編集]2020 11-23 20:56 [pc]

[78] By TUINDAYO
ーーーーーーーーーーーーーー

 修行を始めて五日目。

 荒れ果てた岩場に、少年の歓声が響いた。

「できたああー!!」

 レインは勢いよく立ち上がる。

 何度も失敗し、何度も集中を切らし、その度にマーサルから怒鳴られてきた。

 それでも。

 ついに成功した。

 マーサルは腕を組みながら鼻を鳴らす。

「俺からすればまだまだってところだけどな」

 だが口元は少しだけ緩んでいた。

「ま、この短期間でよくやったな」

「これで僕も戦えるの!?」

 目を輝かせるレイン。

 マーサルは肩を竦めた。

「そいつはお前の使い方次第だ」

 力を持つことと、戦えることは違う。

 それをマーサルは知っていた。

「さてと、とりあえずメシだメシ!」

「おー!」

 レインの返事はやたら元気だった。

 ――――――――――

「ファープ、食った食ったー」

 満腹になったレインが草の上へ寝転がる。

 マーサルも腹をさすりながら頷いた。

「スナンタウン特製ナメク汁、結構いけるだろ?」

「美味しかったー!」

 レインは素直に笑う。

「何が入ってるの?」

 マーサルの目が輝いた。

「うむうむ」

 待ってましたと言わんばかりに指を立てる。

「大ナメクジの体液にオーガ種の血を少々、それにマンイーターの葉を磨り潰して、おまけにオーガの体毛を味付けにだな...」

「ヴェーーーーー!」

 レインの顔色が変わった。

「聞くんじゃなかった..」

「なんにせよ食べられるってのは幸せなことだ」

 マーサルは空を見上げる。

「不本意だがモンスターにも感謝しなきゃな」

「えーー..倒すのに?」

「そいつは言わない約束だ」

 そう言って笑う。

「さっ、早いとこ寝るぞ」

 その時だった。

「ねえ、まさる」

 レインの声が少しだけ静かになる。

「ん〜?なんだよ」

「復讐しようとか...思わないの?」

 マーサルの眉がぴくりと動いた。

「はあ?」

「目の前で自分のお姉さんが酷いことされたんだよ?」

 レインは真っ直ぐに言う。

「たった一人のお姉さんなんでしょ?」

 少しだけ俯く。

「ティールさんが同じことされたら、絶対に許せないよ...」

 風が吹いた。

 マーサルはしばらく黙る。

「なんだ...その事か」

「ずっとエマラさんを追いかけてきたのに」

 レインは納得できない顔をしていた。

「...悔しくないの!?」

「ふーー...」

 長い息を吐く。

 そして。

「レイン、そこに座れ」

「うん..」

 焚き火の前。

 マーサルは炎を見つめながら口を開いた。

「少し昔話をするか...」

 ――――――――――

「おぉー!」

 幼いマーサルが目を輝かせていた。

「かっこいーなあ!」

「なあに?またその絵本?」

 エマラが笑う。

「絵本じゃないよ!」

 マーサルは抗議した。

「冒険者が世界を救う物語なんだ!」

「冒険者...?」

 エマラは首を傾げる。

「勇者様じゃないの?」

「ばっかだなー姉ちゃん!」

 マーサルは得意げだった。

「勇者なんてもう古いよ!」

 拳を突き上げる。

「時代は冒険者を求めてるのだー!」

「ウフフ」

 エマラは優しく笑った。

「なーに?マーサルは冒険者になりたいの?」

「なるよ!」

 即答だった。

「こんな窮屈な町、いつか抜け出してやるんだ!」

 そして。

「あ、姉ちゃんは荷物持ちね!」

「え〜」

 エマラが困ったように笑う。

 だがその顔はどこか嬉しそうだった。

 ――――――――――

 あの頃の俺には夢があった。

 偉大な冒険者になる夢だ。

 小さかったオレだが、夢だけは大きかった。

 そんな夢見る少年マーサルにとって。

 ラプトは小さな牢獄でしかなかった。

 そして。

 あの日が訪れた。

 ――――――――――

「母ちゃん...姉ちゃんは絶対に見つけだす!」

 マーサは静かに頷いた。

「...裏に村の外へ出る道があるわ」

 そして息子を見る。

「頼んだよ、マーサル」

 その言葉を聞きながら。

 幼いマーサルは思った。

(これで...俺は冒険者になれる!)

 ――――――――――

「そう、口ではああ言ったが」

 現在。

 マーサルは苦笑する。

「姉の身よりもラプトから出られることが何より嬉しかったんだ」

 レインは何も言わない。

「俺は...心の中では姉のことなんて考えちゃいなかったんだ」

 炎が揺れる。

「ただラプトを出るきっかけをくれただけの存在だと...」

 自嘲気味に笑った。

「へっ...残酷なもんさ」

 そして。

「そう思うだろ?」

 レインは黙って聞いていた。

「お前達に会うまで、俺は姉ちゃんを連れた奴等をずっとつけていた」

 視線を炎へ落とす。

「途中で邪魔は入ったが、どうにか間に合った」

 だが。

「それは所詮義務でしかなかったんだ」

 マーサルはそう言った。

「母親との約束...ただそれだけが俺をここへ連れ戻した」

 静かな声。

「俺はこんな気持ちで姉ちゃんに会うべきじゃなかったのかもしれねえ」

 そして。

「後悔すらなかったんだからな」

 レインはしばらく考えた。

 難しいことは分からない。

 けれど。

「まさるはそんなやつじゃないよ」

 それだけは言えた。

 マーサルが目を見開く。

「!」

 やがて小さく笑った。

「.....だといいな」

 立ち上がる。

「もういいだろ、寝るぞ」

 そう言って背中を向けた。

 ――――――――――

「おい、さっさと寝ろ」

 ラプトでは別の戦いが始まっていた。

「ご本よんで」

「この俺に本を読めだと?」

 グルンガの眉が吊り上がる。

「ふざけるな」

「じゃー寝ないもん」

「...」

 グルンガは黙った。

(小娘にまた封印されるかもしれん)

 嫌な記憶が蘇る。

「ちっ、仕方な...」

 その時。

(あらあら..)

 リッカの視線に気付いた。

「!」

 慌てて咳払いする。

「甘ったれるなこの...!」

 だが。

「スーー...スーー...」

 エレナは既に眠っていた。

「ぐぐぐ...」

 グルンガは拳を震わせるしかなかった。

 ――――――――――


ルーデル
「サンちゃん、居ます?」


サン
「ム?

おーいここっすここっすー」


ルーデル
「えっと...何してるの?」


サン
「ゴミ箱に座ったらはまっちゃったっす

たすけてっ」


ルーデル
「...お邪魔しました」バタン


サン
「えっ」


ーーーーーーーーーーーーー
[返信] [編集]2020 09-18 23:47 [pc]

[77] By TUINDAYO
ーーーーーーーーーーーーー


 ラプトの朝は賑やかだった。

「元気だったかあ!みんな!」

 食堂の扉が勢いよく開かれる。

 聞き覚えのある声に、エリオは思わず額を押さえた。

「急に居なくなったと思えば..」

 呆れたようにため息をつく。

「先に帰っていたのか」

「にひー!」

 当の本人は悪びれた様子もない。

 小柄な体を揺らしながら笑うアッシュに、ツキが額へ青筋を浮かべた。

「アンタってなんというか自由すぎよ!このばか!くのくのー!」

 ぐりぐりぐり。

「ははーわりわり!」

 頭をこねくり回されながらも楽しそうだ。

 バロンズは椅子に腰掛けたまま問いかける。

「いつ戻ったのだ?」

 アッシュは顎に手を当てた。

「ンーー..( -_・)」

 数秒考え込む。

「半年くらい前だったかな!」

 食堂が静まり返る。

 エリオが目を閉じた。

 ツキが天井を見上げた。

 バロンズは眉間を押さえた。

「では、キースの件にも気づいていたという事だな?」

「おー!」

 アッシュは元気よく頷いた。

「おいら、帰ってきたんだけんど」

 パンをかじりながら続ける。

「若様に追い出されっちまって!

 かなわんね!」

 まるで近所で犬に吠えられた話でもするような口調だった。

「仮にも我が親衛隊ともあろう者がなんたることか!」

 バロンズが机を叩く。

 しかしアッシュは頭を掻くだけだった。

「へへ...」

 少し照れたように笑う。

「おいら若様にゃ頭上がんねかんな」

 その言葉に、エリオは小さく息を吐いた。

「まったくお前は」

 だが責める気にはなれない。

 昔からそうだった。

 アッシュは誰より自由で、誰よりキースに忠実だった。

「アッシュにも夕飯を..」

 エリオが言いかけた瞬間。

「既にご用意しております」

 マエストロが当然のように答えた。

 誰も呼んでいない。

 誰も指示していない。

 それなのに、アッシュの前にはいつの間にか湯気の立つ料理が並んでいた。

 エリオがゆっくり振り向く。

「あなた本当に何者なんです..」

 マエストロは優雅に一礼しただけだった。

 アッシュはそんなことなど気にも留めず。

「んめー!」

 肉へかぶりつく。

「んでんで!」

 口いっぱいに頬張ったまま辺りを見回した。

「若様はどこいったー(゜Д゜≡゜Д゜)?」

 ――――――――――

 事情を聞き終えた頃には、皿の上の料理は綺麗になくなっていた。

「....という訳だ」

 バロンズが話を締める。

「そかそか...」

 アッシュは珍しく静かな声を出した。

 いつもの軽さが少しだけ薄れている。

「若様も様子が変だったからなー」

 その一言に、バロンズの目が鋭くなる。

「変とはどういうことだ?」

「んー」

 アッシュは椅子にもたれかかった。

「おいらたちが旅に出てからよー」

 天井を見上げる。

「もう四年は経ってただろー」

 懐かしそうに笑う。

「その頃と半年前じゃー、まるで人が変わったみてーだったぞー?」

 エリオが腕を組む。

「四年もあれば男は変わるものだ」

 少し格好つけながら頷く。

「特に坊っちゃんくらいの年齢はな」

 ツキがじとっとした目を向けた。

「そういうこと言ってんじゃないのー...もう」

 呆れたように肩を竦める。

「その間に何かあったみたいね」

 バロンズは黙って考え込んだ。

 やがて。

「...ピエトロをここに」

 静かに命じる。

「既にここに」

 背後から即座に返事が飛んできた。

 エリオが反射的に振り向いた。

「予知かなにかか...?」

 マエストロは微笑むだけだった。

 ツキはピエトロを見る。

「あらーー」

 しげしげと眺める。

「トロっぴも随分老けたわね?」

 ピエトロが苦笑する。

「は、はぁ...」

「元からおじいちゃんだったけど」

「......」

 ピエトロは何も言い返せなかった。

「さあ、早く話せ弟よ」

 マエストロが優雅な笑顔で促す。

 だが目は笑っていない。

 ピエトロは小さく咳払いした。

「キース様が変わったのは主らが旅に出たすぐのことです..」

 食堂の空気が静まる。

「初めは二人や三人ほどが出入りするようになりましたが」

 バロンズが眉を寄せた。

「一月もすればその数は20にものぼっておりました」

 異常だった。

 屋敷の者で気づけなかったはずがない。

 それほどの人数だ。

「その頃から私はある夢を見るようになっていました」

「夢?」

 バロンズが聞き返す。

「は、はい。。」

 ピエトロは頷いた。

「ぐるぐるとした光景がただひたすらに広がる夢でした...」

 思い出すだけで気味が悪い。

「それからのことは記憶がなく..。」

 エリオが静かに目を細める。

「睡眠中になにかを仕掛けられたようだな」

「聞いたことがある」

 バロンズが呟く。

「聖地ザインを抜けた更に奥地に、不思議な力を用いる村があると」

 ツキがぱっと顔を上げた。

「じゃ、そこに行ってみればいいのねー」

 簡単に言う。

「なにか手がかりが残ってるかも」

「若様を諦めるなんてできないぞ!」

 アッシュが机を叩いて立ち上がった。

 その声だけは真剣だった。

 バロンズはしばらく黙る。

 やがて深く息を吐いた。

「汚点を放っておくわけにもいかんか...」

 誰にも見えないように目を閉じる。

「明日、皆で向かってくれ」

「了解!」

 エリオが即答した。

 ――――――――――

 一方その頃。

 荒れ果てた修行場。

「............」

「............」

 マーサルとレインが向かい合っていた。

 静寂。

 風の音だけが響く。

「.......オイ」

 マーサルが眉をひそめる。

 返事はない。

「............」

 レインは微動だにしない。

 マーサルはゆっくり顔を近づけた。

 スッ...

「アーーーーー!」

 次の瞬間、怒鳴り声が響く。

「おまえレインなに寝てんだコラ!しっかり集中しろー!」

「でへ...ばれちった」

 レインが舌を出す。

「ったく..」

 マーサルは額を押さえた。

「残り二日しかねーんだ」

 真面目な顔になる。

「そんなじゃ習得できそうにねーぞ」

「だーってこれむちゃくちゃ難しいんだもん!」

 レインは地面を指差した。

「見本も見せてくんないしさ!」

「だーから言ったろうが」

 マーサルは鼻を鳴らす。

「パーフェクトな俺でもこれだけは使えないんだよ」

 胸を張る。

「でもなきゃお前にやるもんか」

「集中集中」

「聞けよ!」

 修行は今日も騒がしかった。

 ――――――――――

「あっおかえりなさい」

 ルーデルが本から顔を上げた。

「リッカちゃん」

 リッカが部屋へ入る。

「お勉強でもしてるの?」

「あ、あの。これはね」

 ルーデルは本を持ち上げた。

「『植物大図鑑』って言うの」

 少し照れたように微笑む。

「私ね、色々なことを調べるのが好きなの」

「へー...」

 リッカが頷いたその時。

「あーーーーー!暇っす暇っすー!」

 勢いよく扉が開いた。

「ドーン参上!なんちて!」

 サンだった。

「ちゃっす二人とも!」

 両手を広げる。

「オイラが遊びにきたっスよー嬉しいっスかー!?!?(。>ω<)ノ!」

 そして。

「....ハッ!」

 嫌な予感がした。

 直後。

 ブキュッ

「やかましい!」

 リッカの足が顔面へめり込む。

 さらに。

 フミフミ。

 グリグリ。

「ううっとんだ歓迎っスね...」

 床に埋まりながらサンが呟く。

 ルーデルが慌てて指を立てた。

「サンちゃん、エレナちゃんが起きちゃいますよ?」

「ホワッ」

 三人の視線がベッドへ向く。

 そこには。

「....Zzz」

 気持ちよさそうに眠るエレナの姿。

 リッカは呆れたようにため息をついた。

「ほんとおかしなモンスターだわこいつ...」

 サンは床にめり込んだまま親指を立てた。

「光栄っス!」

ーーーーーーーーーーーーーー
[返信] [編集]2020 07-13 23:15 [pc]

[76] By TUINDAYO
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 朝の光が荒野に差し込み始めた頃。

 まだ冷たい風が、岩場の間を抜けていく。

「さーーって!」

 マーサルの声が響いた。

「朝飯だレイン!起きろ!」

「ま、まさる...」

 レインは毛布の中で震えていた。

 全身が痛い。

 昨日の修行のせいで、腕も足もまるで自分のものではないようだった。

「なんだ起きてたのか」

 マーサルは不思議そうに覗き込む。

「どうした手ぇ震わせて」

「動けない...」

「だー!!」

 マーサルは頭を掻いた。

「起きなきゃオレ流マッサージだぞ!」

「ゲッ!!!」

 レインは勢いよく飛び起きた。

「起きる起きる!」

「なんだよ、嫌なのか?」

「あんなの二度とごめんだよ!」

 必死の抗議だった。

 マーサルは納得いかなそうに肩を竦める。

「よく効くのにもったいねえー」

 そしてすぐに表情を切り替えた。

「いいか、昨日は栄養食を出したが、本来の野宿飯は現地調達が基本だ」

「現地調達?」

「というわけで...朝昼夕飯とってこい!これまた修行の一つだ!」

「ええー!」

 レインは辺りを見回した。

 見えるのは岩。

 砂。

 崖。

 乾いた草。

「こんなところに食べものあるわけないじゃん!」

「ないところから探すのが冒険者の基本だゾ」

「冒険者じゃないもん!」

「ほら口より足動かせ!」

 マーサルは毛布にくるまる。

「俺は二度寝する!おやすみ!」

「ぐうたらめ...」

 レインはため息をつきながら、ふらふらと歩き出した。

 ――――――――――

「こんなところに食べ物なんてあるはずないのになー」

 岩場を歩きながら、レインはぼやいた。

 腹は減っている。

 身体も痛い。

 けれどマーサルは本気で帰ってこないだろう。

「あった...」

 ふと、崖の途中に小さな実がなっているのが見えた。

「実かな?でも..」

 それは崖の途中。

 足場らしい足場もほとんどない場所だった。

「あんな崖の途中で生えてちゃとれないや。。参ったな」

 その時。

「どいたどいたー!」

「ン!?」

 レインが振り向く。

 一人の小さな影が、崖へ向かって駆けていった。

「よっ!ほっ!せいっ!」

 その人物は、岩の突起を次々と蹴り、軽々と崖を登っていく。

「!!」

 レインは目を見開いた。

(す、すごい。崖の突起物を利用して、しかもあんなに身軽に!)

「ほーっ」

 崖の途中で、その小さな人物は実を手に取った。

「こいつはいいや、全部とっちまおう」

 ぶちぶちと慣れた手つきで実を採っていく。

「ねーねー!!」

 レインは下から叫んだ。

「ん?」

「ちょっと分けてくんないかなー!!」

「なんだってー?聞き取りづれーな!待ってろい!」

 その人物は、また軽やかに崖を降りてきた。

 とっとっとっ。

 地面に着地した姿を見て、レインは改めて驚く。

 背丈はかなり低い。

 けれど、その身のこなしは普通の子供とはまるで違っていた。

「なんだい、おいらに用かよ銀髪の兄ちゃん」

「その実、少し分けてほしいんだ」

「むむっ」

 その人物はレインをじっと見上げる。

「おまえ、とれなかったのか?」

「うん」

「とろくさいやつだなあ」

 あっけらかんと言いながらも、手の中の実を一つ投げた。

「まあいいや、ほら」

「ありがとう!えっと..」

「おいらはアッシュっつーてよ」

 胸を張る。

「ここいらは庭みてーなもんだい」

「僕はレイン、よろしく!」

 レインは笑って手を差し出した。

(近くで見ると、随分小さい人だな)

「むっ!」

 アッシュが目を細める。

「いま小さい奴だなとか思っただろい?」

「うん」

「正直なやつだなあ!」

 アッシュは怒るどころか、むしろ豪快に笑った。

「だがよ!おいらはこう見えても立派な大人なのさ!」

「へー...」

「信じてない顔だな!」

「庭って言ってたけどさ、このあたりに住んでるの?」

「家はラプトにある!」

 アッシュは自信満々に言った。

「一番でかいところだあ。また遊びにこい!レイン!」

 そう言うと、アッシュは手を振りながら岩場の向こうへ走っていった。

 レインはその背中を見送りながら、手の中の実を見つめた。

 ――――――――――

「おっ、戻ったか」

 昼前。

 マーサルは焚き火の前で欠伸をしていた。

「はいコレ」

 レインが採ってきた実を差し出す。

「んん〜〜?」

 マーサルはそれを見るなり、目を細めた。

「こりゃまた珍しいモン見つけてきたな」

「珍しいの?」

「ああ」

 実をつまみ上げる。

「こいつはいまの時期にしかならねえランプの実だ。一粒500ビルドは下らねえ」

「ひ、一粒500..!」

 レインは目を丸くした。

(なんだか悪いことしたな..)

 あんなに簡単に分けてもらってしまった。

 マーサルはしばらく実を見ていたが、やがて笑った。

「しゃーねえ!お前が見つけてきたんだ。今後の旅賃として俺が全部買い取ってやる!」

「ほんと!?」

「飯はナメクジだ!」

「えー...嬉しいような嬉しくないような」

 レインが顔を引きつらせる横で、マーサルは改めて実を見つめた。

(しっかしこの実は険しい崖にのみ成るはず...それをレインが?)

 ちらりとレインを見る。

(いや、こいつじゃまだ無理だ。だとすると..)

「ふーーーーむ」

 何か引っかかる。

 だが。

「まっ、いいか」

「オエッ!」

 レインの悲鳴が焚き火の前で響いた。

 ――――――――――

 一方その頃。

 ラプトの屋敷では、エリオとツキが戻っていた。

「は〜」

 ツキは椅子にもたれかかりながら、満足そうに息を吐く。

「疲れとれるわぁ〜」

「長かったな」

 エリオが呆れ半分で言う。

「待たせたわね」

 ツキは髪を払いながらバロンズへ笑いかけた。

「主も、ごめんね〜?」

「はぁ...いいから座りなさい」

 バロンズは軽くため息をついた。

「食べながら話すとしよう」

 目の前には温かな料理が並んでいる。

 ツキはすでに目を輝かせていた。

 エリオは姿勢を正す。

「キース様を追い、ドロセアまで足を運びましたが」

 その声は真剣だった。

「異様な数のモンスターに出くわしました」

「あの辺りか」

 バロンズは眉をひそめる。

「モンスターなどそう多くは居ないはずだが」

「おまけにおかしな種も混じってたわね」

 ツキが肉を口に運びながら言う。

「しかし美味いわねこれ。。」

 エリオは軽く咳払いした。

「人為的な物と考えるべきでしょう」

 続ける。

「とはいっても、あれほどの魔物を連れてくるには個人の力ではありえません」

 バロンズは静かに目を伏せた。

「キースがドロセアに逃げた以上、あやつらが関わっているのであろう」

「...破壊の神ゾンを崇める異教徒」

 エリオの声が低くなる。

 ツキが目を丸くした。

「うっそ!まだそんなの信じてるやついるんだー」

 フォークを止める。

「えっと?たしか名前は」

「ネオゾン教徒か」

 バロンズが答えた。

「はい、恐らくは」

 エリオは頷く。

「奴らが何をするか分からない。これ以上の追跡は困難と判断しました。申し訳ありません」

「いや、良い判断だ」

 バロンズはすぐに首を振った。

「ワシとしてもあ奴らに関わるのは避けたいからな」

「では、キース様は...」

 エリオの声に迷いがあった。

 バロンズはしばらく黙った。

 そして。

「諦めるより他はない」

 重い沈黙が落ちる。

 ツキだけが、少しだけ空気を変えるように皿を持ち上げた。

「やっぱそうなるわよねー...ねえこれ美味しくない?」

 その時だった。

「なんだいなんだい!」

 勢いのある声が部屋に飛び込んできた。

「皆して暗い顔してら!飯がまずくなんぞ!」

「!」

 エリオが振り向く。

「お前...」

 そこに立っていたのは、昼間レインが出会った小さな人物だった。

「アッシュ!」

 アッシュはにっと笑い、まるで自分の家のように堂々と部屋へ入ってきた。



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[返信] [編集]2020 06-19 12:05 [pc]

[75] By TUINDAYO
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 夕暮れの荒野に、情けない悲鳴が響いていた。

「がーっ!!」

 巨大な岩を抱えたレインが、その場へ崩れ落ちる。

「づがれだ〜〜」

 全身汗だく。

 腕も足もぷるぷる震えていた。

 そんなレインを見下ろしながら、マーサルは腕を組む。

「結構持ったじゃないか」

 感心したように頷いた。

「さては二年間体力作りを――」

「全くしてない!」

 即答だった。

 マーサルの顔が引きつる。

「そ、そうか……」

「もう動けないよ〜!」

 地面へ大の字になったレインが情けなく呻く。

 そんな様子を見て、マーサルはニヤリと笑った。

「ふっ。このマーサル様がとっておきの料理を作ってやろう!」

「え!」

 レインの目が輝く。

(もしかしてドレイク風シチュー!?)

 以前食べたあの料理を思い出し、自然と唾が湧いてきた。





 ―――――30分後。





 焚き火の前。

 レインは無言だった。

 目の前には皿。

 皿の上には何か。

 しかし、それは料理と呼ぶにはあまりにも勇気が必要な見た目をしていた。

 隣ではマーサルが平然と口へ運んでいる。

「ほれ、食え」

 もぐもぐ。

 レインはしばらく沈黙した。

 そして意を決して口を開く。

「あのー……つかぬことをお聞きしますが」

「?」

「この物体は何でしょうか……」

 マーサルは不思議そうな顔をした。

「見りゃわかるだろ」

 胸を張る。

「オレ特製ナメクジかけごはんだ」

 レインは立ち上がった。

「ぼくかえる」

 がしっ。

 だが逃亡は未遂に終わる。

「フフフ待て待て」

 肩を掴まれた。

「これはれっきとした栄養食だ」

 にこー。

 妙に爽やかな笑顔だった。

「うっ……」

 レインの顔が青くなる。

 マーサルは真面目な顔へ戻った。

「真面目な話、体の疲労にはこいつが一番だ」

 指で料理を示す。

「俺もこいつのおかげで強くなったんだぜ」

 レインは料理を見る。

 再びマーサルを見る。

 もう一度料理を見る。

「これで強く」

「うむ」

 迷いなく頷いた。

「ま、この程度乗り越えられねえ奴が人を助けようなんて無理な話だよな〜」

 ちらりとレインを見る。

「食えないならしょうがない。こいつは俺が――」

「うおおおおお!!」

 ぱくぱくぱくぱくっ!!

「お、おいおいそんなペースじゃ」

「全部食べてやるぅ〜!!」

 涙目になりながら猛烈な勢いでかき込む。

 マーサルは思わず笑った。

(お前には才能がある)

 レインを見つめる。

(負けず嫌いってやつが)

 次の瞬間。

「ゲボオエッ!!!!」

 盛大に吐いた。

 マーサルは遠い目をしながら思う。

(いきすぎだけどな……)

 ―――――夜中。

 風が静かに吹いていた。

 焚き火はすでに消えかけている。

 眠っていたマーサルがゆっくり起き上がった。

「起きてるかレイン」

「ん〜?」

 毛布にくるまったままレインが目を擦る。

「なにさ」

 マーサルは夜空を見上げた。

「空。見てみろよ」

「なになに……」

 レインも同じように視線を向ける。

 そして。

「おわあ〜!」

 思わず声を漏らした。

 満天の星。

 空一面に無数の光が散りばめられていた。

 静かな夜の中で、それらはまるで生きているかのように瞬いている。

「綺麗な星たちだ」

 マーサルが呟く。

「ラプトはな、天体観測の町なんだ」

 懐かしそうな声だった。

「夜にはこうして星を見つめるのが一番だ」

 レインはしばらく見上げたまま微笑む。

「良い町だね」

「ああ」

 マーサルも空を見つめた。

 変わらない星。

 変わらない夜。

 そして。

「なあレインよう」

 レインは視線を向ける。

「お前は親父さんの鍛冶屋を継ぐもんだと思ってたぜ」

 レインは答えなかった。

「........」

 夜風だけが吹く。

 マーサルは少し待った。

「なあ」

 返事はない。

 不思議に思い顔を向ける。

 すると。

「(-.-)Zzz・・・・」

 寝ていた。

 マーサルは思わず吹き出した。

「フ……変わらねえなあ」

 視線を空へ戻す。

「この町も、お前も……」

 静かな夜だった。

(姉ちゃんによく聞かされたっけな)

 自然と昔の記憶が蘇る。

(星の事……)

 ―――――昔。

『なあ姉ちゃん』

 幼いマーサルが不満そうに歩く。

『星なら家からでも見えんだろ』

 前を歩くエマラへ問いかけた。

『なんでわざわざこんなとこまで』

『黙ってついてくる!』

 エマラは振り返りもせず言う。

『キースくん、はぐれちゃダメよ』

『う、うん』

 慌てて返事をするキース。

 その様子を見てマーサルは頬を膨らませた。

『ふんだ!キースばっかり..』

『何か言った?』

『べっつに』

 エマラは呆れたように笑った。

 やがて丘の上へ辿り着く。

『着いたわよ』

 両手を広げる。

『ほら、二人とも寝転んで』

『!!』

 言われるまま倒れ込んだマーサルは目を見開いた。

『へー、結構綺麗じゃん』

 頭上には満天の星空。

 キースも思わず息を呑む。

『ここからだとよく見えるのよ』

 エマラは嬉しそうに笑う。

『ね、綺麗でしょ?キースくん』

『あ……う、うん』

 キースの顔が少し赤くなる。

『その……すごく綺麗……』

『?』

 エマラは首を傾げる。

 意味が分かっていない。

 マーサルはそんな二人を見て急に立ち上がった。

『よーっし!キース!』

 びしっと指差す。

『町まで競争だ!負けたらまきわり交代な!』

『へっ!?』

 キースが慌てて飛び起きる。

『まっまってよマーくん!』

 二人はそのまま駆け出していった。

 エマラは苦笑する。

『もう……しょうがないんだから』

 ―――――──────

「(-.-)Zzz・・・・」

 今度はマーサルも眠っていた。

 焚き火の残り火が静かに揺れる。

 レインは薄く目を開けた。

 ずっと起きていた。

 星空を見上げながら、小さく呟く。

「...元気かな、父さん」

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[返信] [編集]2020 06-02 10:56 [pc]

[74] By TUINDAYO
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 街から少し離れた荒野。

 乾いた風が吹き抜けるその場所には、崩れた石柱や砕けた岩があちこちに転がっていた。

 まるで何か巨大な力によって引き裂かれたかのような光景だった。

 レインは周囲を見回し、小さく呟く。

「……荒れてるね」

 先を歩いていたマーサルが足を止めた。

「このあたりだ」

 振り返り、周囲を一瞥する。

「聖戦を生き抜いた伝説の剣神、フェルメテスの修行場だ」

 マーサルは砕けた岩へ腰を預けた。

「環境としてはこれくらいがいい。時間もないしな」

「へぇー……」

 レインは感心したように辺りを見回す。

 マーサルはそんな様子を見て鼻を鳴らした。

「早速始め……っと、その前に」

「?」

「お前に確認しとかなきゃな」

「なにを?」

 マーサルは少しだけ真顔になった。

「どうして街を出た?」

「え?」

 レインは首を傾げる。

「実はね……僕を守ったせいで、サンの大事なもの壊れちゃったんだ」

 王冠のことを思い出しながら続ける。

「それで直すために必要で……」

「本当にそれだけか?」

 レインはきょとんとした。

「? そうだけど」

 マーサルはしばらくレインを見つめる。

 だが、やがて肩を竦めた。

「まあいい」

「?」

「始めるか」

 その一言で空気が変わった。

 ────────────

 森の中。

 無数の魔物の死骸を後に、エリオとツキはラプトへの道を歩いていた。

「報告にいくぞ」

 エリオが言う。

「あーーもう」

 ツキは髪をいじりながら不満そうに頬を膨らませた。

「髪崩れた……最悪」

 指先で毛先を摘まむ。

「臭いもとれにくいのよねー……」

「仕方ない。早めにな」

「あいぁ〜い」

 気の抜けた返事だった。


──────────


 屋敷へ戻ると、バロンズが既に待っていた。

「戻ったか」

「主!」

 エリオが背筋を伸ばす。

「報告に上がるところでした」

「うむ」

 バロンズは穏やかに頷いた。

「先に食事を摂るとしよう」

「え?」

「マエストロはいるか」

 すぐに執事が姿を現す。

「何なりと……」

「食事の用意だ」

 バロンズは微笑んだ。

「とびきりの物を頼むぞ」

「かしこまりました」

 マエストロは深々と頭を下げる。

「聞いたなピエトロ。すぐに取りかかるぞ」

「は、はい!」

 慌てて頭を下げるピエトロ。

 その姿を見て、エリオは少しだけ驚いた。

「ピエトロさんはもうよろしいのですか?」

 バロンズは肩を竦める。

「なに、あやつは精神を操られておっただけのこと」

 しかしその目は僅かに険しかった。

「もっとも、キースにそんな真似はできまいが……」

「キース様に……一体何が……?」

 エリオの問いに、バロンズは短く答えた。

「昔からできの悪い奴だった」

 そして静かに目を閉じる。

「それだけのことだ」

 ──────────

 宿の食堂では、別の騒ぎが起きていた。

「おい、引っ張るな」

「えへへー!」

 グルンガの腕を掴んだエレナが笑う。

「ぐるぐる〜!!」

 ぐいぐい。

 ぐいぐい。

 遠慮なく引っ張る。

「く、悔しい……」

 ミナは震えていた。

「私のエレナが……」

「どうでもいいからこいつをどうにかしろ」

 グルンガが本気で困った顔をする。

 リッカが腕を組んだ。

「ずいぶんと好かれてるわね?」

「ちょっと、羨ましいです……」

 ルーデルはぽつりと漏らした。

(メーデル……どうしてるかな)

 一瞬だけ寂しそうな顔になる。

 その時だった。

「ご飯できたわよ〜!」

 マフィンの明るい声が響く。

「あー!」

 エレナが飛び跳ねた。

「ね、できたできた!」

 そして。

「ぐるー!」

 またグルンガを引っ張る。

「勘弁しろ……」

 大きなため息が食堂に響いた。

 ──────────

「ふんっ! むんっ! きえええええ!」

 レインは巨大な岩を抱えながら叫んだ。

「はあ……はあ……」

 既に全身汗だくだ。

「手を止めるな!」

 マーサルの怒号が飛ぶ。

「いいか! お前に足りないものそのイチ!」

 指を一本立てる。

「体力!」

 レインは半泣きだった。

「そんなこと言ったってさ……」

 岩が重い。

 とにかく重い。

「これ、重ッ……!」

「五日しかないんだぞ!」

 マーサルは容赦しない。

「これでも軽い方だ! 泣き言言うな!」

「うう……」

「気合い入れろ!」

 びしりと指差す。

「ほら残り五十!」

「五十ぉ!?」

 レインの悲鳴が荒野に響いた。

(ひ〜っ! こうなったまさるは止まらないんだよなー……もう!)

「レイン!」

「へあっ!?」

 反射的に背筋を伸ばす。

「なに!!?」

「ティールは元気か?」

「元気だけど!
……それ今聞く!?」

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[返信] [編集]2020 04-14 00:02 [pc]

[73] By TUINDAYO
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 バロンズは何かを思い出したように、ぽんと手を打った。

「おお、そうだ。レインよ」

「ん?」

 レインが顔を上げる。

「エリオットから話は聞いてあるぞ」

 その言葉に、レインの表情がぱっと明るくなった。

「それじゃあ……!」

 期待を込めた眼差し。

 だが、バロンズは申し訳なさそうに首を横へ振った。

「確かに昔、屋敷に置いてあった」

「やった――」

「おぬしには悪いが

今はもうここにはない」

「えぇーっ!!」

 レインの叫びが屋敷中に響いた。

 思わず頭を抱え、その場にへたり込みそうになる。

「どうして!?」

「コレクションとして集めていた物の一つだったのだがな。しつこくせがまれて譲ってしまった」

「どーしよ〜……」

 レインは肩を落とした。

 ここまで来れば何か分かると思っていたのだ。

 まさか振り出しに戻るとは。

 そんなレインを見て、バロンズは少し考え込む。

「もう十年以上も前の話になるが……皇国から来た者だったと聞いておる」

「皇国……」

 レインは小さく呟いた。

 父ラウスから聞いたことがある。

 遥か遠くにある巨大な国。

 自分達の住む世界より、ずっと広く大きな場所。

(遠い場所だって……父さんが言ってたな)

「力になれずすまぬな」

 バロンズは静かに頭を下げた。

「他に何かあれば遠慮なく言うのだぞ」

 レインは顔を上げる。

 何も得られなかったわけではない。

 手掛かりは残った。

「ありがとう!」

 その笑顔に、バロンズも微笑んだ。

 ――――――――――

「と、そういう訳なんだよね」

 宿屋へ戻ったレインは、皆に事情を説明していた。

「やっぱ行くしかないよ。ジュラの洞窟」

「うう……」

 サンの顔色が見る見る悪くなる。

「今から寒気がしてきたッス……」

 両腕で身体を抱きしめ、ぶるりと震えた。

「準備はまかせてください!」

 珍しくルーデルが勢いよく立ち上がる。

「おっ」

 レインが目を丸くした。

「珍しいね。ルーがやる気だよ」

「へ、変でしたか……?」

「あ、いや……」

 その時だった。

「勝手に話を進めないでもらえる?」

 ぐしゃっ。

「なんで!!」

 サンが床にめり込んだ。

 リッカの靴が容赦なく顔面を踏みつけている。

「リッカ!」

「いい加減、私の目的を聞いてもらうわ」

 ぐりぐり。

「やめてぇぇぇぇ!!」

 サンの悲鳴が響く。

 レインは額に汗を流した。

(わ、忘れてた……)

 完全に忘れていた。

 そもそも彼女の話を聞く前に勝手に旅の予定を決めていたのだ。

 リッカは深く息を吐いた。

「と、その前に改めて自己紹介しておくわ」

 部屋の空気が少し引き締まる。

「私はリッカ・エイラ」

 真っ直ぐにレイン達を見る。

「聖地ザインを抜けた先――ソレユ村に住んでる」

「ソレユ村……」

 ルーデルが首を傾げる。

「聞いたことありませんね」

「当然」

 リッカは頷いた。

「地図には載ってないから」

 一拍。

「隠れ里だから」

「隠れ里!?」

 サンが飛び上がった。

「レ、レイン!」

「サン!」

 二人は勢いよく顔を見合わせる。

「「かっこいい〜!!」」

 きらきらした目。

 少年そのものだった。

 リッカは冷めた目を向ける。

「……バカなの?」

 ルーデルだけが慌ててフォローした。

「ふ、不思議な場所に住んでるんですね!」

「まあ、そんなところよ」

 リッカは肩を竦めた。

 するとレインが身を乗り出す。

「いいじゃん!行こう!」

「楽しそうッス!」

「お宝はオイラの物ッス〜!」

 完全に冒険気分である。

 ――数秒後。

 ゴッ。

 ゴッ。

「いっったぁ……」

「ぼ、暴力反対ッス……」

 レインとサンは揃って頭を押さえていた。

 リッカは腕を組む。

「話は最後まで聞きなさい」

 そして表情を消した。

「……私達一族は、平穏な暮らしを続けていた」

 先程までの軽い空気が静かに消えていく。

「ある日、村の守り神――【センティメラ様】の祠がおかしくなった」

 誰も口を挟まない。

「それからよ」

 リッカは拳を握る。

「村のみんなが変わってしまったのは」

 重苦しい沈黙が落ちた。

「変わった……ですか?」

 ルーデルが慎重に尋ねる。

「ええ」

 リッカは頷く。

「幸い、私ともう一人、それに長老様だけは狩りに出ていて無事だった」

 そして続ける。

「長老様には未来予知の力がある」

「未来予知?」

「これから起こることを、部分的に知ることができるの」

 レインが息を呑む。

「その長老様が言ったのよ」

 リッカは真っ直ぐレインを見る。

「銀髪の少年を連れて来い、と」

「ぼくを……?」

「この辺りで銀髪なんて、あんたくらいしか居なかったから」

 実に単純な理由だった。

「だから私は力を貸した」

 リッカの声が少しだけ柔らかくなる。

「あんた達の力になった」

 一拍。

「私達の力になってもらうために」

 サンが真顔になる。

「どうなっちゃったんスか?」

 リッカは首を横に振った。

「行けば分かるわ」

 それだけだった。

 レインは少し考え――

 すぐに顔を上げた。

「よく分かんないけど」

 にっ。

「困ってる人がいるなら助けなくちゃね!」

「その通りです!」

 ルーデルも力強く頷く。

 リッカが口を開こうとした、その時だった。

「ちょっと待った」

 聞き覚えのある声。

 全員が振り返る。

「まさる!」

 扉の前にはマーサルが立っていた。

「悪いな」

 頭を掻きながら入ってくる。

「聞くつもりはなかったんだが、ドア越しにたまたまな」

「部外者は口を挟まないでくれない?」

 リッカが睨む。

 だがマーサルは気にしない。

「そう怒るな」

 そしてレインを見る。

「言っちゃなんだが」

 真顔になった。

「今のレインじゃ役に立てないと思うがな」

「……」

 リッカは黙る。

(否定しないんだそこ……)

 レインだけが地味に傷ついた。

 「そんなに頼りないかなぁ..」

 「頼りになったらきてねーっての」

 マーサルは腕を組む。

「五日」

「?」

「五日だけ待て」

 その声には妙な自信があった。

「それだけで少しは役に立てるようにしてやる」

「たった五日で?」

 リッカが眉をひそめる。

「何ができるわけ?」

 マーサルは鼻で笑った。

「こいつは戦い方も何も知らねえんだ」

 そして真っ直ぐリッカを見る。

「じゃあ端的に言うぞ」

 静かな声。

「そんな危ねぇ場所に、今のレインを連れて行かせるわけにゃいかねえってんだよ」

「!」

 リッカの目が見開かれた。

 レインは相変わらず分かっていない。

「?」

 マーサルは笑う。

「安心しろ」

「悪いようにはしねぇ」

 しばらく見つめ合った後。

 リッカは小さく息を吐いた。

「……分かったわ」

 渋々頷く。

「ただし五日だけよ」

「おう!」

「それ以上は待てない」

「十分だ」

 マーサルは満足そうに笑った。

 そしてルーデルを見る。

「ルーデルちゃん」

「はい?」

「ちょいとボーイフレンド借りるぜ」

「ぇっ!?」

 ルーデルの顔が真っ赤になった。

「まーさーる!!」

 レインが抗議する。

 マーサルは腹を抱えて笑った。

「冗談だって」


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[返信] [編集]2019 09-10 02:52 [pc]


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