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動脈
 しもつき、なな


しゅん
って鳴いたね
手をあてる、脊髄のあたり
あおくてほそいそれが静脈で
「赤いのは切ってはイケナイよ」


オリオン座は点点だ
あなたの欲は金属だ


そして求愛、怒号、羞恥心に、伝達のルールもうすんでゆく、獣その他あなたも分類されるのなら、ヒト、ヒト、胎盤にこびりついた「行方知れず」
……意識



人さえ鉛くさい
かなしいか
肋骨が
ばきばきいっているが
ほんとうにかなしいか

……血液



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夜警
 ダーザイン

風の強い夜だ
下弦の月のまわりに
虹色の光の輪を作っていた薄雲が通り過ぎる
窓辺に焼きついた油色の日々が
ガラス板から流れ落ちる

星々がさわさわ震えている

明滅する交通誘導棒を持ち
人明かりの消えはじめた
薄ら寒い夜の街角に立てば
ビルの影が微かにゆがみ
闇がほのかに光り始める

夜の精たちの
永遠のあやとり遊び

人通りがなくなると
思いはどこか遠いところへ
寂しい海辺へ
或いは
懐かしい見知らぬ景色

草原の千の舌が
湿気った夜風にざわめき
存在しない女の形をした塔が
しずかに
しずかに
燃え上がる

夜もふけて
深夜便のトラック乗りが
時たま通るだけになる
永遠の合図を待つ歩哨のように
赤い光の警備棒を振りながら
テールランプの明かりを見送ると
頭上の電線が
かすかに
かすかに
ざわめきはじめる

 あなたはどことどこを繋げているのですか
 あなたは神様のいる場所に繋がっていますか

 あなたは知っていますか
 つながれることのない手のぬくもりを

風の強い夜だ
俺のサイフには
黄色く色あせた写真が一枚入っており
きっといつまでたっても
捨てることはできないんだろうと
そんなことを思う



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rebirth
 中村かほり

 
 群青だった、

子供たちが消滅してから
どのくらい時間が
たったのだろう

道端では精密な玩具が
なにかの目印のように
落ちていた
子供の手をはなれてもなお
ぬいぐるみは
人工的な愛想を
ふりまきつづけている

 群青だった、

わたしたちはそれらを
無言のままに回収し
街のはずれにある焼却炉へ
燃やしに行く

灰となったすべての玩具が
風にさらわれ
雨にうたれれば
消滅ははたされる

焼却炉からうまれた煙が
わたしたちの記憶を
撫でては流れていく

 群青だった、

街にはゆがみが生じ
それによってできたくぼみへ
落下するのを避けるため
わたしたちは消滅が起こるたび
身体構造を変えてゆかなければならない
消滅が起こりはじめたころにくらべると
わたしたちの身体は
ずいぶん簡単なものになった




そして
生殖器

わたしたちの身体は
ずいぶん簡単なものになった

 群青だった、

子供たちが消滅しても
はらみつづけていた女は存在したが
子宮のなかにあるものがなにかはわからず
みずから炎のなかに
飛び込んで行った

子供の消滅は
妊婦の消滅であり
妊婦の消滅は
母親の消滅であり
母親の消滅は
あらゆるものの消滅だった

精密な玩具を回収し終えたら
つぎに煙となるのは
わたしたちなのだろう

 群青だった、

あらゆるものが消滅するとき
この街は
血のにおいのする煙でつつまれる

わたしたちの煙のなかで
あたらしく
生まれるものがあるとすればそれは
より簡単な身体構造をもつ
わたしたちなのだろう

 群青だった、

こうして
わたしたちは再生しつづける
これが
進化なのか退化なのか
簡単な身体構造となった
わたしたちにはわからないが
再生する朝の色はいつも

 群青だった、



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黝い手跡(あおぐろいしゅせき)
 腰越広茂


青い血で書かれた水曜性は、
万年青の実となって赤く結ばれる。
ある、いは、いつになく遠く静かな空で、ある。

店員が しきりにすすめてくる
玄関先に どうかしら
と自分に問う
がしかし 私は迷信だと思う
縁起がいいだなんて……

けれど赤い実を見てみたい
常緑なのもいい
結局玄関先に連れて来た万年青
(今日からうちのこ)


深海の重さだったね
青いヒレで泳いでいたんだ
たどりつくこともないまま
全て 変わりつづけていくね
ここはどこ (
世界の。)(
真空の静脈でつながれている)
波が黒い船を浮かべて
未踏の地を探し求めてしまう
孤独なんだろうか
( 、大空をあおぐ深海魚
噫)!


不自然な雑音もきこえてこない
仄明りの部屋で黒光りする
万年筆が ブルーブラックのインクを
黄金のペン先から伝えたのち
園芸日記に あたらしい名を記す
そ、れは〈未通過の自転車が輪舞する水曜〉
あるいは〈無名骨〉と、いう
私はまだあの子のことは知らない
これ、からだ


※ふりがな。万年青(おもと)、雑音(ノイズ)。
※万年青(「おもと」又は「まんねんせい」という名称。)→ユリ科の多年草。



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難破
 漆


私の目が空を青く塗るのだろう

右の人、貴方の位置は「隣」なのである

嗚呼なんと、架空の空気を欲しがる此のラジヲ!銃口は幸福に死す、と走り書き
微禄の後光に非力を!時代背景は天鵞絨の全盛期と云った処か
なげしに磁場、戸籍から小出しして逝きたいのだ、そうだ
なけなしの天稟のかど布は擦れ、わびし忘れ逝くのだ、そうだ
彫琢を肥えるほどに禿げて明く追憶が
凋落を示唆し慈辞する夢の愚かさよ!


汗に抜かれた
目だけの私は



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揮発
 島野律子


はがれた皮膚を固める液の中に溶かしてしまった待ち時間を惜しむだけの陽気の悪さがない割れた枯葉のはまる窓枠近く早くこすり落とすようにと渡ってくる艶だらけの空を食い尽くす掌にも要りそうな膜をかぶせた爪の先からたれていく水が冬の空気の前で気後れする肩の姿勢で土に落ちて風のないときがあったみたいな顔つきをした道から近いねじれた電線の進む先が来た方角だからよそものじゃないんだとやっと残ったぬかるみに半分足を差し込み林の幅を越えた所にも曇りは続いているのに迷ったと骨が燃えている上でちたちた群がる小枝のはりついているあたりまでも人の背はなくここにある渦には湧かないねばりを振り出す髪になっているかもとはねあがってつぶせない冬にあるドアの先ですれちがえるように向いた幹が見えている。



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オリオン
 5or6
 
オリオンの胸
包容する許容
交差する姿に
二人の距離に

運命と永遠を祈ろう

休まない月の重力に満ちて寄せてく静かな海の音の中

まわりの恋人達も羨むようなキスを羨むようなキスをキスを波の内側の泡を包み込むようなキスをしよう

心臓と

心臓が

まるで星座のように明るく光れば

二人の胸はあのオリオンの胸のように包容する許容する交差する姿になって

二人の距離も忘れる運命と永遠を祈る吐息と共に

あの腰が

あの腰が

七つの海に溺れるくらいにうごめくんだ

綴って
愛しいきみよ

(オリオンの胸に抱かれたい
ずっとそばにいたい
あなたが見落とさないくらいに私は溺れながら輝き続けたいの)

ベイビー

心臓と

心臓が

まるで星座のように明るく光れば

二人の胸はあのオリオンの胸のように包容する許容する交差する姿になって

二人の距離も忘れる運命と永遠を祈る吐息と共に

あの腰が

あの腰が

七つの海に溺れるくらいにうごめくんだ

 


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route finding
 雪村はねや

すりぬけるような猫と
この街の青色を愛す
宵空に翻るのは猫の影だ
あたしの祈りは
うずもれて
ぱらぱら乾いた砂になる
憂愁のロウラ、
あなたの
デザートローズに舞い降りる
やわらかい、埃
憂いときらめき


愛しくださいという歌声に
あなたの愛は短三度で
ふんわりと重なりました
あたしにも雨が降るでしょうか
優しい雨が
あたしの瞼にも
額にも
舌の先にも

永久に潤うのでしょうか
この大地は
そのために衝突し合うのでしょうか
形の異なる大陸は
刃物が擦れる音に似た
プレートの境目に
色とりどりの旗が翻って


君のトリニティ・テスト
初めてだった、
という響き
睫の下で融解をはじめる

密やかな訪れと別れ
抑圧されたグレー
爆音と入道雲にふくらがる
涙と一緒に失ってしまえると、
何処かで教わったよ

そんなに
かなしい表情をしないで
そのうちに黒い灰は流れるから


あなたを愛する前にまず
言葉を乗り越えて
灰色の活字の海を乗り越えて
抱きしめてさせてください
もしくは
愛している、と動く
くちびるを見つめてください
何もいわないでただ、
人差し指で触れてください


潤うのでしょうか
この街は
海辺のロウラが泣いている、
遠い国からの、色あせた日報で
やっとその事件を知りました
あたし、急いで走り出さなきゃ
泣いているあの子に間に合わない
どの場所であれば
届くのだろうか

いま臨界点をすぎたばかりの
地核のため息に安らいでいるの
ただの、この日のちいさな、
安息吐息をだきしめている


「いつ」を映写機にかけていた?
十字路の青い影
きみの猫は
街に抱かれて見上げているの
笑い顔
泣き顔
無数の国旗がきらめいていて
それだけを、
瞬きして見つめている

ぼく、という響きから
あたし、という代名詞までの
ほんのわずかな、わずかな隙間



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