月刊 未詳24

2010年3月第36号


2024年04月26日(金)21:33


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あなたという夜空をはじめるために
 丘 光平


壁にはりつけられた絵の中央で 
夕暮れの丘に立ちつくすあなたは 
きざみこまれた薔薇の日傘をさして
そのしずかな微笑みにとじこめられたまま
出られないでいます、そして


まだいちども沈んだことのない太陽が 
その火をたやさず もうずっとあなたを照らしつづけて

あのちいさなふたつの黒点は
きっと 輪を描くことりたちです、羽をいたわることをわすれて
もうあなたがみつけられないほど高い空を 
啼きながら巡りつづけています


 たとえば春、とどけられた厚い手紙の 
封を切るその前にたしかめようとして
雨ににじんで読めない送り主の名のように、あなたは
そのしずかな微笑みにとじこめられたまま


いつ帰るともしれないこの夕暮れの丘で 
みつめることのよろこびにふかく堪えながら
身動きできないでいる あなたという夜空をはじめるために
流れつづけてきた星たちが 
いま燃えてゆきます




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外の光
 木立 悟






雨が呼ぶ窓
水の白と黒
声は遠く
夜に架かる


はざま径 音
敷石 外灯
暗がりの上
鳴りつづく光


曇の溶ける先
波の終わり
忘れかけたつながり
午後の並ぶ夢


原に立つ音
粒のなかの音
すぎるものは水
請われつづけて


明るい洞の前
浮かぶ幼い樹
街と岩と原と海
切り離せぬまま夢みられている


静かな文字が降る
菓子の冷たさ
角を曲がると居ない
歌を抱いたままの影


外から
なぞりつづけている
窓のかたちを
教えようとしている


雨にまぎれた
わだかまりの真うしろ
指に重なる
光の指を描いてゆく








































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春季発動期
 吉田群青


一時限目
電線はノートの罫線のようだ
背景は青空よりも白い曇り空の方が似合うな
そんなことを考えながらぼんやり窓の外を眺めていた
陽はさんさんと射して
窓外の木の下に出来る影が
水たまりのように青く見えていた
クラスメイトは魚のような顔で声をそろえて
さ・し・す・する・すれ・せよ
さ・し・す・する・すれ・せよ
と何度も繰り返している
ふと前を向くと
ちょうど後ろを振り向いていた女の子と目が合ったので
黙って微笑み合って

その子の名前は知らなかったけど
髪に精液が付着していたので
なんとなく あ ともだちだと思った


二時限目
突然翼が生えてしまった女の子が
きひひひと高笑いをしつつ
教室の窓から飛び立っていった
彼女は空高く舞い上がり
あっという間に見えなくなってしまった
あとには
むっと濃く繁った夏の日の森みたいな
青臭いにおいだけが残っていて

あの子これからずっと
あのつめたそうな青空の中で
一人ぼっちで
羽ばたきながら生きるんだろうか


三時限目
眠たがる女の子や男の子の頭から
ぽわんとしたものが発芽して
色とりどりの花を咲かせてゆく
わたしの頭からも何か芽吹く気配がしたので
眠りこまぬように目を開いた
右斜め前の席の女の子が咲かせている花から
ふわんとした胞子が飛んでくる
ひとつでも吸いこむと
その女の子になってしまうから
慌てて息を止めて前を見る
教科書を読んでいる先生は
眠りこんでいる一番前の席の男の子と
同じ顔になってしまっていた
どうやら吸いこんでしまったらしい


四時限目
おなかが空いた男の子が
隣の女の子をめりめり食べている
女の子は少しの間
やめてよとかなんとか言っていたけど
そのうち静かになった
見ていなかったから知らないけど
全部食べられちゃったんだろう

見つかったら自分も食べられちゃうから
わたしたちはみんな目をそむけていた
男の子たちの口の中は例外なく
何か恐ろしいものが潜んでいるかのように
どんよりと黒い

血のにおいがする

あとでちらりと見てみると
あの男の子の足元には
リップグロスのたっぷり塗りたくられた唇が
ぽつんと吐き捨てられていた


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朝へ
 腰越広茂


果実はさやかな絶望をうしなった
あの日
果物ナイフの反射が映る
ひとみの淵にひとり青ざめている
またたきの一瞬
すべてを打ちよせた波に
月光はさえかえる
とうとう真夜中に

あれくらい約束を
まもる遠さは居なかった
消えることのない影の温度だ
おもい出は再び目覚めなかった
もはや、これだけだ
光よ!

かたくとじられた
まぶたに映る
暗黒のとりがとびたち
いついつまでも暗く種子を
みおろしている
ご存じでございましたか?
        ご存じより

今夜も星がみえるよ
みているかあなたも
地表のぐだぐだぐにゃりを
いつかの反射は
研ぎすまされるばかりに
ギラリ
冷たく果実を刻む
朝日のさしこむキッチンで



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海へ
 サヨナラ
 

名前しか知らない女の子と海へ出かけた

その日は
朝から少し寒くて
女の子はベージュのマフラーをして現れた
海へ行くんでしょ?
そう言うから僕は
海へ向かうことにした


海は穏やかな
細い細い線を
浜辺に送り続けていた
車のドアを閉める音
砂の上の足あと
確かめるようなため息
マフラーと白波が
重なって
女の子の首だけ
ぽつんと
浮かんでいるように見える
空はどこまでも
突き抜けた色で
他に生き物がなくて
ほっとしたようにも見える


遮ったものは
女の子の黒い髪
僕に
名前を教えてくれた
たったひとつの予言
初めて出会って
たどり着く前に
そこは海で
僕は女の子の名前を
ドア閉める音
砂のベージュ
朝の寒さと色
確かめるような足あと

ため息

送り続ける白波



海へ行くんでしょ?
名前も知らない女の子
風で靡く
その黒い髪が
たったひとりの僕を
教えてくれる




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ひだまり
 丘 光平


鍵をうしなう老人の
ちいさな沈黙のように
のら猫が
丸くなっていた

 目覚めをこらえながら
ときおり 丸くなっていたその四肢が
小刻みにさけび
いのりを持たない身軽さで
ひとりでに空を斬る

そして
産み落とされた子猫のように
春の乳房をかじっていた
午後三時

 散りつもる
梅を焼くひだまりの
いちどきりの膝に
白いぬくもりをのこして




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