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月の尖り
 島野律子


川に落としたとげの向きが、月の尖りと重なるはずがない。今日は血の臭いがする柵に寄りかかり、役立たたずの隙間から腕を出す。ここに落ちてくる鳥が、きっといる。肩の向こう、あの一つ残った実は誰にもまずい。剥き出しの実の色だけが上がる空だって食べない。道も、いつも。でもきっとここに、ここに落ちてくるあったかい鳥はいるんだ。重ならない手から、川に流れていかないようにと願うだけ。川底には石の揃った気配のある音がしている。月もない川に落ちていくものはない。ついた膝にみっしりと湿気は取り付き、もう季節じゃないと足の筋を硬くしていく。剥き出しの実の皮の形に、削り落とされても。ここで待つんだ。残されたから。





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跳躍
 鈴木
 壁
 のひび割れを
 空がうつろっていく
 に
 なりたい
 あるいは気付いてほしい
 私の複眼で
 午前二時に佇む九段の鳥居は灯りを探し
 一千里先で蛇が
 黒光りをもって抜け殻に感謝している
(あらしめるものへ
吐息を少し)
 彼は毎昼
 太陽を凝視する
 数秒で眩しく目を離し
 残像に惑って獲物を逃す
 痩せ細り息の絶え絶えに
 砂をかんで明日に笑う
 鳥居よ
 君のまたぐらは
 何を通さないのか?
 海抜で測られる高度より得た油脂で頬ずりしてくる星々を叩き割った欠片に映る雲間から差し込みたい、あるいは雨でしとどにしてほしい、私の薄羽を、共に川へ流れ込み鮎に突かれ細分する頃には新しい脱皮の時節、
「かあさん」
 と
 絶叫する
 を
 抑えて
 吐息を少し
 にじみ
 外縁に並ぶ木々がつぼみを膨らせはじめている、まもなく開き、風の強い日に散りきって地面を覆うだろう、こすれば一枚いちまいの境界がほどけ薄黒い有機体と化し、口に含み転がしていると舌触りも滑らかに腐敗臭の中で微かに桜のにおいがして私は花弁に戻っていく
 部屋に寝転がっている

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四季の、けもの
 腰越広茂


並木道は遠い空に凝立し
刻刻と外縁する静寂の列柱

冬枯れの枝に蕾のきざし
風光るまなざし
光繁る青葉
うつむいて秋晴れ
めぐるのは時ではない

螺旋する火の罪が現象する深い森の霧へすすむと
閉じられた唇が
密やかな眠りを告白しつづける
無口な生きものの耳がざわめき
広がりをもつうす闇で泉が澄みわたる
暗かった羽たちはいつまでも燃焼の死を知ることはなく
いっせいに羽撃きあおざめていく空へ

終焉の始まりに実った星を狩る娘を
羊歯が青い息で食み出す無重力の栄螺へ
渦巻いている道はどこまでも暗く幽かな無音を孕みながら
四次元を旋回している

研ぎ澄まし


※(ふりがな)羊歯(しだ)、栄螺(さざえ)

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frog
 田崎智基


、と言うことから、自由な足先が針になった、が自由だった、と感じたことはない理由は知らない。炊飯器は蒸気口が閉じられているから、蓋を開けたのは必然の、服の着脱だって。煮え切らない垢を線切りにしている彼女は時を知らない絨毯がどこかで点火される。夢で遊ぶことを、私は詩は、グロテスクだと言って、明らな地点を明らかに、ストレスレスなfrogを仮定した勝手は笑われた。疲れていたので、足が不自由だと事実として言った、時にもうそこに居なかったfrog。

有機の、声は交換する度劣化していく音楽性の違い。さいわい私は滅多なことがない限り私だった合図を受け取っていたのは。かつて住んでいた煉瓦が同じように腐敗しないことを前提に解釈し合う。私は以前も以後も、私と呼ばれ、frogと呼ばれはしない。おいfrog、声を上げろ。どこかで期待していることを羞恥して没頭している振りをする、彼女の足音が、べたべたと聞こえる、不安がっても。両生類はくずきりの中では、生きられず壁に耳を当てると、激しく濁ったくしゃみでfrogは警戒し、膨張し急いで私の足を触って逃げていく、毛布。

うるさい、何も聞こえてないはずなのにそう感じる、体育座りの心地良さ。




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ネジ台通り
 佐々宝砂


サンバのリズムで彼女は案内する、
タ、タ、タ、ターンタ、
広がるフレアスカートは真っ赤、
熱気のみなぎる裏通りは、
これでも充分には裏でないらしい。
粘っこいグリースの臭い、
不意に鼻をくすぐる香ばしいコーヒー、
売り子の声、声、声、足音、足音、足音、
タ、タ、タ、ターンタ、
もしかしたらサルサのリズムかもしれないがよくわからない、
とにかく四拍子なのは確かで、
ネジ台通りにようこそ!
叫んでいるのは売り子だけではなくて、
叫んでいるのはネジ台通りのすべて、
緑、黄色、赤、青、
色彩のすべては原色で、
目眩を起こした三半規管をさらに震わせる声、
斜めにおいで!
まっすぐ歩いていたら、
ホントのネジ台通りにゃ行き着かないよ!
むっちりした彼女の二の腕に掴まってよたよた歩けば、
粘っこい生ゴムの臭い、
誰かが揚げてるコシーニャの匂い、
彼女の烈しい笑い声、
人間はまず喰うことさ!
すべては喰ってからの話さ!
脂ぎってねとねとする屋台に寄り道して、
指を汚して喰うパステウ、
辛すぎるアヒー、
ホントのネジ台通りに行きたけりゃ、
まっすぐ前を見ていちゃだめさ、
そうさ、そうさ、
タ、タ、タ、ターンタ、
斜めにおいで!





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曜日知らず
 イシダユーリ




帰り道にある3つの丸い車止めに座ってる
タイルの街並にタバコの灰をおとす
それが恋のはじまるおと

あそこにみえる
ふとももに私と同じジッパーを持ってる彼女
声を かけなくちゃ

タイルの街並、昔のお風呂、水色のタイル、冷えちゃうでしょ、すぐに、

だから はやく


  ね、そのジッパー私と同じやつ!
  私のは、みて、二の腕にあるの.
  この色、あんまりないでしょ?


夢の中で
ポテトチップスを2袋
君の分まで全部食べた
芝生をぶちぶちやって
自然だってべたべただよ

夢の中で
セーラー服で待ってるよ
白いすそを汚して
僕のタイは血豆色


わすれないで



  私、自分と同じジッパー持ってる子とはじめて、会ったの.
  あ、犬にならあるんだけどね.
  そういうんじゃなくって、はじめて、なんだ.

  ね、だから、すごいことだから、一緒だから、ふたりっきりになろう
  よ.わたしたちについてるジッパーは開けたって、なんにも、でてこ
  ない.だから、ね、ちょっとだけ.


  なんて呼べばいいの
  カタカナで教えて


彼女ははじめて オートミール って言った. 笑ってくれた.

  オートミール、あそこの路地で、わたしにほっぺをさわらせて、口を
  あけたりとじたり、してみせて.

  ジッパーはなぞらせてくれればいいの.

オートミール うなずいた

オートミール わたしはいつかあなたにうんざりする
同じジッパーだから
そこだけ同じだから


  だから最後に オートミール オートミール  わたし. オートミール



その夜、ベッドの中で、丸くなると、二の腕がひきつった
オートミールが気持ちよくなってる
口をあけたり、とじたりして、違う場所でないた



  夢の中で、
  僕はスカートをはいてない
  めじるしは血豆色のタイ


  わすれないでいて





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無題
 ちよこ

出来るだけ出来るだけ
蝉を真似た
やさしいこえで
お話しができるといいです
波打つ雨は
私の中の
とくにひとみのあたりを成立させている水分なんかと
シンクロして
まばたきあって
浮かび上がらせてしまいますね
ほら
そんなに空を
忘れられないなら
お泣きなさいな
還るほどに

何時だって
こえを出していたいのならば
高い気圧で押し寄せる
あの山から
あの方の視神経
きりきりと生成した空気に
しっかりと
しっかりと混じって沈黙は
骨盤のあたり
毛穴という毛穴から
なぞりだしますね
まるで涙は
翅たちを
(ころしてゆきますから)

喉を渇かせるのは

(忘れ、忘れ、れ、れ)

そういう
体液たちが

その
欠け始めのてのひらを
何時かすきとおるほどに
そっと
結び返していただけたなら

そろそろ梅雨が
梅雨が




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ハンサムなカメラ
 漆子


暁星にみた夢に雨が降り
おおきな蟻のように地を湿らせている
むなしい粉末の一攫を肉の中で
宝物の無い馬車で
あたかも旗亭の夜の生成りをして
まぶしく細めた目を布団で覆います

別格の意識は渦動に抱かれて
はたはたと毒性を帯びている
夢だ! 目をこすり
催眠の靴を舐めている
これは明日の記憶だよ

碗に差した採光の色彩は
おびえる成虫のふるえる営みは
明日があなたの喪心に加えた汗
科白の 加筆の あらいあらい鶏鳴の床に
ゆれる記憶の睡魔のかたちをとらえた

夢に降る雨を布団で拭い
暁星に催眠をみじかく唱える

「まっすぐふるえるからだだろうか」
「いいえあなた
 明日は横にのびているのですよ」





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