第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


審査員選評



只野凡人

第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦 総評


応募総数の割には力作が多く、
悩みに悩んだ一次選考から本選考までで、
印象に残った作品の感想を述べていきます。


・「六月を雨に少女の祈る」
森下ひよ子

まず詩中の世界に入っていくまでに、かなり苦労しました。
けれど一度入ってしまえば部分部分で「ピピッ、ピピッ」と来るものがあり、
途中で遂に来ました鳥肌センサー。
ゾクゾク、ゾワワワワーッと。
私は詩を理論的に読めるほど詩の理論を知っているワケではないので、この作品の何処がどう具体的に良いのかは語れないのですが、
テーマといい、何かしらスケールが大きく、溢れるような作品だと思いました。
長く余韻に浸れたのも嬉しかったです。


・「水葬」
谷竜一

実は一次選考の時は、この作品の良さがよく分からず、
他の審査員の方々は推しておられるのだけども、私としては「うーん…」と迷った末に推さなかったのですが、
一次選考から1ヶ月過ぎ頭を冷やして読んでみれば、
「なるほど!他の審査員の方々が推挙したハズだわ。落とした私ってバカ」と自分の未熟を恥じた作品です。
一発KO的な派手さは無いのですが、ボディブローみたいにじわりじわり効いてきて、
いぶし銀のような味のある作品だと思いました。


・「一杯」
イエローのこねこ

一次選考で一番悩んだ作品です。
初読感は「禅問答のような詩」でした。
悩みに悩んだ末、一次選考では見送ったのですが、本選考を終えた後も妙に気になっています。
思うに、センスが良いと言うのか、行間の使い方が抜群に上手いです。
ことばが行間に何重にもこだまして、読後の余韻を何倍にも増幅していると思いました。


・「無題(1)」
たなか

技術は全作品中、指一本抜けているのではないかな?と思いました。
ただ、技術がずば抜けているだけに、情感が無機質で乾いた印象になってしまったように感じました。
傷の無い大粒のダイヤモンドを精巧にカットして、丁寧に丹念に磨いたような詩だと思います。




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只野凡人

・「百日紅」
中村めひて

ちょっと読後感が物足りないのですが、
読みやすく、情感の生々しさが佳いです。
ある種の生臭ささえもが美しく表現されているので、
審査員特別賞に推挙しました。
良くも悪くもバランスが良い作品だと思います。


・「私たちは素晴らしい箱の箱の箱の箱の箱の箱の箱の中にいる。」
香瀬行鵜

文句無く、ユニーク!です。
ユニークさでは文句無いのですが、
あまりに長すぎて、「スナクジラ」以降の二巡目は退屈してしまいました。
書き手としては、「ユキクラゲ」と「スナクジラ」で一対になっているのだろうと推測するのですが、
読み手としては、ヘトヘトになった作品でした。


・「ららら」
七瀬俚音

一次選考の時は「ユニークさと軽快さが良い。面白い。でもラストを悪魔って単語ひとつで終わらせたのは残念」と思ったのですが、
本選考で読み返してみると、ゴツゴツした印象。
たぶん単語に内容を収束しすぎたのが原因なのではないか?と思いました。


・「マッスル・ドッグ」
七瀬俚音

個人的には「ららら」の方が好きなのですが、
「ららら」とはタイプも違うし、完成度はこちらの方が上だと思い、
一次選考では残しました。
けれどやっぱりゴツゴツしている印象です。



・「水を捨てる」
宮下倉庫

巧いですね。
特に最後の「半券」の部分がとても効果的で良いです。
捨てたくっても捨てられない(あるいは捨てたくないけど持っているのは重すぎる)「モノ」は誰にでもあって、
それが「水」や「半券」なのかなぁと思いました。
捨てればラクになるのかもしれないけど捨てるのは容易でなく(もちろん嬉々として捨てれる「モノ」もあるのでしょうが)、
やっぱり捨てることは切ないです。
「こんな捨て場所があったら、私ならどうするだろう」と考えてみたり、
作者の心情から離れて、
いろんな読み方ができる詩だと思いました。





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只野凡人

・「でたらめ」
泉ムジ

ユーモラスで愉快な詩ですね。
第三者(にゃん太郎)の目線から、前の住人と今の住人を対比し、
第三者であったはずのにゃん太郎が、男の書いた「でたらめ」の世界に心ならずもシンクロしてしまうこととか、
「不愉快」「こんなでたらめは許せない」と言いながら、男に好意を持つこととか、
あちこちに仕掛けられた諧謔を存分に楽しませて貰いました。
欲を言えば、にゃん太郎が男に惹かれていく心の変化を、もう少し掘り下げて欲しかったことと、
最後の方、にゃん太郎目線から男の目線に移行した時ことを、書き分けて欲しかったな、と思います。


・「獣の死」
島野律子

島野さんの文体は、シャープなイメージが強かったのですが、
この詩は、熱が圧縮されて、くぐもっているようでありながら、寂しくもあり、
島野さん特有のスタイルの詩の中で、何層もの、こころの乱れを味わえました。
ラスト部分の力強さが印象的です。


・「海が見たくなった時のこと」
吉田群青

魅力的ですね。
技巧的な上手さというより、何かしら惹きつけられる魔力のようなものを持つ書き手(の内の1人)だと思います。
ただ、この作品に限って言えば、強度が足りないかな?と思いました。


・「終わらない夏」
流川透明

個人的には好きな詩です。
夏の蒸し暑さを体感できるし、怒りや焦りや苛立ち(或いは絶望か虚しさ)、そういった感情も詩中のそこかしこに感じられました。
ただ、「夏が終わらない理由」と「夏を終わらせる方法」が分からない。
(七月二十日と八月三十一日という日付から、単純に「夏休みかな?」とは思ったのですが)
詩中で全てを語る必要は無いものの、説明的ではないヒントを少し織り交ぜてくれたら有り難いなぁと思いました。


・「いくつかの夜」
Ar

どこがどう印象的というワケではないのですが、
読後の余韻が、美しく印象に残った詩です。
思うに、詩の空気がとても佳いです。
読んでて心地よくなりました。
ただ、

>わたしたちは振り返えらない

「振り返えらない」。
このたった一つの送り仮名の間違いが、残念でたまりません。



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只野凡人

・「before dark , before daylight」
いとうかなめ

流麗な詩だと思いました。
タイトルの如く「黄昏前、暁前」に夢の中を歩いているような感覚。
それが故なのでしょうか、
ぼやけているような、切れ切れに浮遊するような、どこか遠い目線が、
ラストで焦点を結び、目覚めたという感じでした。
そのラストの鮮明さが、とても美しいと思います。


・「木陰」
田崎智基

新しい手法で書いてみようと思ったのでしょうか。
句読点ひとつひとつからして、敢えてリズムを外して表現しようと苦心なさったのではないかな?と思いました。
ずらした句読点から生じる違和感が狙いであれば、この詩は成功したと言えるのでしょうが、
私としては、すんなり読みたかったです。
筆を抑え、無駄を削ぎ落としたかのような、詩自体の、
穏やかではない感情が見え隠れしながらも、
静謐で、どこかしら明るい雰囲気は、良いと思います。


・「こぼれおちる中にたったひとつだけ残されるものがある」
ホロウ

前半部分は主人公とユウの交流が詳細に描かれており、
私はユウという少女が大好きになりました。
そう、「おかしくないよ、ユウは」なのです。
無垢の化身のようなユウが、意図的なのか無意識なのか分からないほど、自然に表現されていて、
前半部分は見事だ!と思いました。
ところが、主人公が自殺して生き返ると、ユウが身代わりで死んでいる。
この後半部分のテンションが、ガクッと落ちて、前半が魅力的だった分、余計に物足りなく思える。
(意地の悪い見方をしたら、後半部分は疲れて端折ったかな?とも)
作者にとっては予定通りの展開なのかもしれないけど、
後半部分も前半部分と同じテンションで書いて欲しかったな、と思います。




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只野凡人

・「君は害虫」
しもつき、七


何故、こんなに絶望的で切ないのだろう、
と思いました。
一見、リビドーに即しているようでありながら、実はリビドーが不在なのではないかな?とか、
少女期特有の多感な矛盾を感じました。
多少、ことば足らずな部分があっても、流れや雰囲気で読ませてしまう(読んでしまう)。
で、何となく分かったような気になる。
そんな風に書けることは、ある意味、凄いと思います。
現時点では、技巧にこだわらず、のびのびと書いてほしいと思います。


・「質りょう」
腰越広茂

なぜか「宇宙」のイメージ、です。
抽象的だからかな?と思えば、そうでもなく、
ひとことひとことが、「これでもか」というくらい選りすぐられているのに、
やっぱり抽象的な感じがするのです。
思うに、「ひとこと」のインパクトが強すぎて、結果的に「想い」を殺してしまっているのみならず、
ひとことひとことのイメージから「宇宙」なのかな?と。
敢えて「想い」を生々しく出さないことを意図したのであれば、この詩は意図通りなのでしょうが、
もう少し強く「想い」をにじませた方が良いのではないかなと思いました。
けれど、>それは帰れない真夜中だ
>波間のの君よ

から最終連は、
とても美しいと思います。


・「卵を、」
ブリングル

一時選考の時は、直線的なことばの強さがいいと思いました。
初読で目を引く詩です。
ですが、本選考の時には「平坦」だな、と思い、
感想を書いている今、
正直に言えば、「何十回も読み返すと飽きてくるな」が、本音です。
決して筆力が無いワケではないので、
もっと深く、感覚の触手を伸ばしてみて貰いたいです。
深さが出できた時の詩を、読んでみたいです。


・「Soundscape」
はらだまさる

短編小説の中の「詩」を、読んでる感覚でした。
書き手としては、全てを余すところ無く書き尽くしたい、そして(この詩に限って言えば)、流れの中の細部が大切なんだ、ということは分かります。
よく書けている。どこも省けない。
それを承知の上で、敢えて言います。
「私が詩に関わってなければ、スルーします」と。

香瀬行鵜さん然り、
「力作だ。良い詩だ。」と分かるだけに、
素人に近い読み手である私はいつも葛藤します。
「読み手が長さで疲れてしまう詩は、如何なものか」と。

もちろん、御自身のスタイルを貫かれることに何ら異存はありません。
ですが、良い詩であっても、何十回何百回、繰り返し読むのはしんどいと思う読み手も居るんだなぁと、
頭の片隅にでも覚えていていただければ幸いに思います。



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只野凡人

・「針の風、凪の檻」
鈴川夕伽莉
・「桜の花の咲くころ」
草野大悟

一次選考で最も動揺し、冷静に読めなかった二作です。

「重病の我が子」
「重度障害の妻」

印象に残らない筈がなく、
けれど果たして「詩」として印象的なのかが分からなくて、繰り返し読んで、何日も悩んで、それでも分からなくて、
最終的に『智恵子抄』を再読して、
やっと決断した詩です。

「針の風、凪の檻」
は、不思議なほど静かです。
悲哀や怒り、苦悩が、諦めにも似た静けさの中に見え隠れしつつも、
慈しみ、愛しむ。
その静けさ故に「詩作品」としての完成度が高いと思います。
一次選考では、熱量不足に疑問を持ち、
静けさ故の「詩作品」であることが分かりませんでした。
そんな自分を恥じつつ、
一次選考で推挙しなかったことを、
お詫び申し上げます。

「桜の花の咲くころ」
は、ストレートで正直であるが故に、こころに強く響きましたが、
そのストレートで正直な記述が、「詩作品」としての完成度をいまひとつ下げていると思いました。

余談になりますが、
「障害者の詩展」に芸能人を含め多くのひとが訪れた、というニュース、
十才の余命いくばくもない少女が病床で書き続けた絵と詩が、少女の死後、絵詩集(だったかな?)として発行され、二十万部売れたというニュース、
そんなニュースを聞く度、
疑問に思わずにはいられません。
障害があるひとが書いた詩だから展示会になるのか、
その詩を、詩として素晴らしいと思うから展示会になるのか。
十才の少女の詩は、実際にテレビで紹介されたので少し読んだのですが、
詩としては素晴らしいとは言い難い詩でした。
生きたい想い、希望や絶望、怒り、苦しみ。喜び。
障害を持つ方、余命いくばくもない方、
そんな方々の「想い」は切実で、胸を打つとは思います。
けれど、五体満足で生きているひとびとにも、
いろんな「想い」はあるのです。
私は、障害のある方、余命いくばくもない方、五体満足な方問わず、
詩として、素晴らしい詩を読みたいです。
(もっとも、何を素晴らしいと思うかは、ひとそれぞれ違うのでしょうが)

「針の風、凪の檻」
「桜の花の咲くころ」
この両詩には、
多くのことを考えさせられ、学ばせていただきました。

有り難う御座います。



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只野凡人

以下、選考には絡みませんでしたが、個人的に気に入った作品です。


・「オーケストラ」
水瀬史樹

コミカルなタッチとスピード感、シッチャカメッチャカな慌ただしさが、
面白くて良いと思いました。
タイトルの如く「オーケストラ」バトルバージョンの詩なのですが、
思い浮かべたのは、大都会の朝の通勤ラッシュです。
よほど激しい曲を指揮しているんだろうなぁと(登場する武器にたじろぎながらも)、深さや情感などを気にせず、ただ単純に楽しく読ませていただきました。


・「交通誘導涙賛歌(こうつうゆうどうるいさんか)」
菊西夕座
・「厭になります」
古月

共に「生活苦」を詠い、リフレインを多用して強調しながらも、
正反対の印象を持った作品です。

「交通誘導涙賛歌(こうつうゆうどうるいさんか)」は、
まず、ひとことひとこと区切ることで、リズムの良さが際立ち、思わず鼻歌で歌ってしまいそうな感じです。
主人公の過去の在り方がサラリと語られ、今はなりふり構わず働き、生活するだけの日々。
重く悲惨に書こうと思えば、いくらでも書けるだけに、
敢えて重くせず、
俳句を思わせる「軽み(かろみ)」を含んでいるところが良いと思いました。

「厭になります」は、
一見「軽み(かろみ)」があるようでありながら、
よくよく読めば、かなり重いです。
内職の白い花だとか、美しいアイテムの下から見えるのは、
「涙」であり、「嘆き」であり、ほとほと疲れ果てた虚しさです。
ですが、ただの「お涙頂戴もの」になっていないところが良いと思いました。


個人的に、どちらの作品にも共感します。


・「魔王、出撃す」
・「おれの危機」
さとうしお

おそらく、かなり書ける方だと思うのですが、
今回のこの二作品は、心底笑わせて貰いました。
浅いようで深く、
荒唐無稽なようで筋が通っていたり、
思い切りよくナンセンス。
と、そんな解釈は抜きにして、
とにかく痛快でした。

二作とも大好きです。
ありがとうございました!



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只野凡人

さて、
今回の企画では、
自分で分からなかった私自身の詩の好みが分かったり、
その他諸々、多くのことを学ばせていただきました。

第1回「21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦」に作品を御応募下さった全ての方々に、感謝します。

有り難う御座います。


そして、
お忙しい中、選考にあたって下さった審査員の方々に感謝します。

有り難う御座います。


特に、
システム面で、この企画を支えて下さったゆうなさんには、
本当にお世話になりました。

有り難う御座います!



これにて、ひとまず筆を置きますが、
いずれ改めて、他の審査員の方々が一次選考で推挙なさっておられた作品について、触れていきたいと思っております。

ほぼシロートに近い読み手として、
拙いながらも、いろいろ感想を書かせていただきましたが、
私の感想に対する御意見などございましたら、
いつなりともメールフォームより御連絡下さいませ。

宜しくお願い申し上げます。



心から感謝しつつ
只野凡人 拝




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